第2話 思い出すまで「その格好です!」 その1
主観「キリュア」
その姿は、正に幼いころ庭師の方から聞かされた「天地創造列伝」に出てくる慈愛と正義の女神のものだった。当時8歳だった私は簡単に魅了され、それからは自然と彼を目で追うようになった。
…12年間も一緒に居た。だから間違えることなんてない。
確信を持って言う。
今目の前にいる男の子「上総雄子」がルノアの生まれ変わりだと。
――――――――――――――――
主観「雄子」
先程から体をじろじろ見られてるのが恥ずかしいのだが…変なところないよな。
僕はすでにほぼ硬直状態なので沈黙はしばらく続いた。
思えば彼女とあってから何分経ったのだろうか。多分もう始業式が始まってしまうのに。
「…ねえ?」
おお!! やっと口を動かしてくれた。
どんな言葉が飛んでくるのか。
もしかしたら体臭が臭い、とか言われてしまうのだろうか。けど女の子、それも美少女にそんなことを言われたら薔薇色じゃなく灰色の学園生活になってしまう。
「ルノス・ファーヴァルト・ロスティーザ」
「……えっ!?」
不思議と後ずさった。
別に自分の名前を呼ばれてドキッ、ってしたわけでもないのに今…驚いている。
知っている。
その名を。
今まで聞いたことないけど、親近感まで湧いてきた。
脳裏にへばりつく様に一音一音が懐かしい。
「なんで…その名を?」
「やっぱ、そうなんだね! …うぅ、ぐす。会いたかったよ~」
ふぎゅ。
ナニナニ? なんで僕美少女に抱きつかれたの? 思考回路がショートしちゃうよ。
場面敵はおいしい所かもしれないが、意味が分からなければ謎でしかない。
…例え彼女の2つの膨らみが当たっていても。
「私だよ。覚えているよね? 魔王を倒した同士だもんね。永遠の姉だからね!!」
…は?
今日は頭を抱え込むことばっかで辛い。
帰ったら早く寝て脳みそを冷やしたい。…風邪をひかない程度に。
でも初めてあった人の名前まで当てられるほど運は良くないし、知らない。
この場合は素直に聞いた方がいいだろう。
(過去に後ろ姿だけで知人を誰かわかるという変な特技を披露して、子役アイドルと間違えて大変な迷惑を被ってしまったことがあったので)
「あの僕は上総雄子ですよ? か・ず・さ・ゆ・う・こ、です!!」
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主観「キリュア」
どうも反応がおかしい。
前世の顔見知りが来たんだよ。お姉ちゃんが来たんだよ!! (本当の姉ではない。けどこの子が6歳のころから遊んでいたのでついお姉ちゃんと名乗りたくなるのだ)
容姿はまんまなのに、まさか中身は…てことはないかな。
私は名探偵さながら顎に手を当ててしばらく考えてみた。
……禁術「輪廻円」
この魔法でルノスを生き返らそうとした。けどそれはすぐ生き返るというわけではなく遠い星の彼方に転生されるというものだった。
彼の死を前に落ち着いてなどいられなかった臣下たちは…しぶしぶこの術に頼った。
―――もう、会えないけど。それでも我が王には笑っていてほしい。
満場一致で取り掛かった。
来世では幸せにただの人の子としての生活を送ってほしい。ただその望みだけでその場にいた全員は涙を流した。
せーの、で腕から血を流し、呪文を唱えた。
古来から禁術と呼ばれるものは術者の精神を蝕み、ひどい場合死に至らしめる。
いかに女神の加護を人一倍受けているとて、私たちも例外じゃない。
徐々に口から血を漏らし、意識が朦朧になっていく。
魔力もどんどん吸われて、無くなったら生命力さえ吸われるのだから堪ったもんじゃない。
「今ここに星の総意に基づき、彼に溢れんばかりの幸福を!!!!!!!!!!」
そして1人1人溶けていなくなった。
痛いとか、そんな次元のものはとうの昔に超えている。
が、その時見えたのだ。
…ルノスと私たちが笑い合って手を取る姿が。
だから悲しくもあり、嬉しくもあった。
…
……。
「あの、そろそろ間に合わなくなるから体育館行かない?」
…。
「…話があるなら入学式終わった後でしよ?」
…。
「…ねえ? そうしよ!?」
…。
……。
キーンコーン、カーンコーン。
「本当に…」
現在時刻は9時を回った。
そのお知らせを親切に届けてくれるのはいいが、今は耳触りな音にしか聞こえない。
彼の反応、言動からおかしいとは思った。
前世という輪廻の時間を通ってきたのは分かる。
一瞬で永遠の時間旅行をしたのだから生易しいものではないのも理解している。
けど。
だけどさ。
こんなのって……ないよ。
「何? ごめん聞こえなかったらもう一回言ってくれる?」
みんなとの思い出までなくしちゃうなんて神様の…。
「えっ? 何」
「……ルノスのバカって言ったの!!!!!!!!」
「ええええええええええええええっ! なんで怒られたー!?」
てかルノスって誰ー、と言いやがったので私の心は今ドスグロイなにかに変わってしまった。
……仕方ない。コンパスに誤りはない。
容姿も声のトーンだって覚えている限りルノス本人のもの。
だとするなら。
……本当に仕方ない。
背に腹はかえられない。これは本当に奥の奥の手なんだけど使わなければ一生思い出さないなんて最悪な状況があるわけだから。
ブレザーの胸ポケットから長細いボールペンを出す。
しかしこのボールペンは勉強道具だから持ってきたわけではないのだ。
コンパスに引き続きこれも魔法道具であるのだ。
用途は魔法を書く、というもの。
(これさえあれば、この世界で怪しまれないで済むし便利なんだよね。口頭魔法は確かに速やかに発動できるけど、どうしても早口で唱えると噛んでしまうから使いどころが難しいだよね。その点、書くのは筆記体で十分発動するから良いんだよね)
……それはそうと。
筆先のキャップを外した。
その瞬間指が自立した生き物のように動き出す。
……「逆鏡の潮汐」。
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