第28話 朝食と休息


俺達は魔道二輪に跨り、イスタに向けて走っていた


「あと1時間程走ったら、イスタにつくはずだ」


「んぁ?·····ぅん·····」


相変わらず、リオは風が気持ちいいのか、後ろで半分寝ている


途中、馬車や冒険者達を何人も追い越した

みんなすごい顔になっていたがスルーだ

イスタがマップに表示された辺りで魔道二輪から降りる、このまま突っ込んだら騒ぎになるだけだからな


「ここから歩いていくぞ」


「もぅ着いたのー?魔道二輪にずっと乗っていたいよ····」


「そんなに急ぐ旅でもないからな、魔道二輪はまた今度な、まずはイスタに着いたら飯にしよう」


5キロ程の距離を2人で歩いてイスタに向かう

この辺りの魔物もカタクと変わらないようで、キラースネークとホーンラビットを倒しながら向かった


数分でイスタに着いた

ギルドカードを提示して町に入る

門番が『こんな若い子達がBランク·····』とか言っていたが気にせず、町に入った


「カタクとあんまり変わらない町並みだな」


イスタの町は、カタクと同じぐらいの広さで、建物も中世ヨーロッパな感じだ

ギルドも町の中心付近にあるようだ


「リオ、なんか食べたいのあるか?」


「ジンくんのホーンラビットのステーキ!」


昨晩食べた、俺の料理が忘れられないようだ


「また今度な·····イスタの名物とかあればいいなー」


作ってやりたいが、キッチンが無いので普通にどこかで食べることにする

リオが膨れているがスルーだ


ギルドの近くに飯屋があるようなので、朝からやってる所を探して入る


「いらっしゃい!そこのテーブル席にどうぞー」


中に入ると、若い女性が接客をしてくれた

外観や内装はカフェと言った感じの店だ


「おすすめあります?」


席に着くなり、店員さんに聞いてみる


「朝からガッツリになっちゃいますけど、お店の看板メニューの『パンズ』がオススメですね!」


「じゃ、それを2人前ください」


よく分からない食べ物の名前だが、オススメなら食べることにした


しばらくして、料理が運ばれてきた

焼かれたブロック肉、フランスパンの様な硬いパン、レタスの様な葉野菜、最後にナイフが置かれた


「すごいボリュームですね·····どうやって食べるんですか?」


初めて見る食べ物なので、店長さんに確認してみる


「ナイフでパンとお肉を好きな大きさにカットしていただいて、パンにお肉と野菜を置いて食べるだけです!パンを薄くカットして挟むと食べやすいですよ!」


店員さんが実演しながら、説明してくれた

『パンズ』とはサンドイッチの事だったようだ

かなり豪快なサンドイッチだが·····


「おいひぃー!·····このお肉なんだろ、あっさりしてるのに噛んだら肉汁が出てくる!」


リオが店員さんが作ってくれたパンズを食べて感想を言っている


俺も1つ作って口に運ぶ·····

パンは硬いが、肉汁がパンに染み込んで丁度いい硬さになっている

肉はあっさりしているが、噛む度に旨みが口に広がってくる

肉は焼いただけじゃなく、その後に煮込んでいるようで、脂身がトロトロになっている

まさにチャーシューそのものだ!


「これは美味いな!·····この肉はまさか」


俺は食べながらあることに気づいた

この世界は魔物を食べる習慣がある

そして、最近俺は、この町の近くで豚に似た魔物を倒した·····

俺は恐る恐る、肉を鑑定すると·····『オーク』だった


「オークもやっぱり食べられてるのか·····」


「お客さん!なぜ知ってるんですか!」


近くにいた店員さんが、俺の独り言を聞き取った途端、すごい剣幕で近づいてきた


「え?知ってちゃダメなのか?」


店員さんが慌てながら小声で説明してくれた


「確かにこのお肉はオークですが、オークの見た目は人に近いです·····そのため、美味しくてもあまり食べられることがありません·····この店では、お客さんには内緒で提供しているんです·····」


「バレたら客足が一気に減ってしまうというとこか·····内緒にしておいてやる、味は美味かったからな·····」


「ありがとうございます·····本日のお代は結構ですので·····」


俺もリオも流石に抵抗があり、肉には手をつけずにパンと野菜だけ食べて、店を出た


『この世界の人達は知らないうちにオークを食わされている可能性があるということか·····食べる前に要鑑定だな·····』




貯蓄していた食材で腹を満たした俺達は、ギルドに来ていた

カタクのギルドと変わらない見た目なので直ぐに見つけることができた

ギルドの扉を開けて中に入る

この時間になると冒険者もほとんど出払っている様で、数人の冒険者が依頼ボードの前にいたり、朝から酒を飲んでいたりしている


暇そうにしている受付嬢に話しかける


「この依頼を受けたいんだが、明日の朝から行けるか?」


そう言いながら、依頼書とギルドカードを見せた

内容はイスタから王都までの荷馬車の護衛だ

どうせ王都まで行くなら、冒険者らしく護衛依頼を受けながら行くことにした

護衛依頼は長距離になると、近隣の町にも貼り出されることがあるらしく

昨日、カタクの依頼ボードから持ってきた


魔道二輪で王都に向かうと1日あれば着いてしまう

武術大会までまだ、1ヶ月半近くあるのに態々そんなに急ぐ必要もない

馬車なら順調に進めば半月程らしいから、荷馬車なら1ヶ月かからないぐらいだろう

ちなみに使者のルーシーは馬車を乗り継いで5日でカタクまで来ていたそうだ


「え?はいっ!依頼ですね·····えっと、Bランク!?」


受付嬢が俺のランクを大声で叫ぶと周りの冒険者達の目が俺達に集まった

別に隠しているわけではないが····公にされていいものでもない


「こらっ!冒険者さんのランクを何で大声で叫んでるの!」


『ゴン!』


後ろから別の受付嬢が出てきてて、叫んだ受付嬢の頭にゲンコツを落として、説教を始めた


「すみません·····Bランクの冒険者さんなんて初めて見たもので·····しかも、こんなに若い方だったから·····」


どうやら叫んだ受付嬢は、新人の受付嬢の様だ


「失礼しました·····この子はまだ新人なもので、教育が行き届いてなくて、大変申し訳ございません·····」


ベテランの受付嬢が俺に謝ってきた


「いや、別に構わない、隠している訳でもないからな、それより、この依頼を明日の朝から受けれるか聞いているんだが·····」


「あ!はい!直ぐに確認致しますので、少々お待ちください!」


新人が依頼書を受け取り、あーだこーだ言いながら作業を始めた

ベテランは後ろからちょこちょこ指示を出している


しばらくすると


「こちらの依頼は低ランク依頼なので、Bランクの方が受けても報酬は変わらないですが、よろしいですか?」


「あぁ、問題ない、王都に行くついでに護衛依頼を受けるだけだからな、人数は集まりそうか?」


「はい!人数は問題ないかと、Bランクの方が2名いらっしゃる護衛依頼なんて低ランクの冒険者が殺到します」


「そうか、ならよろしく頼む」


「では、明日の早朝に東門にお願いします!」




ギルドを出て、宿屋を探すことにした


「たまにはゆっくりするか·····1番高い宿に1泊しよう!」


まだ昼前だが、たまにはゆっくり過ごすのも悪くない

宿は町の人に聞いて、すぐに見つかった

外観から高級感漂う感じで、各部屋に風呂があった

料金は1泊、晩ご飯付きで、『狐の尻尾亭』の1ヶ月分だった

いつも通り2人で1部屋取った

もちろん、ベットは2つある



「明日は早朝からだから、日用品の買い出しをして早めに寝るようにしようか、リオは欲しいものとかあるか?」


「そうね·····私、服が欲しいわ!」


「そうだな·····確かに防具は疲れるからな、日用品のついでに服屋も見に行くか!」


「うん!」


日用品は護衛中に使うための、調理器具や食材関係を買ってアイテムボックスに収納しておいた

飯を食う時は異空間に移動して食べれば、アイテムボックスがバレる心配もないだろう

買い出しを早々に済ませて、俺達は服屋に向かった



全体的に見た感じ、服の種類は前の世界とそこまで変わりは無いようだ


「ジンくんは好きな服装とかある?」


自分の服を選んでいると、ありがちだが、返答に困る質問をされた


「似合っていればいいと思うが·····オフの日に着るならラフなものがいいんじゃないか?」


「んーラフな感じかー·····」


リオがブツブツ言いながら探し始めたので、俺も自分の服を探すのを再開した



それぞれ服を買って着替えた

ちなみに俺の服装はジャージの様な薄い生地で黒色の上下セットを買った、インナーはシェリーさんの店で買ったやつだ


リオは色々買っていた様だが、今は赤いミニスカートにニーハイブーツ、上はフリルが付いた白いシャツを来ている


着替えが終わった俺達は、買い食いしたり、雑貨を見たりしながらイスタの街を堪能した



夕暮れ時に宿に戻って夕食を食べた俺達は、部屋の風呂を満喫して、それぞれのベッドに入った


リオは部屋着も買っていたようで、ホーンラビットの毛皮で作った可愛らしいモコモコの服を着ていた




「·····ねぇ、ジンくん、起きてる?」


「ん?起きてるけど?」



「·····そっち行っていい?」


「·····あぁ」


俺はベットの端に寄ってリオが寝るスペースを空ける

ベットが少し軋み、リオが布団に入ってきた

いつもより距離が近い気がする·····


しばらく、沈黙が続いた·····


「·····手、繋いでもいい?」


「·····」


「ごめんなさい!そう言うつもりじゃ·····、?」


「ー、スー、スー」


「ウソ·····寝てるし·····」





『俺はリオの気持ちに気づいている·····

俺もリオの事は嫌いじゃないが·····

いつか、もし、元の世界に戻る方法が見つかった時に、リオを置いていく覚悟は俺にはないだろう·····

リオには悪いが、覚悟ができるまではこのままの関係でいたい·····』

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