ふじのん短編集

櫻春亭梅朝

喫茶店

立ち上るコーヒーの湯気を見ながら、ため息をついた。

あの人はまだ来ない。

ときめいていた胸が少しずつ冷めていく。

この日のために用意した服も、すっかり皺が寄ってしまった。

外の果てしない空に時間を感じ、漂う雲の白さに淋しさを感じている。

街を過ぎ去っていく人々がかろうじて空間を埋めていた。

ところどころで行き交う幸せそうな恋人たちが痛みとなって目に入ってきては、心を傷つけていた。

あんな風になりたい。

そう思いながらあと少しの辛抱だと、言い聞かせている。

カップの底が見え、大分前に食べ終わったケーキの皿が回収される頃、やっとあの人は来た。

息も切らさず、しっかりと髪を整えて

ぷっくりと頬を膨らませると、あの人は頭を下げてウィンクをしながら片手で拝んだ。

そんなあの人をついつい、傷ついてしまった心が許してしまうのだ。

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