第34話 シロと武術大会の案内状

 

「すごいな·····こいつがいればすごい戦力じゃないか?」


「それが·····この空間でしか維持出来ないの·····」


どうやら、空間人形は、この異空間だからこそ制御できる能力らしい

つまり、誰かと戦わすことは出来ないが、戦えば成長する修行相手と戦える空間ということだ


「それは仕方ないな·····それと、こいつもう少し見えるように出来ないか?」


「あ!忘れてた!これでどう?」


そう言うと、体がしっかり見えてくる

そこには裸の俺が立っていた·····

念のために説明しておくが、息子はついてなかった


「俺を元に作ったのか?」


「バレちゃった?」


「別に構わないが·····俺自身だとちょっと戦いづらいんだよな·····」


自分と全く同じ姿をした物に斬りかかれるかと言われれば少し戸惑ってしまう


「それなら大丈夫!これで完成じゃなくて、これはただの器なの!ここにこれを入れると·····」


そう言って、リオがこの前、倒したハイオークの魔石を取り出して、空間人形に吸収させる

すると·····空間人形の姿が変わっていく·····

自分の姿が変わっていくのを見るのは少し抵抗があるが、完成した姿はハイオークの様にデカくて筋肉が盛り上がっている俺だ、顔もちょっと厳つくなっている

つまり、魔石を吸収することによって魔石に入っている魔物データが空間人形に取り込まれて、姿やスキルが変わるらしい

戦闘情報はすべて魔石に溜まるらしく、メモリーカードの様に入れ替えて使うことが出来るらしい


「それなら·····これを使ってくれ!」


そう言って、ブラッドウルフの魔石を取り出した

レアな魔物の魔石だから保管していたやつだ

貧乏性がここで役立った·····


「いいけど·····昨日覚えさせた魔法スキルはハイオークの魔石のなかだよ?」


「もう一度こっちに覚えさせれればいいんだろ?それよりこいつが持ってるスキルの方が修行に向いている」


「わかったわ·····」


リオがすこし寂しそうに、魔石を入れ替えた

昨日の夜に何時間かけたんだろうか·····


「入れ替えたわよ!」


空間人形の姿が変わっていく、大きな姿が元の俺と同じ大きさに変わっていき、変形が終わった

そこには髪が白く、目が赤い俺がいた、尻尾が生えて耳が頭の上の方に移動している



「これでもう戦えるのか?」


「一応大丈夫だけど、初めは魔物のステータスになってるから、私が操作しようか?そのまま闘わせることも出来るけど、動きが獣になっちゃうんだよね」


「操作も出来るのか?でもこのまま戦わせてくれ、こいつのスキルには血液制御ブラッドコントロールがあるはずだからな、本能でどんな攻撃をしてくるかを見てみたい」


「わかったわ、念のために危なかったら強制的に止めるからね!」


「あぁ!それじゃ制御を解除してくれ!」



「グガァアアアアア!」


解除した途端、俺に向かって突っ込んでくる

しかも、四足歩行だ·····完璧に獣だな

突っ込んできた空間人形の攻撃を躱して、思っきし蹴飛ばす

勢いよく飛んで行った空間人形が空中で一回転して着地する

今度は俺を警戒しながら、俺を中心に歩き始めた

俺が隙を見せると、背後から飛びかかってきた

攻撃に合わせてカウンターを入れる

俺の拳が空間人形の顔面にクリティカルして吹き飛んでいく

その後も、何度か襲いかかってきたが血液制御ブラッドコントロールを使ってくる気配がない·····


「なぁ、こいつって血はあるのか?」


「え?どうだろ·····わかんない·····」


「ちょっと斬ってみるか·····リオ、制御して動かないようにしてくれ」


俺は血刀で軽く斬ってみるが、血が流れる気配がない····


「血がないから血液制御ブラッドコントロールは使えないってことか·····それじゃ、これを吸収させればどうだ?」


そう言ってアイテムボックスから俺の血を1L取り出して空間人形に吸収させる


「もう一度、制御を解除してみてくれ」


「解除したわ!」


すると、空間人形の目付きが変わり、俺を睨みつける

変わらずの四足歩行で突っ込んできた、さっきまでの戦闘で学んだのかフェイントを入れながら、俺の血刀を警戒しながら噛み付いてきたり、爪で引っ掻いてくる

よく見ると、爪と歯が赤い

血を使ってコーティングしているようだ

俺の血の硬さを理解して、自分の武器に纏わせているのだろう


「四足歩行だから武器が持てないんだろうな·····」


呟きながら、血刀で斬り掛かる

『キィーン!』

血刀が爪でガードされる


「ほぅ·····動きに慣れてきたか?なら少しスピードを上げるか·····」



その日1日、異空間で修行をした

その結果·····もう1人の俺が完成した


「かなりいい出来じゃないか?」


「でも·····強くなりすぎじゃない?」


「まぁな·····こいつの成長速度が早すぎるんだよ·····弱点はあるけどな」


初めはかなり弱かったが、二足歩行になった所から成長速度が一気に上がった

俺の真似をして血刀を持って、剣術スキルを手に入れると、すぐにレベルがあがり、俺と対等に戦えるようになった

魔法もこっちが使えば真似してきて、すぐに俺と対等になる

だが·····俺よりもレベルが上にまでは成長しなかった

それに、魔力が直ぐに枯渇するので魔法攻撃はあまりしてこない

それでも、いい修行相手が完成した


「名前どうしよっか?」


リオが変なことを聞いてきた


「名前?空間人形のことか?」


「うん、空間人形って呼びにくくない?何か名前考えてあげようよ!」


確かに呼びにくいが·····名付けか·····


「何か考えてるのか?」


「見た目が白いから·····シロ!」


「犬みたいな名前だな·····まぁそれでいいんじゃないか?とりあえず、見た目が裸のままにしとくのは何かと問題だから、後でカタクまでゲートを開けてくれ」


空間人形、改め『シロ』は異空間に置いて

俺たちは風呂で汗を流してから、宿の食堂に向かった

食堂に着いた俺達は、空いてるテーブルに座る


「おかえりなさい!本日は、どうなさいますか?」


今朝のスタッフがオーダーを取りに来た


「俺はコンバットブルのステーキで」


「私も同じので!」


「はい、かしこまりました·····あ!あなたは!今朝は美味しかったです!お食事の後で結構ですので、料理長がお呼びでしたので、キッチンの方に顔だけ出していただけますか?」


オーダーを取っている時に気づいたようだ

料理長が俺の事を呼んでるらしいが、腹減ったし、とりあえず、飯だな


飯を食べ終えた俺はキッチンに向かった

リオにはシロの防具を作るために、ゲートを使って、カタクの町まで行ってもらっている

どうせならシェリーさんにお願いした方がいいだろう


「おい!料理長はいるか?」


「あ!旦那!ちょっと聞きたいことがありまして、油なんですが·····原料だけでも教えて貰えませんか?」


「あぁ、そりゃ分からないよな·····こいつだ」


そう言って、穀物を取り出した


「こいつらは油分が多い穀物だから、簡単に油を作ることができるが、量がかなりいるだろうな」


「わかりました!研究所に持って行って作らせます!」


なんでも、朝イチに俺が料理を作ってから油の成分や作り方を調べるために、料理研究をしている食品ギルドに持って行ったらしいが、結果は「わからない」の一点張りだったそうだ

「せめて原料がわかれば·····」と言われたので俺に聞くことにしたらしい


説明を終えた俺は、自分の部屋に戻った


「リオ、もう帰ってたのか」


リオがもう戻ってきていて、寝間着に着替えていた


「うん、シェリーさんが、すっごい驚いてたよ!明日の朝に取りに行くことになったから、また朝にカタクに行ってくるね」


「あぁわかった、シェリーさんは相変わらず仕事がはやいな

明日からは予選まで修行漬けになるから、今日はもう寝るぞ」


「うん!おやすみ」


「おやすみ」




次の日、早朝から日課を終わらせて異空間に向かった

リオはシェリーさんの防具屋へ向かい、防具を受け取って帰ってきた


「これシロに似合いそうだよね!」


「シロにはこれしかないと思ったんだ!着せてみてくれ」


修行用異空間に来た俺達は、シロに新しい防具を着せることにした

新しい防具は下地がポイズンリザードの革で出来ていて、表はブラッドウルフの毛皮になっている

魔石がブラッドウルフなので、普通に似合う


「いい感じだな!下地の黒がいい感じのアクセントになってる」


「かっこいいね!ジンくんは黒い方が似合うけどシロは白い方が似合うね!」


「それじゃ、修行を始めるか!リオは魔力コントロールの修行と新空間魔法の考案だったな」


「うん!2人とも、ケガしないようにバリアだけ張っとくね!」


そう言って、俺とシロにバリアが張られた


「よし!行くぞシロ!」

「グガァアアアアア!」


俺の叫び声とシロの咆哮が重なった




それから1週間後·····

ギルドから手紙が届いた


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 冒険者ギルド カタク支部


        Bランク冒険者

          ジン様


       Aブロック  第1戦目


   シグニンズ国 冒険者ギルド 王都リンミ本部


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裏には開始時間とルールが書いてあった

リオにはCブロックの第1戦目と書かれた手紙が届いた


明日から、武術大会各ブロック予選が始まる·····

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