第16話 Bランク冒険者と魔導二輪

 

 部屋に戻ってきた俺は、ひとつしかないベットを見ながら、どうするか考えていた。


「ベットは1つ……リオが寝ていて起きる気配はない……女の子を床に寝かす訳にもいかないよな……」


 俺は渋々、床にファングウルフの毛皮を敷いて、寝ることにした。


 ※ ※ ※ ※


「きゃゃゃあ!」


 朝一番に女性の悲鳴で目が覚めた。

 目を開けるとそこには、俺を睨みつける女の子がいた。かなり怯えているようだが、目で威嚇している。


「やぁ、目を覚ましたんだね、俺は冒険者のジンだ」


 とりあえず名乗るが、様子は変わらないーー。



「どうしたんだい!?」


 どうしようか考えていると、宿屋のおばちゃんが部屋に入ってきた。


「この人が私を攫って……」


 どうやらリオは、俺を盗賊と間違えているようだ。

 そりゃそうか……盗賊に攫われて目が覚めた部屋に、男が寝てたら盗賊だと思うよな。


「俺は盗賊じゃないぞ?

ちなみに、その盗賊から助けたのが俺だ。今からギルドに向かうから、君も着いてくるか?

そうしてくれると、俺の言ってることが本当だと証明できるんだが……」


 ここはとりあえず信じてもらうしかないーー。


「なんだい、なんだい……朝から騒動しいね。

この人は冒険者で間違いないよ、最近のウチのお得意さんだからね」


 おばちゃんもフォローを入れてくれた。


「わかったわ! とりあえずギルドに連れていきなさい、確認させてもらうわ!」


 寝顔は可愛かったが、意外と気が強い子のようだ。

 俺達は、早速ギルドに向かうことにした。


 ティムさんが裏庭に居たので、後で顔を出すことを伝えた。


 ※ ※ ※ ※


 ギルドに着いた俺達が中に入ると、俺に気づいた職員が、応接室に案内してくれた。

 応接室で待っていると、ギルドマスターのランディとエルさんが部屋に入ってきた。


「おや? 昨日の女の子も一緒かい、ジンのことじゃからとやかく聞かんが……」


 ランディが半分諦めたように話してきた。


「この子は盗賊に攫われていたんだ。昨日は色々ありすぎて結局話せなかったから、とりあえず宿に泊めて、改めて連れてきたんだ。

一緒の部屋で寝たから、朝からちょっとごたついたがな……」


「一晩一緒に……」


 エルさんが小声でなんか言ってるが、話を進めよう。


「そういえば、盗品は盗賊を倒した人の物になるだろ? 人の場合どうなるんだ?」


 大規模な隠れ家だったので、懐がかなり潤っている。大切に使わせてもらおう。


「それは当人に任せることになっておるのぅ。奴隷として売ることも、ギルドで保護することもできるぞ?」


「君はどうしたいんだ? 君が行きたい場所があるなら、場所によっては送って行ってあげてもいいぞ。

俺は特に予定もないし、奴隷にも興味がないからな」


 盗賊が道を聞かれたって言っていたので、どこか行きたい場所があるなら、近場なら連れて行ってあげてもいいだろう。

 盗賊に攫われて奴隷落ちとか、可哀想すぎるだろ。


「先にお礼を言わせてください。先程は疑ってすみませんでした……

私を助けてくれたのは本当のようですね。助けていただき、本当に感謝しています。あと、私の名前はリオと言います」


 リオが、かなり丁寧な口調に変わった。

 宿屋では警戒されていたが、今では逆に信頼されているようだ。


「いや、別に気にしてないから大丈夫だ。で、君の····リオの行きたい場所はここから近いのか?」


「それが……実は私、記憶がないんです。盗賊に攫われる前の記憶がなくて……

道に迷って歩いていたら人がいたので、道を尋ねたら眠らされて……」


 どうやら嘘ではないようだが、本当の記憶喪失者が現れるとは思わなかった。


「俺も数日前からの記憶がない、記憶喪失同士、自分たちの記憶を探しにいくのも悪くないかもな」


 俺は場を和ませるために、笑いながら冗談半分で提案した。まぁ、俺は記憶があるんだが……


「ジン様も記憶がないんですか!?」


 様付だ……すごい変わりようだな。とりあえず、むず痒いので辞めてもらおう。


「様は辞めてくれ、あと言葉も宿屋で話していたぐらいフランクにしてくれ、こっちが喋りづらい」


「ーーわかりました……それで、ジン、くんも記憶がないってホントなの?

私も行くところがないから、ジンくんがかまわないなら、一緒に旅をさせてもらいたい……ジン君に恩返しもしなきゃならないし!」


 まさか、俺の話に乗ってくるとは思わなかった。

 俺は1人気まま旅を楽しむつもりだったんだが……


 リオが大きな瞳で見つめてくるーー。


「わかった……今後についてはまた後で話し合おう、それより、話を戻そうか」


 話がかなり逸れたので、ランディに話を促す。


「そうじゃな、ではまず、これが今回の報酬じゃ」


 そう言って、重みを感じさせる袋が、目の前に置かれた。


「金貨30枚じゃ! 大金貨じゃと使いにくいじゃろうから、金貨にしておいたぞ」


「そんなに貰えるのか?」


 日本円にして300万円だ。これにプラス盗品もあるので、当分は金に困りそうにない。


「お主が倒した盗賊の頭は、かなり腕が立つ奴での、長いこと指名手配されておったんじゃ。

あいつだけで金貨10枚はあるぞ、後は手下共の数が多かったからのぅ」


 なるほど……あのでかいヤツはそんなに有名人だったのか。


「それでのぅ……無事、盗賊討伐依頼を達成したお主にはこれを受け取ってもらうぞ」


 そう言ってテーブルに銀色のカードを置いた。

 そのカードには大きくBの文字が刻まれていた。


「お主は歴代の最速記録を塗り替えよったのぅ……

まさか2週間でBランクになるとはワシも思わなんだぞ」


「ありがとう。これは、有難く受け取らせてもらうよ」


「……」


 横を見ると、リオの目が点になっていた。

 後でちゃんと話をしよう。


 ※ ※ ※ ※


「おめでとう!」

「あんたのおかげでかなり儲けさせてもらったよ!」

「これからも期待してるぜ!」

「よかったら私たちのパーティに入らない?」


 ギルドのホールに戻ってきた俺に、色んな冒険者から声が掛かる。

 みんな話したこともない人たちだが、祝福してくれるのは素直に嬉しい。

 どうやら俺が最速でBランクになれるか、賭けが行われていたらしい。


「ありがとう! パーティには、また機会があれば……それではまたー!」


 冒険者一人一人の対応をしていてはきりがないので、リオの手を取り一気に走り抜けた。



「はぁーもみくちゃにされたな」


 笑いながらそう言って、リオを見ると顔を赤らめて下を向いている。

 体調でも悪いのか様子をみているとーー。


「手……」


 言われてずっと手を握っていたことに、今更気づいた。


「あぁ、ごめん!

1回宿に戻ろう。これからどうするかも決めないと行けないし、ティムさんも待ってるからな」


 俺は、無理矢理誤魔化しながら宿屋に戻った。


 ※ ※ ※ ※


「ティムさん! お待たせしましたー」

「……ジンさん! 帰ってきましたか!」


 宿屋の裏に行くとティムさんが寝ていたのか、一瞬ぼーっとしていた。俺に気づくと、目を見開いて近づいてきた。


「完成しましたよ!

これはもう最高傑作ですよ!

早く使っているところを、見てみたいですな!」


 すごい催促された……仕方ないのでバイクを押して外に出ることにした。


 カインさんに挨拶をして外に出た俺達は、門の近くでバイク……いや、これからは『魔導二輪』だろうか。魔導二輪を試運転をすることにした。

 勿論、運転は俺だ。


『ーーキュルル、フイィィン』


 まず、エンジンは問題ないようだ。

 魔力をすごい勢いで吸い取られる感覚がある。

 メーターのガソリン量が、満タンになったところで、吸われる感覚がなくなった。


「特に疲労感はないな……」


『キイィィィンーー……』


 アクセルを回すと少し違和感があるが、進み始めた。

 違和感の感じた足元を見てみると、魔導二輪が浮いている……


「ティムさん! これ浮いてるんですけど……」


 ティムさんにこれでいいのか確認してみる。


「はい! 浮いた方が、段差や障害物を避けやすいと思いまして、少し手を加えました。浮ける高さは魔力の込めぐあいで変えれるはずです!」


 そう言われたので、魔力を少し強めに込めてみるとーー。


「うぉ!」


 1mは軽く浮き上がった。


 しばらく操縦していると、かなり使いこなせるようになってきた。

 途中で気づいたが、魔力で動いているだけあって、アクセル、ブレーキ、ハンドリングの全てを手を触れずに操縦することができた。


 十分試乗した俺は、ティムさんの元へ戻った。


「いやー思っていた以上の出来ですよ!

ありがとうございます。少ないですけどこれはお礼です」


 金貨1枚をティムさんに手渡した。

 本来、これでも少ないと思う。この世界にないものを作り上げたと言っても過言ではないのだから。


「喜んで頂けて光栄です。わたしも貴重な体験をさせて頂きました。これは有難く頂戴しますね。丁度、今日から王都に向けて移動をする予定だったので、間に合ってよかったです。また機会があればウチの魔導具も、よろしくお願いしますね」


 ちゃっかり営業をして、ティムさんは去っていった。しっかりした人だ。



「さぁ、俺達はこれからについて話をするか」


 そう言って、リオに向き直ると、何だか遠い目をしていた。


 ※ ※ ※ ※


 宿屋の部屋に戻った俺達は、これからどうするかを決めることにした。

 ちなみに、魔導二輪は周りの人の目を盗んで、アイテムボックスに収納した。


「リオが俺について来るなら、冒険者登録をしてもらおうと思う。ギルドカードは身分証にもなるから持っていて損はないからな」


「そうだよ、ね……ジンくんと一緒にいる以上、私も強くならないとダメだよね」


「それと、リオにもBランクになってもらおうと思う。これから一緒に行動するならランクは同じ方がいい」


「え!? 私がBランク……?」


 リオが、目を丸くして驚いた。

 記憶喪失になったことで、自分が光魔法を使えたり、空間制御エリアコントロールとか言うユニークスキルを持ってることを忘れているんだろう。


「俺にはとっておきがあるからな!

すぐに強くしてやるぞ。それにはまず、ギルドで登録を済ませよう」


 ユニークやスキルに関しては、後々説明することにした。

 俺達は宿を出て、ギルドに向かったーー。

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