第7話

中学校の体育教師が殺される事件が大きく動いた。

女子中学生とその彼氏からの話から、被害者には彼女がいて、風俗店で働いているということが分かった。

そのために、渋谷中央署の生活安全化の刑事が総動員され、渋谷にある風俗店や非店舗型の風俗を総当りして被害者との交際のある女性を捜索していた。


一方、西世田谷署の小山田刑事と相棒の窪坂刑事は、被害者に彼女がいるという情報をもたらした女子中学生の家に向かっていた。

小山田にはひらめくものがあった。

「あの女の子にはまだ何かある」

「どこがですか」

「まだ分からない。それを確認したいんだ」

小山田の刑事としての直観力にすっかりリスぺクトしていたから、小山田の勘を信じたいと思っていた。


その日は、休日だったので、芳野眞子の家には父親もいた。

父親は休日にも関わらず刑事が訪問してことに不快感を露わにした。

「学校でも、この家でも何回も警察の人に娘は話をしていますよ。まだ何かあるんですか」

玄関で応対に出た父親は不快さを隠すことも無く小山田たちにぶつけた。

「すいません、お休みのところ。しかし、人が殺された事件ですので、協力してください。お嬢さんも親身になってくれた先生が殺されたのですから、早く犯人を捕まえて欲しいと思っていますよ」

父親は、仕方ないという顔で娘が待つリビングに小山田たちを案内した。

小山田たちは、芳野眞子に、殺された長岡のことを聞いたり、他の友達が長岡との何らかのトラブルがなかったかをふたたび聞き直した。

女子中学生は、最初に会ったときから感じたことだが、小山田の目を見たことがなかった。小山田が一言聞くとそれに答えて、ミネラルウォーターを一口飲むことを繰り返した。

小山田は、娘との話を傍らで聞いている母親の表情も気になっていた。

ずっと手のひらを合わせて落ち着かない。

娘が心配しているのだろうが、そういった落ち着きの無さはあまり経験がない。


「やはりあの親子には何かあるな」

「子供と父親ですか」

「いや、母親のほうだ」

それと当日に分かったのだが、女子中学生には姉がいることも分かった。

姉は、高校を中退したあと、家を出て自活しているという。

母親の話では、現在21歳。渋谷の居酒屋でアルバイトをしているという。

部屋は友人とシェアして借りており、真面目に生活しているという。


「姉の所在を確かめよう」

「そうですね」

小山田たちは、母親に聞いた姉の部屋を訪ねることにした。


その場所は、渋谷から東急井の頭線で何個目かの駅から住宅街を歩いて10分くらいなところにあるアパートだった。

木造で相当古い。

「若い女の子が住むようなところじゃないですね」

「そらそうだが、稼ぎが無いんだろう」

確かに、こんなすえた臭いのするようなところに住むにはそれなりの理由があるのだろうが、なんだか淋しいと小山田たちは感じた。

姉の部屋は一階の端にあった。

ドアには表札のようなものは無い。

ノックすると、仲から声がした。

ドアを開けて出てきたのは、寝起きなのか髪の毛をぼさぼさにした女の子だった。

「芳野眞子さんのお姉さんの麗子さんですか」

「違いますけど」

「一緒に住んでいる方ですか」

女の子はだるそうに答えた。

「西世田谷署の小山田です」

警察バッジを見せると、女の子はとたんに緊張した表情になった。




続く。






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