炎灯理とアマゴイリュウ
狭倉朏
創世神話
昔々、この世界がまだ荒れ狂う海だった時代に、一人きりの王様が海に向かってお願いしました。
私が目にするものをおくれ。
海から火の玉が浮かび上がり、太陽になりました。
王様は目を見開きました。
続いて王様はお願いしました。
私の足を下ろす大地をおくれ。
海から土くれが飛び出し、大陸となりました。
王様は二本の足でしかと立ちました。
さらに王様は海へお願いしました。
私の手が抱く財宝をおくれ。
海から光が弾け、黄金となりました。
王様はそれに向かって手を伸ばしました。
それでも飽き足らず王様はお願いしました。
私の喉の渇きを潤す泉をおくれ。
海から雲が空高く上がり、雨となりました。
王様は喉を鳴らしました。
王様は重ねてお願いしました。
私の腹を満たす穀物をおくれ。
海から種が蒔かれ、木々となりました。
王様はお腹いっぱい食事を取りました。
王様は最後にお願いしました。
私が睦あう家族をおくれ。
海から人が生まれ、美しい妻となりました。
王様は彼女をお妃さまにしました。
彼女は太古の昔に海を鎮めるために人々が海に差し出した供物でした。
もう王様は海に何もお願いしません。
何かが欲しければ、王様の子供たちが王様に差し出してくれます。
そう王様は神様になっていたのです。
王様からのお願いを聞けなくなり、寂しくなった海は、一日の半分だけ太陽を懐に戻すことにしました。
太陽は火の粉を空に残しながら毎晩、海に帰りました。
火の粉は空を気に入って星々となり、より大きなものが月となりました。
その内、懐にあるのが太陽だけでは寂しすぎて海は、大陸の一部を懐に戻すことにしました。
大陸は散り散りに別れ、いくつかは島になりました。
島々は海を越えて繋がり合うことはあっても、ともに過ごすことはもうありません。
それでも、やっぱり寂しくて海は、黄金をいくつか懐に戻すことにしました。
黄金はとても重かったので、海の懐の最も深い所に沈み入りました。
たまに王様の子供たちがそれを取りに来るとき、海は少し意地悪をしながらもそれを許しました。
やがて、寂しさのあまり海は、雨を懐に戻すことにしました。
穏やかだった海に雨が降り注ぎ、時に海は大いに荒れ狂いました。
雨は時に島々にちっとも降らなかったり降りすぎたりと気まぐれでした。
それから、寂しさを紛らわすために海は、木々を懐に戻すことにしました。
根を張るために、木々は黄金と同じく海の深い所から上に向かってその枝を伸ばしました。
木々の存在は海を癒し、海はもう寂しくなくなるかもしれないと思いました。
しかし結局ずっと、海は寂しいままでした。
そうしてある時、王様の美しい妻が亡くなりました。
そう、海は美しい妻をも懐に戻すことにしたのです。
王様は酷く悲しみました。
海も悲しみました。
たくさん王様から返してもらっても、海はけっして寂しさを捨て去ることが出来なかったのです。
そして久方ぶりに王様は海にお願いしました。
あまりにも王様が頼むので海も可哀想になって、地上に蛇をやりました。
蛇は海の伝言係。
王様が困ったとき王様の力になることを誓いました。
そして王様は最初に海のくれた太陽から自分の名を輝と決めました。
それから何千年もの月日が経ちました。
それでも王様はまだ海と仲直りできません。
そして王様の美しかった妻もクチナワとなってこの地上をうねり歩くのです。
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