第9話 花が喋って草

「よーし!しっかり10頭それに血抜き済み!依頼達成!」


しばらくあっちにいったりこっちにいったりと動き回って、一角ウサギを10頭しっかり討伐した。1頭以外、全員クリーンキルだ。討伐の依頼だから達成だ。


「さて、帰るとするか」


周りはまだ明るい。きっと狩を始めてから2時間ぐらいしか経っていないだろう。

血を吸わせるためにズローチェニーメイクェイファーのところに来て、それから帰ることにした。ズローチェニーメイクェイファーは、特に変わったことはなく、太陽に照らされている。


「帰ったらご飯たくさん食べよっと!」


そのまま、ウサギを抱えて帰ることにした。


すると、


『………また捨てられた』

『………悲しい…』


そんな声が聞こえた。当然ジンは周りを見る。だが周りには誰1人と人はいない。


「誰だ!」


そう声を出しても誰も返事をしない。空耳だろうと判断して、また歩き始めようとすると、


『………捨て…ないで……寂しい……』


また聞こえた。特に周りは変わった様子はない。誰もいないし、何もない。ただ、風に揺れる、短い草だけ。

しかし、黒い葉2枚が明らかにこっちを向いているぐらいだ。


「もしかしてだけど、君?」


『……ん』


返事が返ってきた。どうやら、意識があるらしい。今の状態は明らかに変人そのもの。「地面に生えている黒い草と喋る人」の状態だ。他人から見ると不気味すぎる。


「君草でしょ?頑張って生きな、じゃあな」


意識があるのだったら自由に生きればいいじゃないか。あ、動けないか。


『……そうやって…アレを吸わせといて……中古になったら……ぽいするの?……』


「いや、アレっていっても血だろ?それになんか言い方いけない気がする」


悲しいトーンで言われ、ジンの心が折れた。そもそも、草は親友だ。助けないと。


「しょうがない。拾ってあげるよ望むなら」


『……ん……拾って』


喋る草が仲間になった。でも引っこ抜いたら痛いかな。いっか、抜いてあげよう。

ジンは草をつまんで、引っこ抜いた。


『うう……見ちゃダメ……』


まるで人間のように恥ずかしがって、モジモジする。どう見ても根、茎、葉の植物が根を足にしてくねくねしている。何が見ちゃダメなのだろうか。


「さ、行こお腹すいたから何か食べたいし」

そう言いジンは手を伸ばして持ち上げようとした。茎の部分を持って。


『……だ、ダメ!…そこダメ!……」


いきなり大声を出され、持ち上げるのをやめた。そして地面に手を置いて、自分から登らせたのだった。












「依頼は達成したからあとはよろしく」


「わかりました、お疲れ様でした」


ギルドに戻るなり、依頼達成報告をして、お金を受け取った。肉の代金は後日もらえるそうだ。まだ、夕方ぐらいだが、一角ウサギを追いかけるために走ったり、待ち伏せたりと、運動をしたので、お腹が空いた。


「ご飯はあそこでいっか。君は何か食べたりするの?」


『……ん…食べる…』


帰り道も少しは喋ったが、このは口数が少ない。静かでいいのだが、少しは喋ってほしい。

そのままジンは歩き、【牛の乳亭】と言うところに入った。

受付のようなところで席を紹介されて、席に着き、ご飯を頼んだ。


「えっと、一撃熊イチゲキグマのシチューとこんがり焼きパンと叫び鳥の唐揚げをよろしく」


「わかりました」


しっかりとご飯を頼み、食事を待った。

暇なので、このと話しをしてようかな。


「ご飯どうやって食べるの?」


『………栄養…吸う…』


「おお、そうか」


なんとも安直な答えが返ってくる。さっき、草を持ち上げようとした時から何故か避けられている気がする。何か悪いことしたのだろうか。


「これからどうするの?」


『……ついてく…』


やっぱり避けられている気がする。それに未だにモジモジしてるし。

それに少し喋りすぎたみたいだ。周りから若干視線がくる。


「こちらが一撃熊シチューとこんがり焼きパンと叫び鳥の唐揚げですご注文は以上ですね」


「はい」


「ごゆっくりどうぞ」


しっかりとご飯が並んだ。叫び鳥の唐揚げは、このが食べたいらしい。

量が、お皿にドンと置かれていて、量がものすごく多い。

食べきれるのだろうか。

そのほかのシチューも、野獣臭さもなく、美味しそうだし、こんがり焼きパンは、黒パンと違って、ふわふわパリパリで美味しそうだ。シチューに絡めて食べよう。


「食べよっか」


『……ん』


そう言い、手をつけた。シチューはクリーミーでホワホワして美味しいし、パンも黒パンと違って美味しい。そしてこの値段。なんと、シチュー250レギット、パン100レギット、唐揚げ300レギットである。合計650レギットである。安い!それにうまい。とても良い店のようだ。これからここに通うのもアリだなっと思いながら食事をした。

このは何やら、根を唐揚げに絡めている。そして片っ端から、栄養を吸い取っているらしい。栄養を吸われた唐揚げは、拳ほどのサイズだったものが、ミニトマト並みの大きさまでになっていた。

それからしばらく食べた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る