マラソン

陽炎がまだ太陽の光に加勢していたころ、女は額の汗を拭いもせず先を急いでいた。

このままで行くと一キロ三分四十五秒である。

女は足を速めた。

ニ十キロ地点で足が思うように動かないと感じていたが、これ以上遅れを取るわけにはいかない。

練習だからといって女は手を緩めるなどと考えもしなかったし、足も独りでに動いていた。

大会を二か月後に控えている今、女の意気はただならぬものである。

その時であった。

急に足が止まり始めたのである。

女は慌てて足に指令を出したが、どんどんと足は止まり出しやがてその場所でぴたりと止まった。

そこは近くに自販機のある電柱だった。

女は身に付けていた時計で飲み物を買い、一気に飲み干すと汗を拭う仕草をした。

と同時に、一滴の涙がこぼれる。

原因はおそらくあの追い上げであろう。

陽炎はまだ立ち上っている。

三十キロまであと、二キロと少しであった。

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