ルルヴァ・パム 五

 風が吹く。


 ボルゴラックから治療魔法を受けたルルヴァは、彼の頭の上へと移される。


 右手で風を撫でる。

 実体化した飛燕王を握る。


「一つ、答えてください」

「ふむ?」


「何故、僕達を襲ったのですか?」


 ルルヴァとボルゴラック、リクスとニグナトス、マックスと旋風天狗ボルテックス


 ルルヴァ達が武器を向ける先で、それを何とも思わないように構えることもせず、何かを考える素振りをするロー・アトラス、いや【清浄の刃 オヌルス・アムン】。


「二か月前、クラド共和国の町ナバで小さないさかいが起きた。商に来ていた男に町の役人が多額の賄賂わいろを要求したことが発端だったそうだ。男はしばらくナバに留まっていたが、件の役人からの嫌がらせが続き、遂には死者を出すまでに至った。まあ死んだのは無法者のクズどもなのでここは問題ない」


「だが男は役人と敵対する中で、ナバの町の暗部を目撃することになった。神殿が禁じた品々の売買、そして『見世物ショー』だ」


「初めて知ったという顔だな。当然だ。我ら聖典騎士が極秘裏に処理した案件だ。むしろ貴様らが知っているということになれば、情報管理の問題で何人かを斬らねばならなかった所だ」


「ああ、そうだ、男が目撃した見世物ショーの話だったな。特に珍しいものではないが、暇を持て余したクズどもが、攫って来た子供達を殺し合わせる、或いは獣の餌にするという悪趣味なものだ」


「男は堪らず子供達を逃がす為に動き、しかし失敗した。見付かり、用心棒に追い詰められた。訓練を終えた兵士程の実力では、大剣位の用心棒に太刀打ちできなかった為だ」


「男の心根は尊敬に値する。命を懸けて正義を成そうとした行動は、聖霊が人に求める善そのものだ。例え成せずに死んだとしても、我らは彼の名誉をこの世に残しただろう」


―― だが男は成した。成してしまった。


「男は眷属を呼び出した。男の右腕が巨大な炎の腕に変わり、追手を薙ぎ払い、地下施設に大穴を開けたそうだ」


「男は一人逃げた。守ろうとした者達も消し炭にして。悪は滅ぼされた。しかし正義は行われず、男の偽善だけが成された」


「男はその町に居合わせた聖典騎士が仕留めた。そして間違いなく眷属だったと彼女は証言した。ありえない。眷属は魔王がいなければ生まれず、存在もできないからだ」


「第十二魔王は死んだ。そして次の魔王が現れるまで、計算上はあと百五十年以上が必要なはずだった」


「だが眷属の出現が第十二魔王の死を否定する。いや、新たな魔王が出現した可能性さえ示唆している」


「我らは調査をした。結果、パムの中の住人の誰かが魔王であるという結論に至った」


「さて、他に質問はないかね?」


「ふむ、仮に新たに魔王が生まれたとして、十数年という短い時間で誕生した魔王がどれ程の脅威となるか、か。成程。いや、君は全く魔王というものを知らないのだね」


「世界の悪意がこごり、世界を憎む者へ囁き、融合することで魔王は誕生する。確かこれが一番有名な俗説だったかな。ああ、出鱈目でたらめだよ。魔王はこんな可愛いらしいものじゃない」


「君は悪邪という存在を知っているかね。そうだ。異界から現れる破滅の化身のことだ。数百人以上を生贄に捧げ、それを器としてこの世界で形を得る。殆どが数十m以上の巨体であり、心道位でも下位ではまず勝てない相手だ」


「その悪邪には元となった主がいてね」


「悪邪達の主【虚栄】、【虚妄】、【虚戒】、【虚身】、【空楽】、【空言】、【空法】、【空哲】、【無夢】、【無道】、【無省】、【無信】、そして【魔王】の十三体。この【十三人の奴隷】がこことは別の世界に堕ち、満ちていた力に形を与えて生まれた存在こそが悪邪」


「下級悪邪でもその本来においては、とても人が抗し得るもではない。受肉の為に器を得、形という拘束を受けたことで、力の制約を受ける。だから辛うじて人は対抗することができている。ちなみに二万人を一瞬で食らい、私の故郷を滅ぼした悪邪もまた下級だったよ」


「つまり魔王とは悪邪の主の名にして、傀儡となった者を指す言葉。魔族とは眷属の苗床。そして眷属は悪邪の種という訳だ。この段階ならば、魔王が滅びた瞬間に眷属も朽ちて消滅するのだがね」


「魔王は滅ぼさねばならない。しかし短いサイクルで現れた為か力が弱すぎて、特定できない。しかし放置しておけば魔族は増え、彼らにいた眷属はやがて悪邪を芽吹かせてしまう」


「これが答えだ。パムを滅ぼし、その住人の尽くを殺した、な。理解してくれたかね?」

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