電話の向こうで

星 太一

もしもし、タカシ?

『――でさー、そしたら信じられないだろうけど、まひろがさー』

「あ、ちょっと待って。忘れてたことがあったんだけど」

『……何? 大事な所なんだけど』

「昨日のカレーライスの話」

 その瞬間受話器の向こうで盛大なため息が聞こえた。

『……お前、偶にそういう時あるよな』

「どういう時よ」

『ん? 話が盛り上がってる所に急に自分の話ぶっ込んでくるところ』

「……あんたもうかれこれ小一時間は話してるでしょ? 私にも喋らせてくんないと困るんだけど」

『はいはい。……で? チーズまた入れたのか?』

「そぉーなんですぅー!」

『煩い煩い! ったく、テンション高いな』

「いつもじゃん」

『自分で言うかっての。――あ、誰か来た。ごめん、ちょっと切るわ』

「ほーい」

 ――ぷつん。

 電話が切れた。通話時間1時間半。よく話のネタが尽きないもんだなぁ。

 スマホの充電がちょっとピンチだったからモバイルバッテリーをさしてリビングにちょっと移動。テレビをつけて、どっかとソファに座り、ポテチの袋を開ける。

〔次のニュースです。最近個人情報を狙った詐欺が急増しています……〕

〔Repeat after me……〕

〔ここで塩コショウを……〕

〔SNSの怖いところは……〕

 ――プツン。

 どの番組もつまんない。

 テレビを消してスマホの電源をつける。

 と、SNSの自分のアカウントを新しくフォローしてくれた人がいる事に気がついた。

 通知欄には「あなたの知り合いかも?」と一言添えられている。

「誰だろ」

 アカウント名は『まひろ』。

「あれ、まひろ? え、え、嘘! まひろだ!」

 思わず声に出た。胸の辺りがうきうきと弾んだ。

 まひろは私の親友だった女の子。まひろとは私が小学生の時に引っ越して以来連絡が取れてなかった。別に電話が繋がらなかったとかじゃなくて、普通に電話番号聞くのを忘れちゃったってだけだけど。――まぁ、一年生の時の事だったし、無理はないよね。

「え、めっちゃ嬉しい。フォロバしよ」

 心がわくわくして「フォローする」のボタンを押す指が微かに震えた。

 本当に今まで音沙汰無かったから凄く嬉しい。

「え、え、DMしよっかな。あ、でもまひろは私の事分かるかな。11年も経ってるけど……あ、でもフォローしてくれたのまひろだから良いのか」

 そう言いながらメッセージボタンをタップしようと思った瞬間――。


 プルルルルル!!


「わわっ!」

 びっくりしてスマホを取り落としそうになる。恐る恐る画面をタップしようとしてる人のスマホに突然着信が入ったら誰だって同じ反応をするに違いない。

「びっくりした……。誰だろ?」

 着信画面に突然表示された電話番号の列に一瞬ドキリとした。

 非通知だ。

 非通知には出ない。それが世間の子ども達の間での常識。

 でもタイミングがタイミングだ。もしかしたら、ということもある。

 そう言えば……。

 私は着信履歴からさっきまで話してた「タカシ」の名前をタップする。


 プルルルルル、プルルルルル、ブツリ。


「あ、タカシ? ごめん、さっき遮っちゃったけどさ、まひろと電話したって言ってたよね?」

『ん? あ、ああそういや言ったな。確か「そしたらまひろがさー」とか言ってた時にお前がカレーの話したんだよな』

「細かいな……じゃなくて。あのね、聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

(つづく)

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