第10話 壊れたブレーキ

社長の話が終わり、僕は職場に戻った。


「 おはようございます。」

……。挨拶は返ってきた。だけど、避けられてるような、僕の登場に戸惑っているような雰囲気に感じられた。気にしていてもしょうがない。よしっ、仕事しよう!


…… ってあれ!? ええっ!?


なぜか本来業務でこなすはずの自分の仕事がないことに気づいた。

とりあえず、現状把握から行うことにした。

休んでいる間、仕事がどのように進められていたのか? 問題はなかったのか? 現在進行中の案件は何なのだろうか?


だが、僕1人ではそれすらもわからない。

デスクでPCを立ち上げメールを確認すると

僕の休職から2日後である11月7日以降のメールが届いていない…!!


僕は軽い浦島太郎状態になった。

仕方なく周りの人へ状況を聞いて回るのだが

説明はしてくれるものの、相変わらず何かがおかしい。


この違和感は一体… 。でも正体はすぐにわかった。

---詩織だ。---


腕組みをして僕のことを睨みつけていたのだ。

一瞬で僕は悟った。詩織は僕の復職に備え水面下で、僕が仕事にのめり込まないように根回ししていたのだと。

だからあんなに念押ししていたのか、と僕の中でつながった。



それからというもの、僕は6割程度にセーブしながら仕事をしていた。セーブすることでやり甲斐も少なく物足りなさを感じていた。常にもう少しブレーキを緩めたいと思っていた。


周りの人達は何も言わなかった。

詩織を除いては。


詩織は事あるごとに「飛ばしすぎ!」と言ってきた。気にかけてくれていることはわかるものの、僕は内心ウンザリしていた。


そんな時、僕だけにしか対応することができない問題が発生した。詩織から

「レンさん、食事中に申し訳ないのですが設備のトラブルが解決しないので昼休みの後、手伝って頂けませんか?」と言われた。


は? 何故敬語?

そもそもあなた部署違うし。

それでも仕事ならやりますよ?

でもさぁ、僕から仕事を取り上げといてこんな時だけ敬語でお願いとか都合良すぎじゃね?


レンは心の中でひとしきり愚痴った。


今の僕は朝9時から午後2時までの時短勤務だ。

結局トラブルが解決したのは午後7時だった。

意に反したトラブルの処理だったが、久しぶりに仕事をやり切ったという充実感を感じた。


この瞬間、僕の心の中でかけていたブレーキはついに壊れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る