第2話 すべての始まり(2)

 「ババア……やて?」

 紅乃が静かに繰り返した。

「そっ、そいつは」

 紅乃が動じないことに焦っているのか、金髪少年は腰が引けているのに声だけは大きかった。

「俺の所有物だ、だから口出しすんな」

 金髪は、紅乃の後ろの女子中学生を指さして言い放った。

「おだやかでないことをお言いでございますなあ、お兄さん」

 紅乃は、穏やかな口調ながら凄みの利いた声で言う。

「う……」

 金髪少年は呑まれて、一歩後ろに下がった。

黒紋付きの、化粧も鬘も仕上がった状態の美しい芸妓に見下ろされて、びびらない人間などいるのだろうか。紅乃は、上背があるのでさらに迫力がある。

「何ごと?」

「ちょっと……紅乃お姉さんやないの。なに、絡んでるのはどこのアホや」

「なにあれ?どこの不良や」

 周りに人が集まってくる。黒紋付きの芸妓が、それも近隣で名の通った信頼のあるお姉さんに、絡んでいる不良がいるとなると、近隣の人達が集まってくるのは当然である。

「クソババア……!女のくせに、邪魔すんな!」

 多勢に無勢で自分たちが不利な状況になってきたと感じ取った金髪は、芸妓を突き飛ばしてそうな勢いだった。

 慶次郎は動いた。紅乃が負けるとは思わない。しかし、こんな公道で不良と争って、紅乃お姉さんが怪我などしたら名折れである。紅乃お姉さんの評判を落とすわけにはいかない。

「まあまあ、何事でございますかね。これはこれは」

 慶次郎は微笑みながら、紅乃と不良少年の間に割り込んでいった。

 少年たちは明らかに、怯んだ顔をした。白髪、白い髭、黒ぶちの老眼鏡、真っ白なシャツに蝶ネクタイの屈強な初老の男が、笑いながら現れたのだ。

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