第22話「まったりお休みモード」



 つくづく思わされる。


 人生ってのは生まれつき決まっているんだな、って。


 成功するやつはいつだってそうだ。

 最初からいきなり成功しちまうんだ。

 望まなくても勝てちまったりするんだよ。


 な●うやカ○ヨムだってそうさ。


 成功する作品ってのは、なぜかいきなりハイスコアからのスタートだったりする。


 面白いからその結果だ、なんて言う奴もいるが、埋もれた作品にだって同じくらいには普通に面白いものは存在するだろう? きちんと探しゃあな。


 だが、埋もれる。


 埋もれちまえば、見向きもされない。


 見向きもされないから、さらに埋もれる。


 埋もれてるから、どうせたいして面白くないんだろうと、流し読みされる。


 流し読みされるから、ちゃんと読めば面白かったりする作品でも、つまらないと評価されちまう。



 そして、読ませる力がないからだ、とか、面白みが無い、なんて言われちまうんだ。



 これは素晴らしいですよ、ってブランドが無ければ、信用が無ければ見向きもされない。



 人生ってのもそんなもんだよな。



 いっぺん底辺に落ちちまったら、どうあがいたって抜け出せないんだ。



 金のある所には金が集まるし、女から好かれる奴にばかり女がよりつく。


 男は浮気性、なんて大嘘だ。女が浮気するような男にばかり目が向くだけさ。


 金の無い奴は金のために時間を削って、時間を削るから這い上がるためのビジネスなんざやる余裕もなく、金が無いままだから結局は金のためにまた時間を削り続ける。


 埋もれ続ける負の連鎖だ。


 敗北は敗北を生む。


 負け犬の負の連鎖は、誰かが手助けでもしない限り、外からの援助でもない限り抜け出せないんだ。


 最初からダメだった奴はいつまで努力しても無駄。


 だが、負け犬に差し伸べられる手なんざ無い。



『負け犬はどうせ力が無いから負け犬なんだ。

 だから手を差し伸べても無駄。

 力が無いからそんな所で地を舐めているんだ』



 なんて決め付けられてな。

 本当は、隠された力があるかもしれないのによ。

 けど、誰もそんな賭けには出ないんだ。



 だから、もし例え能力があったとしても、運がなければ勝てはしないのさ。



 運が悪ければ勝てない。勝てないから、次も勝てない。


 敗北が敗北を生む、負の連鎖。



 この世なんてそんなもの。



 それが人生そのもの。



 この世界の縮図なんだ。



 ましてや、能力なんて蚊ほども無かったんだろうな。



 何一つ結果を生み出せなかった欠陥品。



 それが俺だ。



 そんな、努力してやっと人並み。



 ……努力しても人並み以下だった。



 そんな俺みたいな屑人間……アニメみたいな転生でもしなきゃ何もできる訳が無ぇ。



 人生再チャレンジなんて夢のまた夢。



 現実は、夢物語じゃないんだ。



 御伽噺みたいにお綺麗じゃあないのさ。



 味わってきた不幸分の幸せなんざ、死後に転生でもしなきゃ味わえないのかもしれない。




――だから俺は。




――今、まさに二度目の人生を満喫していた。




 窓の外には、やや紫がかった夜空。


 その暗闇の中、煌々と光を放つ赤と青の二つの天体。


――月。


 そう、この異世界エルデフィアには月が二つある。



 それはこの世界が明らかに、俺がかつて生きてきた世界とは異なるという事を示す証の一つだ。



 異世界転生。



 奇妙なきっかけでこの世界に転生しまったものの。



 正直、俺は今、幸せに満たされている。



 児童体温……なまら暖けぇ……。



 ゆったりポカポカした、ふわふわとやわらかなものが両脇に触れている。


 触れているというか、ぎゅーっとしがみつかれている。


 ララとシアがどこにいるかって?


 今、俺のベッドの中で眠ってるよ。


 まさに絶賛抱きつかれ中だ。


 暖かいし柔らかいし良い匂いがする。


 そして、眼と鼻の先に可愛らしい寝顔が二つある訳で。



 もうね、最高に幸せですよ。



 言っておくが俺はロリコンではない、断じてないぞ!


 でもな、可愛い美少女と添い寝なんてな。



 マジで天国だぞ!!



 昨日の今日だけど、やっぱり四眼巨大黒毛牛狼ペルペルパンバギウスの恐怖は拭えなかったようで、また添い寝の打診が来た訳で。


 断る理由は当然無いよな。


 三人で同じベッドに眠る事になった訳さ。



 余りに可愛いんで優しく頭撫で撫でしてたら二人ともよほど疲れてたのかコトンと落ちた。



 父性愛を感じるね。



 ……むしろ母性に目覚めそうだ。



 母乳が出てきたらどうしよう。



 冗談はさておき。



 よしよし、と頭を優しくなでる。



「むにゃぁ……」



 どんな楽しい夢を見ているのやら、ふにゃぁっと笑顔になるシア。



 いい子いい子、と撫で撫でする。



「ふにゅん……」



 甘えるようにすりついてくるララ。



 なんだろうね。すごい幸せです。



 心が温まるというか、脳内から幸せがドバドバと溢れるような、ふわーっとした幸福感に包まれる。



 可愛いっ。



 二人にすりすりと頬ずりする。



「んぃ~……」

「んにゅ~……」



 二人もぎゅ~っと抱きしめ返してくる。



 あぁ、なんかもう、蕩けそう……。




 そんな感じで、この世の幸福を全て濃縮したような感覚に浸っていると……。



 もぞもぞ。


 もそもそ。


 ん?


「……ミリアちゃん」


 唐突に、ララが小さな声をあげる。


「どうしたの? ララちゃん」

「……おトイレ」


 すると、袖をチョンチョンと軽く引っ張られる。


「わらわもじゃ……」


 シアが上目遣いでこちらを見ていた。


 そう言われてみると……。


「あー……私も」

「じゃあ、一緒に行こ?」

「うむ、急がねば漏らしてしまうのじゃ~」



 四眼巨大黒毛牛狼ペルペルパンバギウスの恐怖は心の奥底まで染め上げているようで。

 今でも窓の外から襲い掛かってくるんじゃないか、という恐ろしさに苛まれる。

 というか、ベッドの天蓋を開けたらそこに、なんて恐怖も……。


 考えるだけでチビリそうだった。


 ちょっとした鳥の鳴き声までも怖く聞こえてしまう。


 そんな中、トイレに向かう三人。



 結局は、貴族・憲兵・大貧民デュー・クェア・ロゥ。この世界でのジャンケンみたいなもので順番を決めて、三人で個室に入って用を足すのであった。


 広さ的には、三人入っても問題ないからね。



 こうして、三人でトイレを済まして再び寝入るので――。



――ありませんでした。



 眠りにつかせてくれない。



 少女特有の甘い良い匂い。

 強く抱きしめられた右腕。

 指先がいけないところにはさまれている。


 そして、こちらを見つめるピュアな瞳。

 それが二つ。


 ぎゅぅぎゅぅと強く抱きしめられ、すりすりと腕に頬ずりされる。


 息が吹きかかる近さで見つめてくるシア。


「シ、シア……?」

「ん? なんじゃ?」


 悪戯めいた微笑を浮かべ。


「ふふふん、お望みは、おやすみのキッスじゃな?」



 こちらの返答などおかまいなしに、むちゅ~っと、頬に柔らかな感触。



「あ~、シアばかりずるい~。わたしも~」


 体のもう片方。左半身にはララがきゅぅ~っと力強くしがみついている。


 腕枕状態から、ぎゅーっと抱き寄せて胸元に頬をすりすりとこすりつける。


 まるで猫のように。


 自分のものだと主張するために匂いをつけるかのように。


「わ、わたしも。おやすみの……ちゅー」


 恥ずかしげに頬を染めながら、近づいてくる桜色の蕾。


 やがて、頬に暖かで幸福な感触。



 まさに天国オブ・ザ天国。



 なんというか、もうこれだけで前世の不幸分チャラになるかも。



 そんな超幸せ状態。



 ロリとか子供とかじゃなくね、可愛いんですよ。



 もう、そしてね。



「ぎゅ~っ」

「ぎゅ~っなのじゃっ」



 強く求められ、抱きしめられる柔らかで暖かで、幸せな圧迫感。



 そして何というかね。触れ合うぬくもりっていうのかな?



 脳内に幸せホルモンがドッパドッパ出まくって、ふわっふわと頭が真っ白になるくらい気持ちいいんです。



 思えば、男に生まれた前世では、大人になるにつれて他者とのスキンシップなんてなくなっていった。



 誰かに甘えたり、ハグしたり、ハグされたり。


 そんなのは、恋人でも作らない限り誰とも出来ない。


 そんな人生を過ごしてきたのに。



 なんだよこれ。



 女子児童に生まれてきただけで毎日がスキンシップという愛に溢れているんだけど!?



 ふわふわと、まるで温泉につかってるみたいな暖かさ。



 許容量を超えた幸福感と温もりに意識がゆっくりと遠のいていく。



「あ、寝ちゃった」

「可愛らしいのう」



 そんな声が聞こえた気がした。


 頭を撫でられる感触と、頬に柔らかな感触。



 一瞬で、意識は暖かな幸福の海へと落ちてゆき――。




――今日も、実に幸せな一日でしたとさ。



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