第7話 未練!おっさん、元嫁に謝る!

 ある晩、山田は一人エロ本の雪崩を見て淋しさを覚えた。

「そうだ、元嫁は元気にしてるだろうか」

 隣室のドアを叩く勇気を振り絞り、汗ばむ拳に力が入る。全身から立ち込める臭気に我ながら辟易しつつ、元嫁の部屋に設置されているシャワールームを当てにした。

「頼もうー」

 呼びかけに応じるように、ガサゴソバタバタピシャン! という物音の後の静寂。そして舌打ち。

「はい、どちらさまで」

「……山田ですが」

「何か用?」

「え、ああ、元気ですか」

「元気ですよ」

「ちょっといい?」

「良くないです」

「いや、話がしたいんだけど」

「何を話すの」

「は? だって、俺、お前に酷い事したから」

「いや、もういいから。話ってそれだけ?」

「もういいって……謝りたいんだけど」

「はい、わかりました。忘れたからもういいです」

「怒ってるのか」

「怒ってないですよ」

「いや、怒ってる」

「そうじゃなくて、もういいから」

「風呂貸して」

「はあ? バカじゃないの」

「臭いんだよなー、眠れないんだよ」

「(・д・)チッ」

「い、今舌打ちした?」

「うん」

「何で俺を嫌うの」

「自分で分かんないの?」

「いや、酷い事をしたっていうのは分かってる」

「そうじゃなくて。ウザいって言ってんだよ」

「ウザいって、子供じゃないんだからさ」

「うるせえ。本心から反省してるなら、話しかけないで」

「寂しいんだよ」

「よそに行って」

「冷たい事言うなよ、開けてくれ!」

「大声出すと、警察呼びますよ」

「待って!」

「死ね!」

「それが元夫にかける言葉なのか!」

「マジで死んで。それか消えて。ウザい。おっさんのクソ面白くもない自分語り聞きたくない。人の話聞かない上に自分に都合よく他人を解釈し過ぎ。私は幸せ、あんたがいない所で。あんたは自分が幸せでないから私の心配する事で満足したいだけなんだ。そういうのがウザいってんだよちきしょうめが!」

「……言ってる意味がよく分からない」

「読解力ゼロ・グラビティだからな」

「何言ってんの」

「宇宙空間まで逝ってください」

「そんなに俺に死んでほしいか」

「私の世界から消えて」

「わかった。じゃあそうする」

「どうぞお幸せに」

「お前がいなかったら幸せになれない」

「キモイ。何でも色気に結びつけるのマジキモイ」

「何がキモイんだよおおおううう!!!!!!」

「すべてだよおおおおおううう!!!!!!!」

「うるせええええーーーーー!!!!」

 山田は、突如「元夫婦」の忌憚ない会話に割って入った武骨な男性の声に、ハッと我に返った。そして、目の前のドアが勢いよく開けられ、額を強か打ちその場に尻もちをついて悶絶した。

「おい、いいかげんいしろ、みっともない」

 山田を見下ろす、パンツ一枚の男がビール片手に目の前に立っていた。そして山田は、全てを理解した。山田は恥ずかしさと屈辱で真っ赤になりながら、自室へと帰っていった。そして、包丁を握りしめると再び、隣室へと向かう。



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