(編集済み)昼休みの一幕『繰り返しの言葉と繰り返さない選択』

 

「……っと、ちょい授業が長引いちゃったな。さっき教室の外から三葉先輩が見えて上を指差してたから……。恐らく、屋上で待ってくれてるとは思うんだけど……。」



 本日の昼休み。今日の俺はアレコレ考えながら授業を受けていて、『早く昼休みにならないかな……。』と思いながら、今か今かと待ち望んで過ごしていたのだが……。


 残念な事に、その授業は思いの外長引いてしまい、あろう事か昼休みに入ったにもかかわらず、五分だけ延長して授業を行ったのだ。


 勿論クラスの奴らからの不満は大きく、気休めに休み時間をこのクラスだけ五分多くしてくれるみたいだが……、そんなのあまり意味はない。終わりが五分伸びる事よりも、五分早く昼休みが始める事の方が大切なのだ。



 そして、昼休みになって少ししたくらいで、何やら俺達の教室の前がざわざわと騒がしくなり、そちらの方に目を向けるとーーあっ!



「(三葉先輩!もうこっちの教室まで来ちゃったのか……。でもすいません!俺らのクラス、まだ授業が終わりそうにないです!)」



 教室の後ろの扉から見えた先輩に、ジェスチャーを加えて、まだ授業が終わってない事を頑張って伝えてみた所……。



「(えっ…と、上に行くから……、大丈夫?お弁当を持って上に来て欲しい…って、言ってるのかな?」



 俺がチラリと先輩を見た所、あちらもジェスチャーで上ーー屋上を指しながら自身のお弁当を見せて、屋上で待っていると、恐らくそうだと思われる内容を俺に手と口パクを使って伝えてくれる。


 しかしながら、わたわたと手を動かし、パクパクと口を動かして必死にその内容を伝える先輩は……、正直かなり可愛らしい。



 そしてその後、五分遅れて授業が終わり、急いで屋上に向かっている俺だったのだが、どうしてだろう……?



「(何か、チラチラとみんなから俺見られてる?いや……、麗奈との件で注目されてる事や先輩との件で注目されてるって事は勿論なんだけどさ……。

 にしても、変に注目集まり過ぎじゃないか?男子から嫉妬の目線を向けられるのは、先輩と登校した時に嫌と言うと程感じたからそれは分かるんだけど……。何で女子からもかなりの視線を感じるんだ?)」



 先輩を待たせている為、俺は少し早足で屋上に向かう途中の廊下を歩いている所なのだが、男女問わず、みんなからの視線が痛い。


 それも、何だか今日は女子からの視線が心なしか多いような気がするのだ。



 しかし、わざわざそれをこちらから聞く事も出来ない為、俺はそれを気にしない形で屋上へと早足で急ぎ向かう。



「(一体どうしたんだ?これ?何か俺…変な事でもしちゃったのか?……まあ、体育祭の件とかで色々目立ってるっていうのは、正直自覚はあるんだけどさ……。)」



 まあ俺も人並みには目立ちたいというか、周りから注目されたいと思う気持ちは多少あるし、先輩と隣に並んで歩ける事に少しの優越感を感じる事は事実なのだが……、それが結果として、先輩を遠ざけてしまうような事にだけは絶対にしたくない。


 周りから注目を集める事。それ自体は別に構わないし、それを必要以上に嫌がる事もその必要も無い。


 だが、それら注目によって先輩と話しづらくなったり、周りからの干渉によって先輩と会いづらくなるなんて事は絶対に嫌だし、そんな事にはなりたくない。


 だから、必要以上の注目や変な視線の集め方はあまり嬉しく無いし、自分にとって都合の悪い、嫌な展開を勘ぐってしまう。



 ーーまあ、ネガティブな思考はここまでとして、とりあえず今は屋上へだ。


 そうして、取り留めのない思考を繰り返しながらも、何とか到着した屋上で俺の目に飛び込んで来たのは……。



「あっ、お疲れ様です相太くん。今日は天気が良いので屋上で食べる事にしましたよ!」


「……お疲れ様です。相太さん。……私もお姉ちゃんとご一緒させて貰ってます……。」


「あっ!相川くんお疲れ様。こっちは三葉達と違ってお先に食べちゃってるよ。

 ……まっ、の方は別にいいよって言われてるのに、なぜか律儀にキミの事を待っていたみたいだけどね?」


「……こんにちは、相太。それとごめんなさい。突然そちらに押しかける形になってしまって……。本当は私達、今日はここで食べるつもりでは無かったのだけど……、急に詩織先輩が大岡先輩達に『一緒に食べよ!』って廊下で声を掛けて、それで……。」



 ーーこれは一体何の冗談なんだろうか?


 三葉先輩だけが待ってると思っていた屋上には、先輩一人がそこで待っていた訳ではなく、先輩の妹である和葉ちゃん(まあ分かる)と、それに加えて、麗奈と同じ生徒会に所属する副会長の長谷川 詩織はせがわ しおり先輩(分からん)と、今はあまり会いたくなかった同級生兼俺の元彼女である、黛 麗奈まゆずみ れいな(ホントに分からん)その人が、なぜか大岡姉妹に対面するような形で2人並んで座っていたのだ。



 そもそも何でここに、よりにもよって彼女達がいるんだ?というか何で、俺らとわざわざ一緒に昼食を食べる事にしたんだ?


 俺は全く想像もしてなかったこの状況にすっかり呑まれてしまい、直ぐには上手く言葉を発する事が出来なかった。



 すると屋上の入り口で立ち尽くす俺に、三葉先輩が「こちらに来てください。」といった様子でくいくいと手招きをする。


 そして、他の3人も俺に早く座るように促されて、どこに座ろうかと思っていると……。



「……相太さん。こちらへどうぞ。」


「あっ、ありがとう。和葉ちゃん。」


「……いえ、こちらこそ……、その……ありがとうございます……。」


「ありがとうございます……?」



 俺は和葉ちゃんに案内されるがまま、和葉ちゃんの隣、和葉ちゃんと長谷川先輩に挟まれるような形で俺は着席する事になった。


 そしてなぜか、俺の座る場所を案内してくれた和葉ちゃんに、謎の感謝をされるというオマケ付きでだ……。


 まあ、和葉ちゃんが率先して俺に声を掛けてくれた事自体は嬉しいのだが、これでもこの子は俺と同年代の女の子なので、あまり畏まらないでもらえるとありがたい。



 俺はそんな事を考えながらも着席して、自身の弁当箱をパカっと開いてーーバシッ!


 俺は開いた弁当の中心にあるデカいハートをパッと見た瞬間、何かを考えるよりも先に勢いよくその弁当のフタを閉じた。



「(な、何だこれ……?確か……、今日の弁当を作ったのは雫だったか?昨日の夜に『明日、私がお兄ちゃんのお弁当を作るから。』って、言ってたし……。

 てかこの弁当……、雫のちょっとしたイタズラ心でこうなってるのかもしれないけど、今ここで、三葉先輩だけならまだしも麗奈達がいる中でこの弁当を見せるのは……。)」



 すると、まるで浮気の証拠を隠すかのような俺の過剰な反応に、他の女性陣は敏感に反応して、目敏くこちらに質問をしてくる。



「相太くん?どうしました?そのお弁当に何かありましたか?」


「い、いえ……。少し変なものがお弁当に見えて……。で、でも全然大丈夫です!あまり気にしないで下さい!」


「でもそれなら……、なぜわざわざそのお弁当を隠すの?『何もない、大丈夫だ。』と言うのであれば、それをそんな風に隠す必要は無いんじゃないかしら?」


「うっ……、それは……。確かにそうなんだけど……。」



 といった感じに、先輩にはさりげなく尋ねられた上に、麗奈からは少し詰問されるような形で正論を言われてしまう。


 しかしこれに関しては、別に俺が悪い訳でも、このお弁当が悪い訳でもないので……、少し恥ずかしいが正直に見せる事にした。



「……はい。なんか昨日に妹、雫がお弁当を作るって言ってて、今日作って貰ったのがこれなんですけど……。」


「あら?これは…ハートマークのお弁当ですか?なんだ……。それって妹さんに愛されてる証拠じゃないですか。別にそんな風に恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ?」


「ふーん……。確かにこれはちょっと男の子には恥ずかしいお弁当かもね?それにこれは……、愛妻弁当ならぬ、愛妹弁当って所だね?ふふふ……。」


「愛妹弁当って……。ま、まあ愛されてるっていうか……、嫌われてないってのは兄として素直に嬉しいですけど……。

 ……って!おしまい!おしまい!この話は普通に恥ずかしいんで終わりです!さっ、もう食べちゃいましょう!」



 という風に、何だか俺は恥ずかしいやら、ちょっと嬉しいやらで照れくさくなり、多少強引だが強制的にその話を終わらせる。


 そして、しずくのイタズラには困ったものだと溜息を吐きながら、そのハートマークのお弁当をもぐもぐと食べていると……。



「あっ!でも相太くん。そのお弁当には野菜が少ないですね?それにおかずもあまり種類がないみたいですし……。

 どうですか?私のお弁当のおかずを少し相太くんに分けますよ?」



 先程からご飯とその上のサクラ田麩だけをかき込む俺を見た先輩がそのように言って、俺に自身のお弁当にあったベーコンのアスパラ包みを差し出してくる。


 それも自身の箸でそれを掴み、俺にアーンするような形でこちらに差し出してくる。



 それには勿論、麗奈も長谷川先輩も敏感に反応し、麗奈は何とも言えない難しい表情で、長谷川先輩はどこか面白そうにニヤニヤとしながら、その様子を眺めている。


 唯一の救いは、和葉ちゃんが特にリアクションを取っていない事だけどーーって、あっ違う。次は自分の番だとばかりに、自身のお弁当のおかずと姉のお弁当の中身を見比べていただけだった……。



 そして、その差し出されたベーコンアスパラとみんなの顔色を伺っていた俺は……、ただ純粋な好意から差し出されたそれを、俺が恥ずかしいからという理由だけで断るのか?と、ふと我に返ってそう考えた。


 それにもし三葉先輩のアーンを俺が断れば、先輩は何も言わないだろうが、一体どんな気持ちになるだろうとも。



 なので、その差し出された先輩の好意を俺はありがたくいただく事にした。



「すいません。ぜひ頂きます。あむっ……。うん、うん…うん!このアスパラベーコンすごい美味しいです!

 あっ、もしよければですけど……、俺のチラシも少し食べて貰えますか?こちらが貰うだけでは気が引けますから。」


「あっはい。では、私も遠慮なく頂きますね。そうですね……、お弁当の真ん中からいただくのは心苦しいので、少しハートが削れている所をお願いします。」


「えっ?あ、はい…どうぞ。妹が作ったので、先輩のお口に合えばいいんですが……。」



 そして先輩からの提案に、特に何も考えず弁当を先輩の口に運んだ俺は、後から考えればとんでもない事をしていたと気付いた。


 それはもう……、他のみんなから、今の行動をガン見されていたと、否応なく気づかざるを得ない……、まさにこのタイミングで。


 またこちらもタイミングが悪い事に、先輩も俺達が気付かぬ間に間接キスをしていた事に気が付いたようで……。


 『ぽっ!』っと、もしかするとそんな擬音が聞こえるのでは?と思える程に、俺と先輩は二人同時に顔がほんのりと赤くなる。



「(ヤバっ!マジで恥ずかしい……。いくら断れば先輩が悲しむかもしれないって言っても、普通に自分の箸で先輩のおかずを貰えばよかっただけだろ!

 他の人たちの前な上に、別れてすぐの麗奈の前でこんな事をするなんて……。これじゃあ、別れた麗奈に対する当て付けみたいじゃないか!それも含めて、みんなの前でこれは……、その…色々と気まずい……。)」



 そんな中、俺が横目で先輩の方を見ると、先輩も若干気まずく思ってるのか、皆と出来るだけ目を合わせないようにして、顔を赤くしたままキュッと俯いている。


 そして、その俯いた横顔から見える先輩の頬はやはり薄っすら赤みを帯びていて……、こんな時に思うのもなんだが、いつも以上に可愛らしくていじらしくも感じる。



 しかし、そんな二人の沈黙もそう長くは続かず、笑みを浮かべた長谷川先輩がどこかこの状況を面白がるように口を開く。



「はぁ〜。おふたりさん見せつけてくれるねぇ……。いやぁ、朝から相川くんと三葉の噂が立ってて、何事かと思ったけど……。その様子だと、もしかすると、もしかするのかな?なんて…ね?」


「…………。」



 ちょうど俺と先輩が俯いたそのタイミングで、自身の弁当を食べ終えた長谷川先輩がからかい混じりにそう言って、俺たち2人の事を交互に、そして興味深そうに見ている。


 その口調自体は多少の冗談混じりで、特に何か思う事などはないのだが……、目が全然笑ってないのが何だか怖い。


 しかしそんな長谷川先輩以上に気になるのは、俺から見て奥側に座っている麗奈その人で、麗奈はこちらを見てはいるがどこか遠くを見るような虚ろな目をしており、いまいちその表情からは彼女の心情が読み取れない。



「(結果的にはこういう形になってしまった俺達だけど……、お前は今何を思ってどう考えているんだ?

 あの時に願った俺の願いは、今はもう叶わないけど……、お前がどう考え、どのように立ち向かって行くのかを、俺はーー)」



 彼女が今何を思い、何を考えているのか?


 これからの彼女とは歩む道は違うかもしれないけど、俺はそれを……、麗奈が選び出したその答えを、せめて遠くからでも見守っていきたいとただそう思った。



 そして、今度は違う意味で降りたった2度目の気まずい沈黙に、みんな何も言えずに黙ってしまうと思われたーーその時。



「……お姉ちゃんばかり……ずるいです。」


「……っえ?か、和葉ちゃん?って……、んむ!?」


「……相太さん。……この唐揚げ……どうですか?これと……卵焼きだけは……お姉ちゃんじゃなくて、私が……自分で作りました……。おいしい……ですか?」


「え、えっと……。う、うん。すごい美味しいよ和葉ちゃん。あ、ありがと……ね?その…色々と……ね。」



 その沈黙を全く意識していなかったのか、和葉ちゃんが突然そう呟いたかと思うと、スッと自身のお弁当から1つ唐揚げを箸で取り出し、そのまま俺の口にその唐揚げを直接運んで来たのだった。


 最初はこの空気を払拭する為、あえてこのような奇抜な手段に出たのかと思ったのだが……、和葉ちゃんは俺からの感謝の言葉に『……やった!相太さんが……美味しいって!』と、演技などではなく普通に喜んでいるようなので……、何だかフッと重かった気持ちが軽くなった気がする。


 それが和葉ちゃんの考えての行動であろうとなかろうと、確かにこの空気を変える事は出来たし……、何より、彼女のその無邪気な笑顔に俺は少しだけ暖かな気持ちになれた。



 すると、俺達の間に弛緩した空気が流れ始めたタイミングで、昼休みの終わりを知らせる予鈴の鐘の音が鳴り響いた。



「あっ……、予鈴が鳴りましたね。皆さん、そろそろ教室に戻りましょうか?お弁当はこれくらいにして。」


「そうだね。ボクと麗奈はこの後ちょっとした話し合いがあるから……、じゃあ、またいつか。行こうか麗奈。」


「ーーはい……。お先に失礼します。」



 キーンコーン・カーンコーンと鳴り響いたチャイムの後、告げられた先輩の解散の言葉に、長谷川先輩もそれに同意する形で、麗奈と共に俺達に背を向けて歩き出す。



 俺達に背を向けて歩き出す2人とそれを後ろから目で追うだけの俺達。どちらも同じ方向を見つめ、進む先が同じかのように思われるのだがーーどうしてだろう?


 どうしても俺はこのまま彼女を……、麗奈に何も言わずに、そのまま帰してはいけないと、そんな直感にも似た不思議な感覚を覚えて、考えるよりも先に思わず口を開く。



「ーー!……また一緒に……、今度もみんなと一緒に……、またお弁当を食べよう!勿論、俺と一緒じゃなくても……、それでもいい。ーーだけど!さえよければ、俺と一緒にいたくないとそう思っていないのであれば……。また!また一緒に……、俺とご飯を食べないか?」



 俺は背を向けて歩き出そうとした麗奈に、思わずそんな……、初めて麗奈とご飯を一緒に食べた時の事を思い出して、あの時とほとんど同じ言葉で彼女の事を引き留める。


 そしてその瞬間ときだけは、まるで自分が過去の時間に巻き戻って同じ場面を再現しているかのような、そんな不思議な感覚に陥った。


 だがそれは……、決して勢いに任せた口先だけの言葉ではなく、ある意味で俺の本心から口にした言葉であり、率直な今の想いだ。



 すると、みんなが驚いた様子で俺と麗奈の事を見つめる中……、麗奈だけは変わらず俺に背を向け続けたままで、その表情がどうなっているのかこちらから伺う事は出来ない。


 そして、数秒だったか…数分だったのか、実際に流れた時間よりも遥かに長い時間が体感上で流れた後に、静まり返ったその空間で麗奈がゆっくりと口を開いた。



「ーーまだ相太は……。自分勝手な考えであなたの事を傷つけた私に、そんな優しい言葉を掛けてくれるのね……。私はもうあなたの彼女でも何でもないのに。

 私には相太にそんな優しい言葉を……。ううん、ホントはもう……、私があなたに話し掛ける事だって……。」



 途切れ途切れの口調ながら、彼女の口から発せられた言葉は、意外にも彼女らしからぬとても弱気なものであり、もしかすると、俺との付き合いについて考えるタイミングが彼女にも何かあったのかもしれないと、ふとそんな事を俺は思った。


 だがそれは、彼女の方から俺の事を遠ざける言葉。……彼女の方から人との距離を離してしまう否定的な言葉で……。



「(三葉先輩や雫……、それに俺を心配して支えてくれたみんながいなかったら、俺はここでも何も言えず、そのまま引き下がってたかもしれないな……。)」



 確かに、麗奈が突然別れを切り出した事は本当に悲しかったし、なぜ理由も言わずに別れる事になったのかについて詳しく知りたいという気持ちもある。


 けれど、それを理由に彼女の事を嫌ったり無視したりする事は俺自身したくないし……、そもそも俺は、そんな風にすぐ人をーー彼女の事を嫌いにはなれない。


 だから、今の俺がそんな彼女に掛けられる彼女との繋がりを絶えさない言葉は。



「確かに今の俺は、もう麗奈の彼氏じゃないし、麗奈にとって俺はにはなれなかったんだと思う。

 だけど……、俺が一緒に話したいから話すし、という形でも隣にいたいから隣にいる。それだけじゃ……、ダメかな?」



 人と人との繋がり。それは麗奈が思う程簡単に切れるものではないし、簡単に手放してしまっていいものではない。


 俺は麗奈に、もう少し人との繋がりを意識して欲しいと、人との繋がりを簡単に諦めて欲しくないとそう思って……、言葉セリフを繰り返し俺は彼女に伝えた。



 すると、俺の言葉を聞いて麗奈がこちらにゆっくりと振り向き、その口元がスッと動くのが見えたーーちょうどその時。



 キーンコーン・カーンコーン……、キーンコーン・カーンコーン……、キーンコーン・カーンコーン……。



 予鈴から10分後になると自動的に鳴る仕組みになっている本鈴のチャイムが屋上にも鳴り響き、俺や麗奈や三葉先輩。それに和葉ちゃんと長谷川先輩もそこにいたみんなで、急いでそれぞれの教室へと戻るのだった……。



 今回の思わぬ再会、麗奈本人に俺の想いを伝えた事や麗奈自身も俺について色々と考えてくれていた事が分かったのが、自分の中で印象的に思い出されたのだが……、それ以上に、皆それぞれの教室に走って向かう中。


 急いで教室へ走りながらも横目でじっと長谷川先輩を見つめる三葉先輩と、その視線に気付きながらも無表情を保つ長谷川先輩の対照的な様子が、俺にはとても印象的でーーどこ心配な光景に見えたのだった……。



 ・・・

 ・・

 ・



「ーー相太くんは……、でちゃんと、一歩前へと踏み出す事が出来たのですね……。それに比べて私は……。」


「……どうしたの?お姉ちゃん……。何か……難しい事でも……考えてる?」


「いえ……、何も…。ごめんなさい和葉、私そろそろ教室だから……、また放課後にね。」


「……うん。またね……お姉ちゃん……。」



 姉妹で交わしたその会話。それを耳にした者は、二人の他その場に誰もいなかった。

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