(編集済み)葉桜の木『途中経過な俺は』
「おはよう。って空気じゃないなこれ……。まあでも、おはよう西田。そして昨日俺を家に連れて行ってくれてありがとう。
あれが無かったら、俺はマジでずっとあのまま廊下で突っ立ってたかもしれない。」
三葉先輩と昇降口で別れた後に1年B組の教室に入った俺は、たまたま教室のドア付近で雑談に興じていた西田に挨拶をしつつ、昨日の事についての感謝を伝えた。
そして半ば予想していた事であったが、俺が教室に入って早々、ザワザワと騒がしかった1-Bの教室はシーンと静まりかえった。
別にそれは俺が西田に話しかけたからでも、変な事を言ったからでもない。
単純にあの麗奈と別れたと話題になっている俺の、一挙手一投足に変な注目が集まっているというだけの話だ。
だから、それは一時的な物だと思うので、雫の言う通り気にしないことにする。
でないと、一々それらを気にしていては俺の身がもたない。
ということで、俺はそんな空気を気にせずに西田に話しかけた訳だが、なぜか西田は黙って俯いたまま全く動こうとしない。
『あれ?なんか様子が変?』と、思わずその様子に首をかしげ、その顔をズイっと覗き込もうとするとーー次の瞬間、西田はバッと勢いよく顔をこちらに向ける。
それもなぜか満面の笑みで……?
「相川!おはよう!そして……彼女とお別れおめでとう!!非リアを代表して、ざまぁ!って言わしてもらうぜ!さようならリア充の相川!ようこそ!非リアの相川!
俺達非リア同盟は、お前の仲間入りを快く歓迎しているぜ?」
などと、俯かせていた顔を勢いよく上げた西田は、ムカつくぐらいの爽やかな笑顔でそんなクソみたいな話を俺にしてくる。
またそれに合わせて、シーンと静まり返っていた教室の同級生の男達も一転、「おめでとう!」「いつか別れると思ってたぞ!」とか「ざまぁ!!」などと口々に俺にそんな事を言ってくる。
そしてワイワイと、俺が麗奈と別れた話についてみんな面白がって話し始める。
ーー忘れてた……。ここの男たちがリア充に対して異常なまでの恨みを持っている奴らだったということを……。
そしてそんな集団の中で、俺が別れた事を一緒に悲しむ男なんている訳ないという事を。
いるのは別れたことを喜ぶ奴らか、今みたいによく分からない非リア同盟とやらに勧誘してくるような、そんな変な奴らぐらいだ。
そんな事を今更ながらに思い出し、昨日の出来事に関して抱いていた西田への感謝の心がどんどん無くなっていた所ーー
「おーす!相太!今日は変な意味でメッチャ目立ってんなぁ。お前が黛と別れた話は誰かから聞いたけど、一応俺からはご愁傷様とだけ言っておくわ。」
などと言いながら、1人の男が教室の端の方から、俺の所までスタスタと歩いて来た。
そしてその男は俺の肩をポンと叩き、その手で俺の手をガシッと摑まえると、そのまま自身の席の近くまで俺の手を引いたままに歩いて行く。
その道中、謎の笑顔を俺に向けてきている所も、普通に気持ち悪いポイントだ。
「おいおい、なんだよいきなり手とか引いて来て……、男同士で手を取り合って歩くとか、どこにも需要ないぞ
俺はそう言って、中学からの親友、
コイツ、榎本 和樹はサッカー部に所属しているイケメン風の優男で、1-Bに在籍している俺の古くからの悪友だ。
先程言った通り、俺とコイツは中学からの付き合いで、その付き合いの長さからたまにコイツのサッカー部の練習に、部員でもないのに助っ人として参加することがある程だ。
そして付き合いの多いコイツには、俺から麗奈のことで色々と悩みの相談などをしていたので……、今みたいに軽い感じで俺に話しかけることで、『麗奈と別れたことを自分は重く捉えていないぞ』と、暗に俺へとアピールしてくれているみたいだ。
「おいおい、そんな連れないことを言うなよ?俺とお前の仲だろ?それに……、そんな風に連れない態度とってると、後で新しい女の子を紹介してあげないぞ?」
すると、俺に手を振り払われた和樹は少し戯けた口調でそう言いながら、今度は馴れ馴れしく俺の肩をバンバンと叩いてくる。
ていうか、振られた次の日に別の女の子を俺に紹介しようとしているのはどういうことだろうか?
いくらなんでも軽薄が過ぎるだろう……。
俺は苦笑気味に和樹の手を肩からどけて、そのまま自身の席につく。
「はいはい、そりゃ残念なことだな?今はまだ、完全に吹っ切れてるって訳じゃないから、その話は聞かなかったことにしておく。
まあでも、色々気を遣ってくれてありがとな。気持ちだけ受け取っとく。」
若干照れながらも素直な感謝の言葉を伝えた所、和樹は軽薄な顔から一転少し心配そうな顔をして、他の誰にも聞こえないようにヒソヒソと俺に話す。
「そっか……。まあお前の性格上まだアイツのことが好きなんだよな……。全くしょうがない奴だ。さっきのは半分冗談みたいな話だったけど、お前さえ良ければいつでも紹介するからな!優しい女の子とか!もし必要なら気軽に俺に声を掛けてくれ!」
和樹は初めはヒソヒソと最後は明るめに言って締めくくり、続けて「だから、あんまり気にするな。」と言って笑いかけて俺のことを励ましてくれる。
ーークラスの奴らはあんなのだったが、持つべきものはやっぱり親友だな……。
俺はそんな何気ない和樹の気遣いに、心の中で感謝の言葉を送る。
そしてそれと同時に教室に先生が入ってきて、チャイムが鳴ると同時に一時限目の授業が始まった。
「ーー教科書86ページを開いて、まず、小テストの範囲についてだが………。」
俺はそんな先生の声を聞き流しながら、今日起きた出来事、その騒がしい朝の出来事についてボンヤリと思い出す。
「(今朝、麗奈と別れたことに落ち込んでいたはずなのに、それがキッカケで三葉先輩とスゲー仲良くなったんだよな。
それに、ふとした瞬間に麗奈のことよりも三葉先輩との今後について考えている俺がいて……。なんだろ?この感覚?)」
現在、外の風景を眺めている俺の頭に浮かぶのは、昨日別れた麗奈のことよりも今朝の一件で仲良くなった三葉先輩の笑顔ばかり。
その他、ぼんやりと頭に浮かぶ事と言えば、妹である雫の成長とかその雫からの今朝のLINEの内容くらいだ。
あれ程好きだった麗奈の事よりも、俺の事を必要として、ちゃんと俺の事を見てくれる人達の方が重要で大切に感じられる。
俺はそんな内心の変化に戸惑いながら、特に目的もなく外の風景を眺めてみる。
するとそんな俺が目を向けた先には、入学シーズンを終え葉桜に移行しつつある緑混じりの桜の木が一本だけそこには生えている。
「(あんなに入学シーズン綺麗咲いていた桜の木も、いずれはそれが葉桜になって、その花を落としていくんだよな……。
でもそれは、次の季節を迎えるために必要な移ろいであって……。)」
そう考えて俺は、そんな葉桜になりかけている一本の桜がなんだか自分と同じような境遇に感じられた。
桜の木と自分、どちらも次に進むために必要な準備をしていて、今はその準備期間中学なのかもしれない。
そう考えると、先程感じた内心の変化もこれからの為に必要な準備なのかもしれない。
そして授業そっちのけで葉桜を眺めていた俺が気がついた頃には、3限目の授業も終わっており、昼休みの時間に突入していたのだった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます