復讐
かつて、悪逆の限りを尽くした者が、善人によって裁かれる。それは因果応報であり、もっともな流れだ。
だが、なぜだろう。過去にその人が行った所業よりも、今返ってきた裁きの内容のほうが、印象に残るのは。
どうしようもなく哀れでならない。なぜそこまでやる必要があるのか。人の命を奪ったら、自分も殺される。そこまでは理解できる。だけど、精神を壊されて、痛めつけられて、なにもかもを奪われる。いわゆる倍返し以上のことをやられたわけで。
それはきっと、正しいのだろう。しかるべき、裁きなのだろう。
だから、それに関して疑問を持った時点で、きっと私は狂っている。
自分のことだってそうだ。
かつて、いじめを受けたことがある。その影響で性格が変わった。明るく積極的だったのに、今の私は暗くなった。他人と深く関わることはなく、傍観者を気取っている。
なにもかもいじめのせいだと言うつもりはない。ただ、その影響は受けたと思う。
だけど、いじめっ子に復讐しようとは思えない。
だって、冷静に考えると、そうでしょう。嫌がらせをしたってやり返しても、それって自分が同じラインに立つだけじゃない。そんなことをしたら自分が罪に問われる。そこまでして、遂行しなくてもいいのではないか。
いじめっ子は悪だ。分かっている。たとえ理由や動機があったところで、許されてはならない存在だ。だからこそ、次のように思う。そんな、許される価値のない人たちのために、なぜ被害者が罪を背負わなければならないのか。
いじめ以上のこととは一口に言い難いが、殺人は重い罪に問われる。その人を手にかけた時点で、自分も彼らと同じ存在になってしまう。それで本当にいいのか。そんな状況を、許せるのか。
私は理解ができない。なぜ人は復讐に走りたがるのか。
復讐を成し遂げたとして、一番に損を被るのは自分だ。一番報われないのは自分なのに、なぜそれをしたがるのか。
気持ちがいいだなんて思えない。爽快感なんて、まるでない。ただ、重苦しいだけだというのに。
私はなにもかもがどうでもよかった。いじめっ子も、それ以外も、傍観者も。
私にとっては全てが同じに見える。善人も悪人も人の形をしている存在だ。結局は同じなんだ。
だから思う。普通の人間だろうと、いじめっ子であろうと、同じこと。彼らは結局、過去の存在でしかない。今、なにを行っていようと、知ったことではない。死ぬも生きるも勝手にしてくれ。その人の人生に、どうして私が干渉しなければならないのか。
どうでもいいんだよ、なにもかも。
過去は過去。他人は他人。自分は自分。ただ、それだけのことだというのに。
今はいじめられた日々は遠い過去の話。そのころの私だって、過去の自分でしかない。そんな日々を歩んだ実感すら、今は薄い。だから過去の自分はもはや、他人。そんな他人の苦い思いを、今の自分が背負う意味は特になし。
だから、本気で興味がない。
そんな人たちのために思いをかける価値すらない。
そんな私だから、証明できてしまう。復讐するほどの憎しみを持った人はきっと、強い気持ちを持っている。人としての熱さとでも称すべきだろうか。
対照的に私は空っぽだ。
復讐心を持たない私は、きっと誰よりも冷たい。
そのあり方はいびつで、狂っている。それを自覚している。
だけど、ああ、やっぱり私は――あの人たちを恨めないや。
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