ニチアサ系魔法少女プリズムガールズ
五千歩万歩
第8話「ドキドキ!春祭りは危険がいっぱい?」
1
桜舞う季節──春。
ここは
この小さな田舎町で今、最大級のイベントが開催されていた。
全国からその町のゆるいキャラが集まってナンバーワンを決める、というイベントだ。
町に住む住民全員が集まった(と言ってもゆるいキャラの数のほうがまだ多い)会場は熱気に包まれていた。
しかし、それを快く思わない男がいた。
その男は左手から何かを発現させる。
それは紫に染められた光の塊であった。
「さあ、行け」
男はそれを会場に向けて飛ばす。
紫色の光は会場に着くなり熊のゆるいキャラの内部に溶けるように入った。
「
男がパチンと指を鳴らすと、熊のゆるいキャラはガクリと力が抜けたようにうなだれた。
かと思えば、何事もなく体勢を戻す。
それはあまりにも一瞬のことで、その場にいた人は気付かなかっただろう。
しかし、熊のゆるいキャラには明らかな変化が起こっていた。
熊のゆるいキャラはのっそり歩くと、近くにいた牛のゆるいキャラに触れる。
すると、牛のゆるいキャラも熊のゆるいキャラ同様うなだれた。
そして、牛のゆるいキャラはカエルのゆるいキャラに触れる。
カエルのゆるいキャラもやはりうなだれ、次にトナカイのゆるいキャラに触れる。
その連鎖が何回も何十回も繰り返された。
一通りその連鎖が終わると、最初の熊のゆるいキャラが一度だけ両手を打ち合わせる。
それが「合図」であった。
ライオンのゆるいキャラが近くにいた不良女子校生に触れた。
「はあ?」
女子校生はライオンのゆるいキャラを睨みつけた。
「何だよ、触れてんじゃねえよ!」
「……ダチ」
「はあ?」
女子校生にはライオンのゆるいキャラが喋った気がした。
そんなことあるわけない。
女子校生は確かめるようにさらに睨んだ。
「トモ……ダチ……」
「はあ? 何言ってやがん──」
そこまで言って、女子校生は黙ってしまった。
いや、黙ったのではない。
喋れなくなったのだ。
(どうなってんだ? 声が出ねえ……)
どれだけ試しても声が出なかった。
(アタシ……どうなっちまったんだ?)
女子校生は鞄からスマホを取り出そうとした。
が、できなかった。
(ああ? な、何だこれ?)
その時目に入ったものに女子校生は驚いた。
自分の手だと思っていたものが何とゆるいキャラと同じものだったのだ。
(ど、どうなったんだよ、これ?)
女子校生は女子トイレに向かった。
そこの鏡で見てみよう、そう思ったのだ。
入口から中に入り、鏡を見た。
(なっ……?)
そこに映っていた姿に女子校生の頭は真っ白になった。
鏡にはペンギンのゆるいキャラが映っていた。
女子校生があらゆるところを触ると鏡の中のゆるいキャラも同じ動きをする。
(嘘だろ……これが……アタシなのか?)
そう思った瞬間、女子校生の頭に声が響いた。
《トモダチを……増ヤセ……》
その声を聞いた途端、鏡の中のゆるいキャラが力なくうなだれ、そして呟いた。
「リョウ……カイ……」
ペンギンのゆるいキャラは女子トイレから出ると、木陰に座っていた女の子に近づいた。
女の子はゆるいキャラの姿を見るなり抱きついた。
「うわあ、ペンギンさんだあ! かわいい!」
女の子はよほどゆるいキャラが好きなのか、何度も何度も頬ずりする。
ペンギンのゆるいキャラは女の子にちょこんと触れた。
「え──?」
それは一瞬であった。
女の子の姿が一瞬にしてヒツジのゆるいキャラに変わったのである。
「トモ……ダチ……」
ペンギンのゆるいキャラが呟くと、ヒツジのゆるいキャラが別の人のほうへ向けて歩き出した。
ゆるいキャラに変わった人が別の人をゆるいキャラに変える、これがあらゆるところで連鎖的に起こった。
気付けば、会場全体がゆるいキャラで埋め尽くされていた。
「
紫色の光を飛ばした男はその光景を空から見下ろしていた。
「さあ、縛られし者たちよ。これからはお前たちの時代だ。同志を増やし続けるのだ」
男が命令すると大勢のゆるいキャラ達が会場の出口に向かって一斉に歩き始める。
そして先頭のゆるいキャラが出口に達しようとした──まさにその時であった。
「これ以上は行かせません!」
少年の声が会場に響いたのである。
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