第159話 絶世の美女
そして大将はゲ=リ先輩とスシャーナの二人。
ゲ=リ先輩は学者だが、一応物理攻撃主体の戦い方をする。
夏休みで相当鍛錬を積んできたのは知っての通り。
期待しているみんなのためにも、頑張って欲しいところだ。
「さぁみんな集まれ! 円陣を組む」
ゴクドゥー先生が高らかに言う。
「よし、やろうか」
リベル先生たちが生徒の背中を押した。
「おら! 気合いを入れ直すぞ!」
「はいっ!」
待機スペースで体を寄せ合うと、先生方も含めたみんなが右手を重ね合った。
「いいか、今回は『ユラル亜流剣術』の連中が三人もいる」
ゴクドゥー先生が参加生徒一人一人の顔を眺めていく。
そう、今年の第一学園は強いだろう。
フィネス、カルディエ、そしてあのフユナ先輩までもが敵に回ってしまったというわけだ。
第三学園にしたら、ひとりでも強敵なのにね。
「だが俺たちは負けないぞ! 奴等を全員倒して、絶対にぎゃふんと言わせてやろう!」
ゴクドゥー先生が重なった手を下から持ち上げる。
「おおぅー!」
皆が右手を振り上げ、叫んだ。
僕も人一倍声を張り上げた。
勝ってほしいという気持ちは皆と変わりない。
だけど正直、三人も強敵がいたら、さすがに勝ちは厳しいだろうと思う。
勝ち負け関係なしにみんなが参加を楽しめた学園祭になればいいな。
◇◇◇
「――では参加者、入場!」
審判の先生の掛け声とともに、観客席から一斉に拍手が巻き起こった。
『バトルアトランダム』参加者たちは、周囲から見下ろしている観客席の生徒たちに手を振りながら、闘技場内へと足をすすめていく。
僕はそれを笑顔で見送る。
「ゲ=リー! 魅せろおぉ!」
「お前ら、フユナに負けたら承知しねぇからなぁぁー!」
第三学園の観客席が参加者に拍手を送り、一番に盛り上がっている。
それはもちろん、入場時、第三学園のみがフルメンバーだったからだ。
『魔物討伐戦』の成績によって、第一学園は4ペア、第二学園は3ペアに制限されている。
「あぁ、なんだか年甲斐もなく緊張してきたよ……」
「嫌ですねぇ~。私たちが出るのでもないのに」
ミザル先生とマチコ先生が、強張った笑顔を向き合わせている。
「みんな、勝つ。頑張れ」
その横でたどたどしく言うのは、ヒドゥー先生だ。
口数が少なくて存在感があまりないヒドゥー先生だけれど、さっきは魔物討伐戦一位になったのを聞いて、飛んで跳ねての大騒ぎだったという。
「みんな、頑張ってねぇぇ!」
僕も待機スペースから声を張り上げた。
するとスシャーナが遠くで振り返ったのが見えた。
「――サクヤンのおかげで5ペアだよぉぉ!」
スシャーナが、こちらに手を振っている。
「僕ひとりの力じゃないけどねぇぇ!」
僕は口に両手を当てて、叫び返す。
「うんっ、アリアドネさんにも感謝してるわ!」
そう言って、スシャーナが観客席にも大きく手を振った。
スシャーナは内心、大将となった自分へのあてつけで、アーリィが『魔物討伐戦』を適当にこなすのではと心配していたところがあったらしい。
だが当然、アーリィはそんなことをする人間ではなかった。
それはもう猛烈に討伐してくれた。
スシャーナがフユナ先輩に勝てるようにと、しっかり援護してくれたのだ。
スシャーナはそれを聞いて、アーリィと和解する決心をしたらしく、ぶつかり合ってから初めて会話をしていた。
思ったよりも話が弾んで、笑い合ってもいたみたいだった。
アーリィより強いことを証明するためにずっと特訓してここに立っているスシャーナだったけれど、和解したら一転、アーリィを負かすことなどどうでもよくなったそうだ。
よかったね。
うん。やっぱり人間同士って、会話が大事だよな。
◇◇◇
「武器は2つまで持ってよいが、互いに異なる武器を持つこと。同武器2つを持つ双武器使いの場合は事前の申請を要する。なお、近接武器は学園が用意した木製のものを使用すること。鋭利なもの、および自分の武器は魔物を相手にする時のみ許可される」
始まった忠告は、フィネスの右耳から左耳に抜けていった。
フィネスはひたすら、視線を右往左往させている。
「……フィネス様。いけませんわ」
そんなフィネスの左手をつついて、隣に立つカルディエが顔を動かさずに小声で注意する。
「………」
フィネスが小さく唇を噛み締めた。
ここで逢えると何度も言い聞かせて気持ちをこらえ、日が過ぎるのを指折りして待ち、とうとう今日という日を迎えた。
それがどれほどに長い日々だったか、言うまでもない。
昨晩は胸が高鳴って高鳴って、眠れなかったほどである。
しかし全く想定していなかった事態になっていた。
あの方は、ここにはいない。
メンバーに選出されていなかったのだ。
「……サクヤ様……」
勇者アラービスをしのぎ、魔王すらも容易く倒してしまうほどの実力の持ち主。
フィネスは打ちひしがれながら、何度目かしれず、第三学園の参加者を呆然と眺め続ける。
いないとわかっていながら、それでもフィネスの目は、サクヤを探していた。
「………!」
とそこで、フィネスの目が見開かれた。
さまよっていた視線が、ただ一点に固執する。
第三学園の待機スペースにその姿があった気がしたのだ。
「……さ、サクヤ様……!」
胸がとくん、とくんと弾み始める。
フィネスはじっと目を凝らす。
目に映る、一人の男子生徒。
黒髪……あの顔立ち……。
間違いない。
サクヤ様が、あそこに居る……!
「………」
当初は気づいていない様子だったが、フィネスの熱い視線が届いたのか、サクヤは遠くにいながらもフィネスの方を向いた。
ふいに、絡み合った視線。
「………」
目と目が合っているという事実に、フィネスの心が震えた。
「――サクヤ様!」
「ちょ……フィネス様っ」
つい声を上げてしまったフィネスを、カルディエが慌てて取り押さえる。
「………?」
説明していた先生が驚いて言葉を切ってしまうほどに、それは大きな声だった。
◇◇◇
「――ヤ様!」
「………?」
向かい側では、スシャーナが怪訝そうな顔で、第一学園の黒髪の女生徒に目を向ける。
当の女生徒は自分のしてしまったことに気付き、頬を染めて俯いていた。
(あれは……)
もちろん知っている。
去年、三年生ながらも第一学園の大将を務めていた、最強と名高い王国第二王女フィネスだ。
(……ホント噂通りだわ……)
あの時は客席から見ていて気づかなかったが、間近で見ると、鳥肌が立つほどの絶世の美女だった。
そばかす女の自分に比べれば、神様は差別をするのだということを認めさせられるレベルの美貌。
もし第三学園で美少女コンテストなるものを開催したとすれば、一位になるのは疑いなく、アリアドネさんであろうと思う。
しかしあの黒髪の女に至っては、アリアドネさんとて厳しいのでは、と思うほどに桁が違う。
顔のあらゆるパーツが、磨き抜かれているのである。
(いや、ちがう)
今、気にするべきはそこじゃない。
気のせいか、あの女が今、聞き慣れた名前を呼んだような気がしたのだ。
そう、サクヤンの名を。
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