第48話「実戦1(後編)」
「
両手を開き、敵のいる方向へと向けて、
両手からそれぞれ6発づつ、連続して魔光弾が放たれる。
一度放つと魔力弾系の魔法が十秒間使用不可になる代わりに、一気に連射できる限定技だ。
牽制に放ったそれは、見事に敵を一瞬だけ足止めし、何体かを行動不能にさせた。
爆発と共に派手なエフェクトで煙が立ち上る。
魔弾の光も華々しく、なんとまぁ派手に光るんだか……。
轟音と共に飛び交うそれはまるで花火だ。
だが、それでいい。
そうすることが制限、限定になっているのだから。
無色透明で音も鳴らない魔法なんて、便利すぎるだろ?
そんな便利すぎる魔法は
だから魔紋登録で少しでも空きが作れて、別の魔法も使えるようにするために、派手なエフェクトを付けて制限するって訳だ。
別に趣味で派手にしてる訳じゃないんだぜ?
それはさておき。
敵の数は多い。
仲間の心配をする余裕さえ無い。
ララは? ティエラは? みんなは? 無事だろうか。
心配ではある。
だが、それでも、今はやるべき事をやるしかない。
だってここは戦場なのだから。
そうこうしている間にも敵はこちらに迫ってくる。
遠距離戦の距離は終わり、中距離を超え、白兵の距離へと雪崩れ込んでくる。
ある程度の数は減らしたものの、魔法戦の距離では終わらせられなかった。
だから
「
魔法発動の暗号を口にする。
限定条件の一つ、魔法の発動体として指定してある指輪が輝き、両拳が鈍く蒼い光に包まれる。
私ちゃんには悪いが、実戦では俺の戦法の方が有利だろう。
正攻法の闘いではない。ズルくて、汚くて、卑怯で残虐な俺の邪法、戦術こそが――!
――だから、俺メインで動かせてもらうぜ!!
迫り来る敵のナイフ。その距離よりもわずかに遠間。
放つはフィンガージャブ。指を伸ばした目を狙った鋭い一閃。
そのままではナイフよりも射程が短い。
だがしかし――。
魔力刃・壱式――
先ほど発動させた拳を纏う淡い輝きが、魔力の剣となって手から伸びていた。
指先から
それがザクリと、相手の両目の辺りを凪ぐように切り裂く。
「ウギェェッ!?」
醜い声で悲鳴を上げながら反射的に状態を反らし、両手で目を覆うような姿勢になる妖魔。
返す刀で相手の首を凪ぐ。
スパリと、ナイフでケーキを斬るような手ごたえで、その手から伸びた魔力剣が
血を吐き、苦痛に呻いてもがく
「
発動の合言葉を口にする。
魔力弾が至近距離で爆発し、頚部から上を吹き飛ばす。
絶命した妖魔はサラサラとまるで光る砂のように、光り輝く金の粒子となり消滅してゆく。
ハラリと、奴らが身にまとっていたボロボロの衣服が地に落ち、ガラリと武器が残される。
これが妖魔の死だ。
妖魔は死体を残さない。
まるでこの世界の存在ではないかのような異質な化け物。
それがこいつら――亜人という名の害敵種!
周囲を取り巻く妖魔。
牽制と迎撃を兼ねた
中国武術やエクストリームマーシャルアーツなどで見る、後方に足を投げ捨てるように空中で横に寝そべるような形で両脚は縦軸の旋転を行う技。
ようは魅せ技だが、使いようによっては武器にもなる。
小指と親指を輪にするような形で手印を作る。
すると踵に魔力の刃が生成される。
周囲を取り巻いていた妖魔の喉元へと魔力刃が滑り込む。
魔力刃・七式――
喉元から血を噴出しながらもがき苦しむ妖魔はアリスが撃破。
ティエラとシアも応戦して
残る一匹の攻撃を捌きつつ、右拳を相手の腹部へと叩き込む。
蒼く輝く拳。その触れた箇所が爆発四散する。
勢いそのままに放たれた拳は、一瞬空洞と化した腹の内部を突き進み、むき出しになった背骨へと叩き込まれる!
「ブゲェォ……ッ!?」
体幹の中心軸となる背骨を砕かれ、地面へと倒れこみ、バタバタとしばらくもがいた後、やがて妖魔は粒子と化して消えていった。
魔力刃・零式――
遠距離用の魔力弾をアレンジした、七つと追加で一つ、斬撃、刺突、爆破をそれぞれバリエーションに持つ近接用に限定特化させた魔法を駆使して白兵距離へと近づいてきた敵を処理していく。
――体が鉛のように重い。
まるで粘着質なヘドロが体に纏わり付いているかのようだ。
ねばつく汗が体を這いずりまわり気持ちが悪い。
これが……実戦――!
命をかけた戦いというプレッシャー。
死が眼前に存在するという恐怖。
ほんの小さな心理的差、されど大きな違いがこれほどまでに肉体を疲弊させるとは。
練習の闘いの倍以上の疲れだ。
けれど――。
負けられない。
こんな所で終わるわけにはいかないからな!!
親指を伸ばした手から伸びる順手の魔力刃。
いや――それは尖った、刺し穿ち、貫く事に特化した長い
魔力刃・弐式――
剣の間合いでは不利と見たか、
痛みに呻いてもがき苦しむ相手を、そのまま手首と肘、肩関節を極めながらの合気道のような投げで間接をくじきつつ投げ飛ばし、頭部を地面へと固定させ、悲鳴と共に開いた口内へと向けて左拳を叩き込む。
魔力刃・零式――
零式の爆発で頭部を上下へと別たれた妖魔はそのまま粒子となって溶け消えた。
これで、何匹目だ……?
意識が一瞬飛びそうになりながらも、体はきちんと動いていた。
あの日、学んだ技と経験が体を動かしている。
白露花女学院名物、
そしてティエラとの個人鍛錬。
それに、あの夏に行った武闘大会。その戦術で学んだ経験と技。
それら経験が
全てが無駄じゃなかった。
だから――
生きてられる!
けど――。
このままじゃ後衛へと雪崩れ込む前衛の敵を押しとどめるので限界だ。
ララとリルルは風の結界を張り続けるのに力と意識を集中させている。
あの量の矢の雨だ。全力で専念しなければ防ぎきれないのだろう。
このままだと突破されてこちらの後衛が瓦解、壊滅。
風の結界が解かれてしまったら矢の雨の洗礼が待っている。
その先にあるのは全滅だ。
だが、それ以前にだ。
俺は、誰も、犠牲なんて、一人だって出したくないんだ!!
今思い出せば幸せな生活だった。
楽しい家族がいて、楽しい仲間がいて。
その仲間にだって家族がいて。
みんな、みんな幸せで――。
その誰か一人だって欠けたら、その幸せは成立しないんだ。
ここで誰か一人でも死んじまったら、もう二度とあの幸せは返って来ないんだ。
俺は、その幸せを――失いたくない!!
だから俺は――!!
「アリス、セフィア、ティエラ。ちょっとだけ時間を稼いでくれ!」
俺は両手で印を組むと同時に叫んだ。
アリスもセフィアもティエラも、その言葉と俺の動きで全てを察してくれた。
俺を中心に陣形を敷き、俺に敵が来ないようにしつつ、襲い来る敵の波を迎え撃つ。
両手の人差し指と小指、親指を伸ばし、中指薬指を折り曲げた手で左右の五指をくっつける。
威力を強化するために選択した複雑で特殊な手印。
特に意味は無いが、他の動作が阻害され、多少難解であるという限定が利いたこの形を作りながら長い呪文を詠唱する。
「
この間にも、アリスとセフィア、ティエラ達は俺を信じて戦ってくれている。
他のみんなも長くは持たない。
だからこそ、この一撃で決める!
二段
両手を突き出し、左右の親指と小指だけを付け、残りの指を伸ばした手を相手に向ける。
竜の開いた
「
特殊な手印、複雑な長い呪文詠唱、そして合言葉と共に放たれる“一日一回”限定の、俺の究極魔法が解放される。
両手から放たれた極太の光線は一瞬で敵の群れに炸裂。
光がドームを型作りながら爆発し、大地を穿ち、砕き、その周囲にいた敵弓兵を爆風、そして爆発による副産物である飛礫により打ち砕いてゆく。
そして、爆風の煙が消えた頃には、矢の雨は止んでいた。
大地に大穴が穿たれたその場に、一兵たりとて生き残る弓兵はいなかった。
「おぉ……」
「なんと……」
「うぉっほぉ~!? やるやんか~っ! なんやあの魔法。あんなんあるなら最初から使えっちゅうねんっ!」
みんなからの様々な声が聞こえた。
けれど、戦いはまだ始まったばかりだ。
後衛の弓兵と、最前線で捨て駒にされたのであろう前衛は良い。
中央で様子を見ていたボス各らしき敵が進撃を始めたのだ。
俺は、周囲の仲間たち――白兵戦を得意とするみんなが前進を始めるのを見て、それに合わせて
そして空中で多段
迫り来る敵を殲滅するために!!
こうして、俺たちの実戦は始まってしまった。
――どうしてこのような事になってしまったのか。
考えても意味など無い。
結果、この結末に至ってしまった。
それだけだ。
それ以外に答などないし、それ以外に道は無かった。
とりあえず、何がなんだかわからないだろうから……そうだな。
どうしてこうなるに至ったのか。
ティエラが泊まりに来たあの日。
あの翌日辺りから振り返っていく事としようか……。
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