第59話 絶景と土の家


「ここが2層か·····川の次は海ってことか」


「綺麗なところだね!」


2層は海辺のダンジョンだった

と言うか、見渡すかぎり海が広がっていた

どの方向も水平線まで海が広がっている

海と言っても、波はなく、鏡のように青空を映し出している

今まで見た中で1番の絶景かもしれない·····それぐらいに、綺麗な場所だった

足元は砂地になっていて、くるぶし辺りまで水面が来ている


「見える範囲には、この祭壇だけか·····」


海の真ん中に、祭壇がポツンと置かれている

念の為、祭壇を確認したが、帰還用の祭壇だった


「どこに向かえばいいんだろう·····」


「このダンジョンも地下に道がみたいだぞ?」


マップで確認すると、薄く洞窟の様なマップが重なっている


「それじゃ、また掘る?」


「いや·····このダンジョンは掘っても攻略できないと思うぞ?掘って到達出来たとしても水中だろうからな·····」


「じゃあどうやって先に進むの?」


「さぁな·····海の中を潜って行けってことか?」


「そんなの無理だよ!息が持たないし·····でも、ジンくんならいけたりする?」


「俺をなんだと思ってるんだ?息が出来なきゃ無理に決まってるだろ」



リオにバリアで空間を作って移動しても、中の酸素が無くなれば終わりだ

その都度、戻ってくる方法も考えたが、攻略するより、リオの魔力が尽きる方が早いだろう


「無理やり攻略するのは無理そうだな、正規ルートを探そう」


俺達は、探索できる範囲で正規ルートを探した

探索できる範囲は、砂浜の上だけだ

マップでは、直径2キロ程の円形に表示されている

丁度、真ん中に帰還用の祭壇があるみたいだ




「何も無いよー?ジンくん、なんか見つけたー?」


「収穫ゼロだな·····」


数十分、足元を探し回っていたが、何も見つからなかった


「このままじゃ、暗くなっちゃうよ?」


「そうだな·····1度、帰還して、何か方法を考えるか」


俺達がダンジョンに入ってから、かなり時間が経つ

青空だった空が、すこし赤く染まり始めている

俺は祭壇の本に手を伸ばした


「ん?」


「どうしたの?」


「いや·····水かさが下がってないか?」


2層に来た時は、くるぶしぐらいまであった海水が、今は、砂浜が見えるか見えないかぐらいまで、下がっている


「もしかして、干潮か?」


「カンチョウ?」


「海は約半日事に、水が増えたり減ったりしてるんだ」


「え?なんで?どこかに流れていって、また戻ってくるの?」


「確か、日本にいた時は月が影響してたはずだが·····この世界にも月があるから、同じ現象なのかもな」


「それで、その、干潮が起こったら何かあるの?」


「もしかしたら、道ができるかもな·····まだ時間はかかるだろうから、一度戻って体制を立て直そう」


「そっか·····そう言えば、シロにご飯あげてないね」


今回は急に、ダンジョン内に移動することになったので、シロの異空間に大量の食料を置き忘れていた


「早く帰ってやらないと可哀想だな·····」


俺は、本に魔力を込める

すると、白い光に包まれ、視界が白くなっていく


ゆっくりと、視界がハッキリしてくると·····


「お!戻ってきよったな!どうじゃった?ダンジョンの中は!」


ギルドマスターのおばあさんが、目の前に立っていた

その他にも、数人、ギルド関係者らしい人達がこっちを見ている

おばあさんは、俺達が戻ってくるなり、質問してきた


「ん?あぁ、とりあえず、1層はクリアしたぞ、2層は時間の関係で1度戻ってきたんだ」


「っな!?もう1層を攻略しよったのか!?証明の球を見せてみぃ!」


「これの事か?」


そう言って、手の中から赤い球を出してみせる

この球は、帰還してきた時にいつの間にか、手に持っていた

球には『2』と書かれているだけだ


「間違いないようじゃな·····」


「これを見るだけで分かるのか?」


「む?北のダンジョンを攻略したのに、帰還球を知らんのか?」


「帰還せずに攻略したからな、で、帰還球ってなんだ?」


「なんてやつらじゃ·····」


おばあさんが、人外の物を見るような目でこっちを見ている



「帰還球とは、帰還した時に手に入る球での、数字は帰還した時の階層が書かれておるんじゃ」


「それじゃ、北のダンジョンの球を見せてるだけかもしれないぞ?」


「それは有り得ん事じゃ、北のダンジョンは緑の球じゃし、帰還球はダンジョンに戻る時に消えるからの

北のダンジョンを攻略したなら、持ってるとすれば、5が書かれた帰還球じゃな」


今まで攻略してきた人達が、どうやって攻略した階層まで行き来していたのか、少し気になっていたが、謎が解けた


「なるほどな、そうなっていたのか

あ、そう言えば、この街に宿かな何かはないか?」


宿があるなら、ダンジョンに戻るまではそこで休息しておきたいが·····


「空いてるテントがあるが、使うか?」


「テントしかないのか?いくら砂漠と言っても、この時期は朝晩は結構冷えるだろ」


「町を立て替えてる途中じゃからな·····」


「そう言えば、そうだったな·····それなら、どうせ誰も使わないなら、そこを使わせてもらってもいいか?」


俺はダンジョンの近くの瓦礫を指さして言った


「ん?そんな場所でいいならいくらでも好きに使って構わんぞ?」


「そうか、それなら有難く使わせてもらうぞ」


許可を貰えたので、俺は瓦礫に近づいて地面に手をつける

魔力を込めて、土を盛上げて、中を空洞にする

入口になる穴を空けて、属性強化<土>で固めて補強する

出来上がったのは、砂漠の砂を使った、真四角の形をした家だ


「こんなもんだな、それじゃ、また後でダンジョンに戻るから、それまではここで休ませてもらうことにする」


それだけ言い残して、俺とリオは家に入って行った

おばあさんは口を空けて固まっていた



「結構広いんだねー!ベットとか、テーブルもイスもあるー!」


中に入るなり、リオがはしゃいでいる


「どうせ作るならと思って、作っただけだ、たぶん使わないと思うがな

それより、異空間に行くんだろ?」


俺は、家の入口を閉じながら言った

勝手に入ってこられて、俺達がいないことがバレると、説明するのも面倒なので、入口は完全に閉じた


「そうだね!」


リオが異空間のゲートを開いた

俺達は異空間へ向かった



『クゥーン·····』

俺たちに気づいたシロが近づいてきた


「ほら!飯だ!·····リオも食うか?」


作り置きしたステーキを、シロに食べさせる

リオが食べたそうに見ていたので、聞いた


「うんっ!」


「それじゃ、飯にするか」


俺達も飯にすることにした

アイテムボックスから俺達の分の飯を取り出して、シロと一緒に食べた




「シロ!これは少しずつ食べるんだぞ?帰ってくるのが遅くなるかもしれないからな」


食材の山を指さしながら、シロに言った

シロは首をかしげて、こっちを見ているん


「ダンジョンからここに来れたらいいんだけどね·····」


「前より多めに置いておくが、ダンジョン攻略が遅くなったら、また戻ってくるのを考えないといけないな

とりあえず、町に戻るか·····」


俺達は、ゲートを通って、サウスの家に戻った



「おーい!若いの!聞こえとらんのかー?おーい」


ゲートを通って、土魔法で作った家に戻ってくると

外から、おばあさんの声が聞こえた


「なんだ?何か用か?」


俺は入口の穴を空けて、返事をした


「やっと出てきおったか·····中で何をしとったんじゃ?」


「別になんでもいいだろ、用がないなら閉めるぞ」


「待て待て!用があるから呼んだんじゃ!」


俺が閉めようとすると、おばあさんが慌てて止めてきた


「実はの·····私たちの家も作ってもらえんかの?」


「どういう事だ?今取り壊してるところなんだろ?まさか、町を作れってことじゃないだろうな?」


「避難所の方をお願いしたいんじゃ·····この時期は朝晩が冷え込むからの····テントじゃ隙間風が入ってきての·····もちろん、報酬は支払うぞ?」


砂漠の夜は寒い

これから冬になると、もっと冷え込んでいくだろう

俺が作った家は、簡単な作りだが隙間がない分、テントよりは遮熱効果がある

この先の事を考えて、町長として指名依頼を出しに来たようだ


「何軒必要なんだ?ダンジョンに行くまでの間だけなら作ってもいいが」


「ほ、本当か!?報酬は何がいいんじゃ?」


「報酬か·····特に欲しいものもないし、金でいいぞ?」


「それなら·····1軒、大金貨1枚でどうじゃ?」


大金貨1枚と言えば、日本円で100万相当だ

テントの数だけ作るなら、50近くの家を建てることになる


「土魔法で作るだけだから、そんなにいらないぞ?金貨1枚でいい」


「いや·····そう言う訳にはいかん!せめて金貨8枚は払わせてくれ!」


「どうしても払いたいなら、金貨3枚だ!」


「むぅ·····なら、間をとって金貨5枚でどうじゃ!」


「仕方ない·····それでいいだろう·····」


何故か、報酬の値上げ交渉を依頼人からされた

おばあさんが、中々折れてくれないので、1軒、金貨5枚で受ける事になった


その後、避難所の簡易テントがある場所に、合計57軒の土の家を建てた

町人達はみんな泣いて喜んでいた



「これが、報酬の大金貨28枚と金貨5枚じゃ!お主たちのお陰で、この冬を越せそうじゃわい!」


「それはよかったよ、俺達はそろそろ、ダンジョンに戻るが、ダンジョンの近くに建てた家は好きに使ってくれ」


報酬を受け取った俺達は、またダンジョンの中へ戻ることにした

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