過去

 誰よりも早く行くことが目的であった、保育園。

 避難訓練の際、赤白帽をかぶらないとダメだと勘違いをして、かぶって避難。帰っていないにも、戻ったと指をさされて、先生に名指しで笑われた。

 見せられたのはいいものの、身に覚えがなくて、反応に困った映像。

 映像作品が怖くて、目をそむけてばかりいた、ビデオの鑑賞会。

 給食を給食センターに直接返しに行くために、わざと遅く食べ、なかなか皿を返さなかったこと。

 水に顔をつけることすら怖くて、カナヅチであったプール教室。結果的に泳げるようにはなったけれど、プールカードを毎年のように紛失して、練習したという事実を皆に認められることはなかった。

 空き地や森に作った、秘密基地。手にとったどんぐりや、鬼灯。皆で集めてシャワーのように降り注げた、紅葉。


 時が経っても心に残っていることがあると言った。

 それは本当だけど、半分は嘘だ。

 一枚の絵として残った記憶。だけど、その詳細は曖昧で、ぼやけている。くすんだ色合い。薄っすらと滲んだ輪郭。

 あの場面に味わった感情も、痛みも、肌ざわりも。

 それらを思い出すことは、もう二度とない。

 完全に過去に切り替わってしまった。それを思うたびに、いたたまれない感情に駆られる。

 時折思い返しては、泣きたくなった。

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