第86話 許可証とカタクのギルド
視界がゆっくりと、ハッキリしてくる……
俺達の目の前には、ウエストのギルドマスターのアストロが、ギルド職員を引き連れて立っていた。
「ダンジョンを攻略されたようですね……」
「ん? あぁ、攻略は終わったが、態々お出迎えか?」
「今回は貴方ではなく、そちらのお二人に用がありますので……
先程、ダンジョンから出てこられたように見えましたが?」
アストロは俺達には見向きもせず、レンに詰め寄るように言った。
「んぁ? 俺達か? ジンと一緒に攻略してたが?」
「貴方達には、ダンジョン内に入る許可は出していませんが? ダンジョンはギルドに所有権があります。そこに許可なく入れば、不法侵入となることはご理解頂けますか?」
ダンジョンに入る許可は、俺と一緒に攻略するなら問題なかったはずだが……
アストロが連れてきている職員の中に、許可を出した職員がいた。
職員は、申し訳なさそうにこちらに何度も頭を下げている。
「ギルドマスターの権限を使って、許可を揉み消したみたいだな……」
「あぁ、そういう事か……ユダ、あれを見せてやれ」
「はいっ!」
レンが呆れながら、ユダに指示を出すと、ユダが懐から1枚の紙を取り出した。
「これが何だか分かりますか?
ここにいるレン様は、シグニンズ王国の王家専属冒険者です。ダンジョン攻略の許可は、シグニンズ王国は勿論、攻略済みの南の大陸、コダパウア王国の許可も頂いおります」
ユダが懐から取り出したのは、王家発行のダンジョン攻略の許可証のようだ、コダパウア王国の許可までいつの間に取ったのだろうか……
「それがどうかしましたか?
勿論、そちらのレンと言う冒険者が王家専属冒険者なのは知っています。
それに、その許可証は本国、ウリタカントでは効果はありませんよ?」
アストロが勝ち誇ったような笑みを浮かべながら言った。
アストロの言う通り、ウリタカント王国内のダンジョンである以上、他国の許可を取っていても意味がない。
「そんなこと、分かっていますよ。
僕がこれを提示しても、まだ気づきませんか?」
「ふん! 往生際が悪いですね!
ウリタカントの許可が無い以上、その許可証は無効だと言っているでしょう! 君たち、あの二人を捕らえなさい」
職員達は嫌々こちらに歩いてくる。ギルドマスターの命令に従うのは不本意なのだろう。
「マスター! 待ってください!」
1人の職員が橋を走って来ている。手には1枚の紙を持っていた。
「やっと来ましたか……」
ユダが呟いた。どうやら、待っていたものが到着したようだ。
「何ですか? 騒々しい……」
アストロが職員から受け取った紙を見て、顔を青くして固まった。
「そこに僕達の攻略を許可する内容が書かれていませんか?」
「何故です……ありえません!
そうだ! 日付は!」
「日付は2日前のはずです。僕達が丁度、ダンジョンに入った日です」
「そんな……バカな……」
アストロは力無く、崩れ落ちて膝を着いた。
「それでは、失礼します。
おっと、これは僕達宛の書類なので、頂いていきますね」
俺達は、そのままダンジョンを離れた。
※ ※ ※ ※
「ギリギリ間に合いましたね!」
「ホントだぜ! ユダが許可証を持ってると思って言ったのに、まだ受け取ってなかったのかよ!」
「仕方ないじゃないですか、この書類が届いたのは今日ですよ?
一応、今日届くとは聞いていましたからね、最悪捕まっても、今日中には釈放される予定でしたよ?」
俺達は談笑しながら、町を歩いている。
どうやら、先程の騒動はある程度、賭けだったらしい。
「どういう事? なんで、ウリタカントの許可証が貰えたの? いつの間にウリタカントの王都に行ってきたの?」
理解が追いついていないリオが聞いてきた。王都まで行っている時間はなかったはずなので、リオの反応が普通なのだろうが……
「どうせ、各国の王都に使者が居るんだろ?」
「さすが、ジンさんですね。その通りです。
どの国でダンジョンが出現するか分からないので、各国の王都に使者を配置しています。」
「え? それが今回の話とどう繋がるの?」
リオはまだ理解出来ずにいた。
分かりやすく説明すると……
「ダンジョンが出現すれば、各国の王都の冒険者ギルドには、どこで出現したかの情報が入るだろ?」
「うん……」
「ダンジョンが出現した国に配置された使者は、その国の王家にダンジョン攻略の許可を取りに行くんだ。
許可が取れれば、現地にいるレン達に渡すという手筈と言ったところか?」
「ええ、その通りです。」
「そうすれば、今回みたいに現地で問題が起きても、国から許可を取っていると言えば、大体のことは片がつくということだ」
「書状なので、到着までは時間が掛かりますから、今回のように、後出しになってしまうこともありますが、有るに越したことは無いということです。」
「私達は無いけど……大丈夫なのかな?」
「俺達は王家専属じゃないからな、取ろうとしても取れないだろう。
まぁ、今回みたいに許可を取れば問題ないんだし、必要ないだろ」
「それもそうだね!
それで、次はどこの国にダンジョンが出来たのかなぁ?ユダくんには情報入ってるの?」
「まだ、情報はありませんが、推測では、次は東の大陸に出現しているはずですね……」
リオの質問に、ユダが答えた。まだ情報は入っていないようだ。
「次のダンジョンは東の大陸で合ってるはずだ」
「なんで分かるの?」
「そりゃあ、北、南、西ってきたら残りは東しかないからじゃねぇか? それにダンジョンがある町の名前も分かるぜ?」
「そうだな、残りはあれしかないからな」
「ジンさんも分かるんですか?」
「じゃぁ、どこに出来たって言うの?」
「「東の大陸、イーストだ」」
俺とレンは同時に答えた。
※ ※ ※ ※
俺達は、カタクの東門付近に来ている。太陽が真上に昇りつつあるので、昼前ぐらいだろう。
ウエストの町から離れた所から、ゲートを通って来たのだが、レンにチートだと言われ続けた。
ちなみに、ユダは終始ブツブツ言いながら付いてきている。
「こんな能力があるなら、なんでダンジョンで使わねぇんだ? 魔物を閉じ込めたり、寝床としても使えるだろ?」
「ダンジョンの中じゃ使えないんだよ……」
「ダンジョン自体が異空間らしくてな、ゲートを開くことも出来ないんだ。
それに、このゲートは一度行ったことのある場所にしか行けないからな」
「なんだ、どこでも〇アみたいに使えねぇのか……」
そんな事を話しながら、カタク東門に着いた俺達は、門番のカインさんに、ギルドカードを見せて、冒険者ギルドを目指した。
俺達のギルドカードを見たカインさんが「Bランク1人とAランクが3人……だと……」とか言いながら震えていた。
「ここが、ジンが初めに来た町かー」
「いい町だろ?」
「そうだな、いい具合に活気があるな。
それで、この町には何をしに来たんだ?」
「そう言えば、説明してなかったな……
この町の西にある森で、オーガの群れを討伐したのは話したよな?」
「あぁ、それならダンジョンを攻略する前に聞いたな。
魔剣を持ってたんだろ?」
「そうだ。オーガを討伐したことで、魔剣が壊れて、森の魔素が全体に広がったんだが、その後、どうなったのか気になってな」
「様子を見に来たってことか」
「私情で悪いが、ここが終わったら、すぐに東に向かうからさ」
「ゲートのおかげで、かなり時短できてんだ、気にしないでくれ」
「そう言ってもらえると助かるよ。
ここが、この町のギルドだ」
ギルドに着いた俺達は、扉を開けて中に入った。
「なんだこれ……」
ギルドに入った俺は、中の光景を見て驚いた。
依頼書が依頼ボードに留まらず、壁を埋め尽くすように張り出されていた。
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