第11話 最後に聞きたい。
新緑芽吹く皐月、颯爽と恵風が吹かれつつも未だ北海道は寒かった。視察前日の火曜、早朝は霜が降り呼吸に合わせ吐息が一瞬浮かんでは消えて行く。午後から全員で清掃を行っていた。汚れない作業工程や手順を見直した為、それ程汚れは溜まっておらず数時間で終わらせる事が出来た。
清掃終了後、龍太は言った。「今日はこの辺で上がろうか?」
社員達「??」
右次「一時間も早いですよ。」
龍太「たまには、そんな日が有ったっていいだろ。今は汚したくないんだ。」
右次「はーっ?」と力が抜けた様な、右次にとって理解に苦しむ一言だった。
インパクト用ディープソケットは、8番から36番まで雛壇のように並べられロングメガネレンチは、体操選手が背筋を伸ばしている様に整えられていた。工具はすべて箱に仕舞われ、収まりきらない道具は壁に立て掛けられていた。煌びやかとまでは行かないにしろ、清潔に保たれた場内は以前に比べるとそこは、異世界だった。長年の油脂や泥で塗れた場内で有ったが故、依然として黒だった。しかしながら、綺麗でありたいと願う意思がそこには有った。環境生活部もその事を感じ「この分ですと、当分視察を行わなくても問題ないでしょう。」と中年男性は感心した様に言った。
「それでは、我々はこの辺で失礼します。何かご質問でもありますか?」と締めくくり規律的に発した。
「最後に聞きたい。」
「なんでしょう。」
「半年前に受けた講演者と連絡を取りたいのだが、、、。」
「東さんに?どうしてですか?」
「本当の理由は自分にも良く解らない。ただ、どうしてそんなに環境保全活動に熱心になれるのか?直接、彼女に聞いて見たいんだ。」
「いいでしょう。しかし、東さんの連絡先をお教えしることは出来ません。ですが、彼女のスケジュールなら掻い摘んでお知らせすることが出来ます。公になっている日程ですので。それでよろしいですか?」
「ああ、それで構わない。」
思い出すかの様の中年男性は言った。
「今週は、マニラ。来週はコンゴで講演と現場視察、そのあとは会議、、、。確かそれらが終われば、一度北海道に戻られて保全活動をする予定だったはずです。NPO主催のゴミ拾い活動と外来生物の防除だったと思います。私の記憶が確かなら。こちらの活動にご参加頂ければ、東さんに直接ご質問が出来るはずです。主催者側の連絡先は、、、?、現在は分かり兼ねますので、戻り次第FAXかメールにてお知らせいたします。他にご質問は?」と中年男性は淡々と事実を告げ終始にこやかに帰っていった。大柄な男は、何時もの様に終始無言であったが、一瞬頬を緩ませた。
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