☆リアル

 VR技術は発展し、今では現実と遜色のないレベルだ。

 人間たちは理想郷を求めて、次々とVR世界へ進出する。皆はそろって地球を捨て始めた。残っているのは一部の物好きくらいだ。


「ねえ、私たちのリアルってどこにあると思う?」


 黄昏時、ブランコを漕ぎながら、一人の女子高生が話す。


「なんだよ、いきなり」


 男子高校生が言葉を発する。


「VRのほうが優れているし、私たちの次の環境はそこになる。じゃあ、私たちの故郷はどうなるの? 私たちの現実って、どこになるの?」


 少女は困惑を表に出す。

 その瞳は悲しげに揺れていた。


「同じだよ、VRも現実も」

「違うくない」


 少女は激しく否定する。


「だって、VRは所詮、バーチャルでしょ?」

「同じだよ、人が住んでる」


 少年はさらりと言ってのける。


「お前は引っ越す時、引っ越した先のことを非現実だと称すのか?」

「それは……」


 言いよどむ。

 確かに言わない。

 だけどそれは同じ世界だからこと言える言葉だ。

 人類が別の世界へ飛び立ってしまえば、乖離が生じる。


「どんなになっても、住む世界が変わったとしても、変わらないものがあるんだよ」


 少年は答える。


「ほら、ここにあるだろ?」


 自分の胸を指し、告げる。

 少女はそれをしかと見た。


 安心した。

 変わらないものがあるのなら、世界がどうなろうと、人は生きていける。たとえ現実ではない場所に飛び立ったとしても、世界はまだ人間の前に立ちふさがったままだ。


 そして、ほんのりと微笑む。

 それこそが真理だというように。


 彼女はブランコから下りる。

 帰る時間だ。

 背を向け、もう一度振り返る。


「また会おう」


 少年の答えに笑って答える。

 彼女は去っていった。

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