夜 見 先 。
梦現慧琉
初め
「闇裂」、「闇咲」とも表記されるその刀は、妖刀と呼ばれる事からもわかるように、怪しく妖しく、呪われた刀だった。「よみさき」と読まれる場合もあったが、その場合は「黄泉先」に通じる。どちらにせよ、まともな刀ではなかった。
この手の刀にはよくある話ではあるが、持ち主は例外なく凄惨な最期を遂げ、誰かの手に渡り、その誰かも呪われたように死に、そしてまた他の誰かの手に渡り……そうやって、次々に持ち主を変えながら、受け継がれていった。脈々と、世を渡っていった。
そうして、生き血を吸い続けて。
そうして、死に様を眺め続けて。
そうして、世の闇を喰い続けて。
いつしか――いや、それは最初からだったのかもしれなく、其れゆえその名が銘打たれたとするべきなのかもしれないが――その刀身は、黒く、黎く、暗く、昏く……夜の色に、闇の色に、染まっていた。むしろそれは――さながら夜の闇を集め固め打って刃にしたような黒さだった。
夜を打ち貫いたような刀身。
そんな刀が一振りなら、まだ良かった。良くはなかったかもしれないが、しかし……二十四振りも存在するよりは、ずっと良かったに違いない。そう。
「夜岬」は二十四振り在ったのだった。
折れる事もなく、欠ける事もなく、それらの刀達はそれぞれに、生を斬り落とし死を貪り喰らい命を啜り血を飲み、夜を現し闇を潤し続けてきた。夜に塗れ闇に紛れ続けてきた。
二十四本の夜。二十四閃の闇。
アヤカシガタナ。
二十四という数字。
それは八と三を掛けた数。
闇を懸けて出来た刀。
それを四で割ると六が残る。
死で裂き無を残す刀。
そして四は夜に。六は武に。
夜を武としたその刀。
だから、「二十四」なのだと――打ち手がいったい誰であったのかが分からぬ故、最初からそのつもりで二十四振りだったのか、もはや定かではないが――その例えはあまりに、あまりにその妖刀を表していたのだった。
不吉にして不気味。
不快にして不可解。
不安にして不条理。
不穏にして不始末。
世から隠れるように、夜に隠れるように、ひっそりと存在してきた、冷黒なる刀。しかしそれに惹き付けられ、それに魅入られた人間も、数多く居た。
彼らは「夜岬」を求め合い奪い合い、殺し合い……また、自らも死んでいった。闇に憑かれたように――病みに疲れたように。切り裂かれ切り裂いて……延々と永遠のように続くその連鎖。だがやがて。
やがて、その連鎖も断ち切られる。
切欠となったのは、ある病弱な姫君。
切先となったのは、ある冷淡な妖怪。
闇に魅入られ、また闇を愛し、恐怖に駆られ、恐怖に刈られた、その名も黎姫。
闇を無為とし、また闇へ落し、恐怖に生まれ、恐怖に埋まれた、その名も蝕み。
これは物語。――夜の岬を望みし黎明と、
日も月も喰らい蝕む闇との、出会い話だ。
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