燃えよストラト
十影 蔵人
燃えよストラト
俺が最初にスティーヴィー・ウィンターのプレイを聞いたときに衝撃を受けたのは、彼のギタリストとしてのテクニックよりも、その音だった。超絶技巧ばかりが目立つ
自身のプレイに行き詰まっていた俺は、まるで初めてギターを手にした中学生のように、ひたすら彼のプレイを真似ようとした。ギターの弦を彼と同じゲージに張り替えるのはもちろんの事、真空管アンプ直結で鳴らす彼と同じアンプを手に入れ、それをスタジオに持ち込んでは彼と同じセッティングにして鳴らし続けたが、どうしても彼のような音は出せなかった。
思い余って俺は彼と同じ真っ赤なストラトを探しに楽器屋を訪れたが、ピックガードまで真っ赤な彼と同じストラトは見つからなかった。諦めきれずにネットでも探してみたが、やはり彼と同じ真っ赤なストラトは見つからなかった。
意を決して俺は、その真っ赤なストラトを著名なギター・ビルダーにオーダーした。そしてその真っ赤なストラトが出来上がったとの連絡を受けて工房で直接受け取ったその足でスタジオに入り、いつものように、アンプを彼と同じセッティングにして、祈るようにE7#9を鳴らしてみた。
「これだ!この音だ!」
俺は薄っすら涙まで浮かべて、その真っ赤なストラトでスティーヴのフレーズを弾き続けた。それはライブ映像を何回も観て、それこそ中学生がそうするように彼の身振りまでも完璧にコピーして、このスタジオで何回も弾き続けたフレーズだった。
俺は貸時間ギリギリまで真っ赤なストラトでスティーヴのフレーズを弾き続け、そして時間が来るとアンプの火を落とし、これで彼の音は完璧にものにした、次は俺の音を創り出すという意気込みを持ってスタジオを
テレビの前でも俺はその真っ赤なストラトを抱えて放送が始まるのを待った。放送が始まりスティーヴがステージに現れると彼は白いボディーに白いピックガードのストラトを抱えていた。その時俺は、あのライブ映像では、スティーヴの顔も真っ赤なライトに照らされていたことを思い出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます