第2話
俺は天才だ、紛れもない天才なのだ。
有名私立の小中高で一度も成績トップの座を明け渡したことはないし、難関大学にも主席合格することができた。
いや、できたではない、できて当然なのだ。なぜなら俺は天才なのだから。
どんな秀才も自分の天賦の才の前では塵芥に等しい。所詮努力でカバーするのは限界がある、才能は器、努力は水、どんなに水を注いでも器が大きくなければこぼれだしてしまうだけ。
俺はそのすべてを満たしていた、才能に溺れず青春のすべてを勉学に注ぎ込んできた。誰にも負けない、立ちはだかるものに勝とうとすら思わせないほど圧倒的な頭脳を手に入れるために日々勉学に死にもの狂いで励んでいた。
ある日、それは少しの興味から出たものだった。なんてことはない、暇つぶし程度のものだった。
とある資格の試験会場で、俺は彼女に会った。
彼女は試験会場でどこに行けばいいかわからない様子でオロオロと会場のマップを眺めていた、そこで無視していたらこんな気持ちにならなくて済んだのだろう。
彼女も同じ試験を受けるようで彼女と一緒に会場である会議室に向かった。
話を聞くと、どうやら彼女は俺の2つ下で将来就きたい仕事のために資格を取りに来たらしい。なんとも立派な目標だ、年下とはいえ同じ勉学を志す身として尊敬する。
俺はなんだかんだ勉強がしたいというだけで大学に入った。別に悪いふうには聞こえないかもしれないが将来どうやって生計を立てるかなどということは全く考えてはいなかった、というか今も考えていない。
話は飛び、試験が終わったあと彼女とは連絡先を交換し良き勉学の同志を俺は手に入れることができた。今まで生きてきてこの方、同世代の人間と話し込んだことが殆どなかった俺としてはその生活がとても新鮮で楽しいものだった。
例の試験から数ヶ月経った頃だろうか、俺は彼女に告白された。
そう、告白。異性に対して自分のうちに秘めた想いをさらけ出し伝えるあの告白である。
頭が真っ白になった、正直何を言われているのか十数秒理解できなかった。その空白の十数秒の後、どうにかして捻り出し俺の口から出た言葉は返事を明日まで待ってくれという逃げの言葉だけだった。
家に帰って熟考した、それはもう今までの比ではないほど考えた。
こんなラブコメディのようなことが起きて良いものだろうか、いやない。断じてありえない、ならばこれは夢なのだろうか、いやそれもないだろうただの現実逃避だ。
ともかく時間を無駄にする訳にはいかない、明日が来てしまってもう一度待ってくれなんて言ったら今までの夢のようなひとときはまたたく間に壊れてしまうだろう、本当にそれだけは耐え難い。
ここまで考えて、私はもしかしたら彼女のことが深層心理で好きなのではないかと思えてしまう。というか、普通に好きなのではないだろうか。
いやいやいやいや、結論を出すにはまだ早計すぎる。
俺の中にあるこの感情は友情か愛情か、それをはっきりさせなくてはいけない。だがこれには結論をつけようがないのも事実だ、なぜなら俺は彼女以外に友情もしくは愛情を感じたことがないため自分だけの知識ではどうする事もできない。もちろん相談できるような友人はいないし兄弟もいない、両親はそのどちらともが出張中で気軽に相談に乗ってもらうような状況にない。
自分の頭の中でぐるぐると回り続ける二者択一の無理難題に対するひねくれた問答、
こんなことをしても無意味なことはわかっているが、俺はこういった考え方しかできない。何に活かすわけでもなくまるでゲームのように勉強をしていたツケが今になって回ってきたのだろう。
ああ、この問題に俺は答えることができないらしい。一体俺はこれまでなんのために勉強してきたのだろうか、このまま何も言えずに彼女に失望されてしまうのだろうか。
いや、それだけは駄目だ。俺がいくら嫌われたとしても彼女の勇気だけは踏みにじってはいけない。彼女の気持ちには必ず答えなければいけない、彼女は私にいろいろなことを教えてくれたのだからその恩返しがしたい。
その考えが頭を巡ると、今まで迷っていたのが嘘のようにバラバラだったパズルがどんどん嵌っていく、なぜこんな簡単なことに気づかなかったのだろう。
そうだ、俺に解けないことなんかない。なぜなら俺は天才なのだから。
自分の才能に溺れ、よりて、酩酊
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