1の4 不穏な忠告

 ポーター家の嫡男として帝都にて育てられた。

 ポーター家は何代か前にアウレー大陸西方の国から移住してきた後、リパロヴィナ中央省庁に勤めるようになった役人家系である。

 ウェスリーの父アリスター・ポーターは魔法省に勤める役人である。父の教育や影響のため、ウェスリーは幼少時より進んで魔術を学んできた。

 この国で魔法術を学ぶということには歴史的な意味で一点の曇りがある。

 リパロヴィナに於いては魔法術使用は長く聖帝の専有の権利であった。魔法術は聖帝の行う神聖なる御業であり、俗人がこれを用いることは聖帝を穢す行為であるとされていたのだ。帝室の者以外で魔法術を研究、使用する人間があれば、厳しく処罰された。数百年も遡れば研究者や在野の魔術師を弾圧、虐殺した歴史さえある。

 この百数十年の間に時代は大きく様変わりした。

 中世的な価値観は遠ざけられ、リパロヴィナにも近代的な潮流が生まれた。魔法術は一般人や軍人に使用が許可され、企業は魔法具を生産することが可能となる。国の機関として魔法術研究所も設立された。

 とは言え人々の意識に根深く刻み込まれた感覚はそう簡単には消えはしない。

 未だに一般人が許可された日常使用魔法を使うときはおっかなびっくり、穢れ祓いの言葉を口ずさんでからだし、より強力な魔法を用いる軍人に対する一部からの風当たりは強い。

 そんな中で育ったウェスリーは、しかし魔法術を好んだ。

 一度ならずこんなことがあった。

 ウェスリーの家では数人の女中を雇っているのだが、ある日その中でも年嵩の女中が庭先で落ち葉を掃き集めている。彼女はもう腰の曲がる老婆で、中々器用に落ち葉を一か所へ固められないのである。傍で見ていた幼いウェスリーは苛々して、覚えたての風魔法を使った。小さな旋風が起こり、老女中の目の前で落ち葉が巻き上げられた後一か所にまとまって落ちた。

 労を省けて彼女がさぞ喜ぶだろうと思ったウェスリーは、老女中の態度に面食らって年の近い女中見習の元へ逃げた。老女は血相を変えてウェスリーの両肩を掴み、唾を飛ばしかねない勢いでこう言ったのだ。

「坊ちゃんこんな恐ろしいことはしちゃいけません。神様がお怒りになって坊ちゃんを連れて行ってしまう。坊ちゃんいいですか、絶対にこんなことはしちゃいけません」

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