初恋

 初恋の相手は誰だっただろう。

 考えて、真っ先に浮かぶのは小学校時代から見ていた、とある男子だった。名はコウスケ。

 大した思いを抱えているわけではない。「誰が好きなの?」と聞かれて、仕方がなく答えたのが、彼だっただけ。

 本当は、好きな人なんていなかった。だけど、答えなければ「自分だけ隠しているのは卑怯」だと思われて、嫌われる。だから嘘でも、適当に、人気がありそうな人をチョイスしたまでのことだ。


 実際にコウスケは人気があった。身体能力は抜群で足も速いし、勉強もできた。顔もきっと、よかったのだと思う。


 私はコウスケとは深く関わったわけではない。せいぜい知り合い程度。近所に住んでいて、小学校のころに一緒に下校したことがある程度だ。それ以外は接点もなかった。

 だけど、彼の活躍自体は間近で見てきた。

 かっこいいとは思うし、バレンタインデーでチョコを上げるなら、彼になるだろう。


 とはいえ、結局はその程度だった。


 好きな人は誰かと聞かれるたびに、コウスケだと答えた。中学校に入ってからもそうだったため、「一途だね」と言われた。

 実際はそうでもない。単に、面倒だっただけだ。


 今となっては、心の底からどうでもいい。彼と結ばれなくても、悲しむ要素なんて、なにもなかった。

 ただ、気になることはある。私は彼のことが好きだったのか、否か。

 好きだと答えたから、とりあえず恋をしておこうと思った。彼のことが気にはなっていた。だけど、それは本物の恋だったのか。

 私は彼を、どう思っていたのだろうか。


 分からない。

 どれほど思考を練ったとしても、答えは出なかった。


 強いていうなら、私は彼の内面を知らない。

 どんな性格をしていたのか、どんなものを好んでいたのか。

 今では、知る余地もない。


 忘れたのではない。ただ、知る機会はなかった。それくらいの薄い関係。


 淡い想いは淡いままで終わってしまった。完全な恋になりきれなかった。

 それこそが私にとっての唯一の心残りだったのかもしれない。

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