アナザー・ワールド・ラビリンス〜異世界転移冒険譚〜

嘉宮 ジン

第1話 異世界転移


「ふぁ〜あ、流石に徹夜はやり過ぎたな……」


 俺は眠気を堪えながら、バイクに跨って隣町のスーパーまで買い出しに来ている。


 俺の実家は、それなりに人気のある定食屋だ。

 小さい頃から親父に料理を叩き込まれて育ってきたので、腕には自信がある。

 実家の手伝いで、買い出しに来ているのだが、この睡魔の原因は昨日の夜だ……




 待ちに待った夏休みに浮かれていた俺は、最近ハマっていたネット小説を読み漁り、気がつくと朝を迎えていた。

 そろそろ寝ようかと布団に入るや否や、スマホのアラームが鳴り響いた。

 画面には『手伝い 買い出し』と表示されて、俺はベッドから跳ね起きた。


 ジャージ姿のまま部屋を飛び出た俺は、バイクに跨り、隣町のスーパーまで買い出しに来たという今の状況に至るわけだ。


「早く終わらせて、帰って寝るか……」


 そう独り言を漏らした瞬間、交差点の信号が赤になっていることに気づいた。


 『――ファァァァァン!!』


 一瞬の出来事だった。

 横からダンプカーがクラクションを鳴らしながら突っ込んでくる光景が目に入った。

 頭が真っ白になり、恐怖で身体が硬直した。


 徐々に迫りゆくダンプカーを呆然と眺めながら、自分がこれから死ぬことを理解した俺は目を閉じた。




 すぐさま来ると思っていた衝撃が、一向に訪れない。

 恐る恐る目を開くと、そこは――森の中・・・だった……


「は……?」


 杉のような木々が生い茂る見たこともない景色が広がっている。


「どこだここ……」

 

 視線を落とすと、エンストしたバイクに跨っている足元には食材が散らばっていた。


「なんだ、夢か」


 きっとネット小説の読みすぎだ。

 今頃、病院のベットで昏睡状態か何かなんだろう。

 眠気が一切感じられず、身体が軽いのが、なによりの証拠だ。

 このまま立ち尽くしていても仕方がないので、とりあえず移動することにした。

 



 1時間は経っただろうか、未だ道らしき道は見当たらない。

 夢なのもあってか疲労感はない。


「かと言って、腹は減るんだよなぁ」


 なんてボヤくと、視界の端で何か動く気配を感じた。

 見れば、ウサギがいた。

いや、正確にはウサギの頭にが生えた生き物がいた。

 周りの木と比較するに、大きさは30cmほどだ。


 ひとまず『角兎』と呼ぶことにしたが、こんな動物は見たことがない。

 角兎が耳をまっすぐに立てて、アンテナのようにピクピクと動かしている。


 あまりにも得体が知れないので、気づかれないうちにその場を立ち去った。

 現実の生物とは思えない、きっと俺が夢の中で作り出したんだろう。


「どうせ夢ならネット小説のように、『ステータス』でもあればいいのに」


 『――ブフォン』


「うぉっ!?」


 冗談半分で言うと、目の前に半透明の画面が出現した。

 顔の動きに合わせて、画面もついてくるようだ

画面には、色々書かれていた。

 

-----------


【名前/性別】カミヤ ジン/男


【年齢/レベル】17歳 / Lv.1


【スキル】料理:Lv.5


【ユニーク】転移者 / 鑑定 / 能力付与エンチャント


-----------


 スキルに<料理>が入ってる。

 小さい頃から親父に叩き込まれてきたからだろうか。


「Lv5ってどうなんだ?基準がわからないな·····」


 そう考えていると、すぐ近くに新たな画面が浮かび上がった。


-----------


<料理>


食材の品質がわかる


食材の調理方法がわかる


レベルが上がると扱える食材の種類が増える


-----------


 目線に応じて説明画面が表示されたり消えたりする。

 そういう仕様なのか、それともユニークにある<鑑定>か?

 それよりも、さっきから気になっていた<転生者>に目を向けると、説明画面が表示された·····

  

-----------


<転移者>


異世界より転移した者


元いた世界より、ステータスが上方修正される


スキル取得に恩恵を受ける


下記のスキルが使えるようになる


【異世界言語、ステータス隠蔽、アイテムボックス】


-----------


「異世界……」


 そう呆然と呟き、再度辺りを見回す。

 確かに、夢にしてはかなりリアリティがあるが……


 夢ならそのうち覚めるだろうが、本当にここが異世界であるのなら、元の世界に戻る方法を調べないといけない。

 とりあえず、転移者に含まれているスキルを確認してみることにした。


-----------


<転移者-異世界言語->


異世界の言語を読み書きすることが出来る


<転移者-ステータス隠蔽->


ステータスの内容を隠蔽することが出来る


<転移者-アイテムボックス->


物を無限に収納することが出来る


収納した物は時間が止まる


生物は収納することができない


-----------


 どうやら言語の問題はなさそうだ。

 転移者とバレると厄介なことになるかも知れないので、念の為ユニークスキルは全部隠しておくとして……


「アイテムボックスか……」


 異世界の定番だ、これはこれから重宝しそうだ。

 そして、最後のユニークスキルだが……


-----------


<能力付与エンチャント>


物に能力を付与することが出来る


作った物に能力付与エンチャントする場合、使用した材料により効果が変わる


-----------


 材料を使って物に能力を付けるスキルらしい。

 となれば、色んな材料を集める必要がある。


「ん? ……やば」


 スキルを調べながら歩いていると、不意に視線を感じた。

 目を向けると、耳をピクピクと忙しなく動かす角兎と目があった。

 ·····どうやら、気づかれたようだ。

 戦闘は避けられそうにない·····俺は腰を低く落とした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る