放課後 一

~ 統合暦二三〇二年四月一日 八時一七分 ~


「ペローネ・パムです。よろしくお願いします」


 王立学院の一年生となったペローネの挨拶は、級友となった者達の普通の拍手で歓迎された。

 入学を許された時期等の兼ね合いで、新年度の一年生からの始まりとなったのだ。


 教室の多くはペローネと同じ人間ホモスであったが、獣人ビストス鬼人オーガ、または水棲人アクアンの特徴を持つ者達の姿もあった。


「アタシは【リンダ・スピーナ】。北のシルテッタ伯領の出身だ。チョー一流の戦闘魔法士を目指してる。よろしくな」


 拍手と共に席に着いた白狼の獣人ビストスの少女がペローネを向いて笑った。

 級友となる者達の挨拶が続くが、獣人ビストスの少女はもうそちらを見ようともしなかった。


「パッとしねえ奴らばっかだな。なあパム」

「さて、どうだろうね。あ、私はペローネでいいよスピーナさん」

「アタシもリンダと呼びな。まあいいさ。魔力の『色持ち』なんて上玉がいるんだからよ、ヒヒヒッ」


 リーンゴーン、リーンゴーンと鐘が鳴り、授業が始まった。

 授業始めにオリエンテーリングが軽く入り、以降は教師の声と黒板を走る白墨の音が響く。

 人語学、数学、歴史と続き、昼食を終えて魔法学となって放課となった。


 席を立ったペローネの後にリンダが続く。


「何だよペローネ、もう誰かと待ち合わせかよ」

「ええ、こう見えてモテるので」

「ぷっ、何がこう見えてだよ」


 修練館の前に着くと、上級生の男が待っており、促されて中へと入る。


 板敷の広間、大勢の上級生達が控えるその中心に、一人の人間ホモスの男が木剣を持ち佇んでいた。


「来たかペローネ・パム」

「お待たせしてすみません【クイリーノ・ラッソキ】先輩」

「構わん」


 クイリーノが木剣の切先をペローネへと向けた。


「師からお前は俺より強いと聞かされた。試験の時に師との立合いは見た。魔力が色を帯びているもの見た。だが、俺よりも強いとは思わなかった」


 ペローネの後ろで扉の閉まる音が鳴った。


「悪いが立ち会ってもらう。武器は好きなのを使うといい」


 ペローネの前に置かれた籠には魔導剣や魔導槍、魔導斧から魔導弓までが入れられていた。


「先輩は木剣を持っていますが?」

「ハンデだ。そもそも俺の方がお前のような下級生の女を呼び出した上に無茶を言っているのだ。流石にゴーレムは出してやれないが、好きな得物を取るといい」


 その青過ぎる自信に、純粋な傲慢さに、ペローネは小さく溜息を吐いた。


「流石は『剣の最優』保持者ですね」


 鞄を置き拳を握り、「30%か」と小さな呟きを漏らす。


「どうしたペローネ・パム。好きな武器を取れ。心配するな、小細工はしてないし、どれも一級品で揃えてある」

「いえ、武器は要りません」

「……何だと?」


これだけで十分です」

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