「夫の愛を失いたくなくてストーカーによる凌辱に耐え続けたのに、かえって合意の上だったのではないかと疑われて関係が破綻してしまう美人妻」「それなんてエロゲ?」「源氏物語ですが何か?」

道化師

翻訳に当たって

※底本は、こちらのサイトhttp://www.sainet.or.jp/~eshibuya/index.htmlから使用させて頂きます。源氏物語の普及を目的に全文を電子化・無償公開なさっておられる渋谷栄一先生に心より感謝と敬意を表します。

※原文と対訳、必要に応じて注という形式を採用します。

※原文を忠実に訳します。私は千年残る名作に足したり引いたりする価値のある文章が書けるとは思っていないからです。

 だから例えば、夕顔は自分から誘いをかけるようなビッチではありませんし、彼女の死に六条御息所は関係ありません。藤壺宮は光源氏に恋愛感情を抱いていません。朝顔の姫君は光源氏との間に肉体関係があったかを「覚えていない」とは言いますが「なかった」とは言わず、女三宮は薫の父親はストーカー男ではなく愛する光源氏だと信じています。ましてや、光源氏がロリコンでないのは言うまでもありません。法律が定める女性の結婚可能年齢が十三歳以上だった時代に、十四歳より下には手を出さない人間がロリコンであってたまるか。

※原文を忠実に訳しますが、以下を例外とします。

一、主語を適切に補います。それに関連して、敬語を適切に省略します。

 源氏物語の人名の多くは後世の人々が名付けたもので、原文では「女君」などとしか呼ばれません。それすら省略されている場合が多いです。敬語を使い分けることによって、主語がなくても誰か分かる仕組みになっているのですが、この手法は敬語のバリエーションがそれほど多くない現代日本語では再現が困難です。敬語ばかりになってウザいだけです。

 一例として、『柏木』帖において、女三宮の言葉が朱雀院に伝えられるところ。

『さるべき人して伝へ奏せさせたまひければ』

 とあるだけで、朱雀院の元に使者を出したのが誰かとは書かれていません。しかし、『させたまひければ』と敬語が使われているので、光源氏だと分かるわけです。よって、「光源氏はしかるべき使者を立てて朱雀院へ伝えられました」と訳せます。(正しくは、この時代になると光源氏でなく六条院と呼ぶべきですが。ストーリーの展開に合わせてキャラの立場・呼び方が変わるのも源氏物語の特徴の一つです。しかし、複雑になるので、便宜上光源氏で統一します)。

 ちなみに、光源氏としては女三宮を出家させたくないので朱雀院に止めてもらおうと思ったのでしょうが、逆に朱雀院は女三宮を出家させてしまいます。二十年ほど前、まだ帝位にあった朱雀帝が、弘徽殿大后の意見とは逆に光源氏を須磨明石から呼び戻したように。実に見事な応報構造です。詳しくはその時に。

二、平安時代の常識を踏まえないと理解できない箇所は、適切に補足します。例えば、「『なくてぞ』とは、かかる折にやと見えたり」。直訳すれば「『なくてぞ』とは、このような時のことかと思われた」ですが、「なくてぞ」とは何かという説明がなければ意味が分かりません。元ネタを引いて、「『ある時はありのすさびに憎かりき亡くてぞ人は恋しかりける』(生きている時は生きているのに慣れて、ありがたみを感じずに憎たらしく思ったが、死んでしまった今はあの人が恋しい)とは、このような時のことかと思われた」と訳します。

三、目的語を適切に補います。例えば「すぐれて時めきたまふありけり」を、「並外れてご寵愛を受けていらっしゃる人がいた」と訳します。「すぐれて時めきたまふ人ありけり」とすべきところを“人”が省略された形だからです。源氏物語ではこのような省略がしばしばあります。

※正確性を重視しますが、必ずしも学校の授業で習うような小難しくてお行儀の良い訳ではなく、分かりやすくて面白い訳を試みます。というか、品詞分解とかに時間を費やして肝心の内容を伝えない学校教育がおかしいのではないでしょうか。だから、日本が世界に誇る源氏物語の内容を、日本人だけが知らないという変なことになるわけで。

 例えば「中将の君といふ、御足など参りすさびて、大殿籠もりぬ」は、「中将の君という者に、足などを揉ませになられて、お休みになられました」が直訳ですが、『足』は男性器の、『大殿籠も』る(「寝る」の尊敬語)は性行為の婉曲表現と考えられます。従って、「中将の君という者に、手コキ奉仕させてから、セックスなさいました」と訳すべきです。


 最後に、渋谷先生の御言葉をお借りして挨拶に代えさせていただきます。

「わたしは、インターネットの最大限の利点を活かして、日本の代表的古典文学作品である「源氏物語」を、誰でもが、何時でも、何処からでも、自由に、読むことができて、しかも、使い易く、信頼できる、内容のあるコンテンツを提供したいと念じています」

「したがって、わたしはweb上に公開したわたしの著作物に対して、著作権や知的財産権などを主張しようとは考えません。利用者の良識によって、広くいろいろと利用されさまざまに活用されることを願っていますので、わたしの著作物に関するダウンロードや加工なども自由です。生物が一つの生命から発生してさまざまな形態に進化を遂げていったように、わたしの作成したコンテンツからさらにより優れたコンテンツが生まれ出てくることを期待しています。一人の人間の力、一個の個体にはおのずと限界があります。このコンテンツがもしこの世に有益なものであれば、これを時空を超えて次の世代へと受け継いで永遠に発展していってもらいたいと願っているのです」

「源氏物語が世界中の人々から広く読まれ、少しでも日本文化の理解と学術の振興に役立つことを願っています」

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