第12話 惨憺

-第三艦隊所属高速艦『若草』艦上-

皆さまお久しぶりです、、。

僕です。九条千秋です。

僕は今、日本海のど真ん中に向かって時速200キロ近い速度で進んでいます。

今朝対馬沖で戦闘をしたばかりですが、今度は日本海で窮地陥っている第一艦隊へ援軍として行かねばなりません。

報告によると敵は相当な数の艦船を用意しているようですが、高速艦3隻と機甲兵6機で足りるんでしょうか。


『九条!初陣で連戦なんてついてないな!死ぬなよ〜!』

鞍馬中尉の快活な声がマイク越しに響く。

はは、、

こればっかりは苦笑いで返すしかない。

幸い、対馬沖の戦闘で第三艦隊所属第一甲兵部隊の隊員は一人も死ななかった。(機体はボロボロになったが、、)

今回援護として向かうのは僕と直方隊長。そして日下部副長、鞍馬中尉、花山中尉、園田少尉の6人だ。冴島さんは命令違反の責を取らされて留守番中だ。

『しかし、、幾ら機体がないとはいえ、俺らはともかく隊長や副長を型落ちの量産機に乗せるとは、上層部は何を考えてんすかねぇ。』

花山君がぼやく。

『まあ、機体をボロボロにしたのは僕達私だし、しょうがないよ。』

それに、と隊長は続ける。

『第一艦隊はかなり危険な状態らしい。一刻も早い救援が必要だったんだろう。』

『らしい、に、だろう、って隊長も把握出来ていないのかい?』

鞍馬中尉が怪訝な様子で聞く。『僕どころか、遊佐司令も中央統合司令部も状況把握が追いついていないみたいだよ。東京との通信は妨害されてるし、、』

兎に角、行ってみないことにはわからないということらしい。


というか、それよりも重要な事をたった今思い出した。

「あの、、そういえば僕って来ても良いんでしょうか。」

そういや確か『明日は見学だ!』とか直方隊長言ってたよな、、、、、、。

『うん。大丈夫だよ!』

「え。」

『だって君思ったより全然戦えるし。日下部副長の危機を救ったあの動き。凄まじかったじゃないか。』

「あ、あれは体が勝手に動いて、、」

なんならほぼ気を失ってたし。

『いや、そういうのが実は良いんだって!君、もしかするとダイヤの原石かもしれないね。』

「そ、それ程でもエヘヘ。」

『直方、そこまでにしておけ。つけ上がらせると危険だ。』

ガツン。と来る一言だ、、。副長は厳しいな。

その時だった。

花山君が口を開く。

『隊長。前方に黒煙が。』

遠く。前方に薄らと黒いモヤ。

『ああ、間違いない。あそこが主戦場だ。急ぐぞ!総員、戦闘体制!』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

-日本海軍第一艦隊旗艦『滅紫』-

「艦隊損失62%!旗艦損害11%!これ以上はもう持ちませんよ!多勢に無勢です!」

「まだだ!まだ持ち堪えさせろ!出来るだけ時間を稼げ!」

「駆逐艦"若紫"轟沈!」

「本艦右舷にランチャー多数着弾!損害は軽微ですが、外部装甲は剥がれてきています!」

「10時の方向より魚雷接近!その数12!」

「左舷側に新手の敵機甲兵!数8!」

「空母"紫黒"!退艦命令が発令されています!」

次々と飛んでくる絶望的な情報の数々。

起こる全ての事象に対応している暇は無かった。

『緊急連絡!管制局の内海です!』

「なんだ!短く済ませろ!」

『本艦より南西沖、20キロメートルに高速艦3隻が急速接近中!シグナルによると、この艦は日本海軍第三艦隊所属!"若葉""若草""若菜"です!』

艦橋に一瞬の静寂が訪れる。

その場に居た全員がスピーカーに耳を傾けた。

「じ、、情報は正確か?」

『間違いありません!援軍です!』

「よぉおおおし!!私は賭けに勝ったぞ!」

雄叫びが響く。

島守はマイクを千切れんばかりの勢いで引っ張り声を張り上げた。

「総員!第三艦隊の援軍が接近している!我々は希望を掴んだ!まだ薄いが、確かにその色は彩度を増した!あと少し!あと少し耐えてくれ!!」

全艦に響き渡ったその放送は崩れかけていた船員達の精神に火をつけた。


全ての艦船は一つの生き物のように動き、絶え間なく飛んでくるミサイルと砲撃の中、瞬時に陣形を整える。

『そろそろ出るぜ。司令官殿。』

「枕木中佐。」

『援軍が来てんなら、今が反転攻勢のチャンスだろ。』

「人数は足りてるのか?」

『急拵えだが、うちの隊と榊原隊、藤堂隊、それと生駒隊の連中で、動けるやつを集めた。総勢23名、戦場を掻き乱すには十分な数だと思うが?』

「わかった。出撃を許可する。」

『おう。』

「存分に暴れてこい。」

『、、、おう。』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

-中国北洋艦隊旗艦『玄武』艦橋-

「おい!まだ鎮火できないのか!消火班急げ!このままだと東と南に手柄全部持ってかれるぞ!」

リュウ・チャンヨウの怒号が響く。

『やってます!しかし如何せん穴が大きく、、被害範囲の全貌も掴めてません、、!』

チッ

ふざけやがって、時限式で成層圏から落下してくる巡航ミサイルだと?!

よりによって我々の旗艦空母の甲板を打ち抜くとは、、!

『ミサイルの質量をあの位置から落とすだけでもかなりのエネルギーなんですよ!それに馬鹿みたいに爆弾積んでやがるんです!貫通して沈まなかっただけ奇跡ですよ!』

そんなことは分かっている!

だが、あの七光と老害に手柄を与えるわけにはいかない。あのやり方では中国はこの戦争を勝ちきれない!


『リュウ副司令!緊急です!』

「どうした!」

『敵の増援が確認されました!新手の機甲兵も確認されています!』

「例の第三艦隊か!」

『そのようです!それと、、未確認の情報なのですが、、』

「なんだ、言ってみろ。」

『日本海軍の第三艦隊と見られる艦の他に、別の艦隊が確認されたようです。』

「韓国の艦隊を奇襲したと報告が上がっていたやつか。」

『ええ、調べによると日本軍では遊撃艦隊と呼称されているようです。』

「更なる増援ということか、、骨が折れるな。我々は修理が終わり次第そちらの対処に、、」

『いえ、その必要はないかと、、』

「何?」

『不可解な事に、その艦隊我が艦隊から300キロメートル余り西方にて全艦停止中とのこと。』

「はぁ?自分の国の主力艦隊が崩壊しようという時に、どういうことだそれは。」

『ですから不可解なのです。』

「衛星写真はあるか?」

『15分ほど前のもので良ければあります!』

「出せ。」

艦橋に表示される艦隊。

空母から駆逐艦、巡洋艦までフルに揃っている。第三艦隊に匹敵する規模だ。

周りの波は穏やかで艦が動いていた形跡は確かになかった。


その時ふと一つの艦が目に入った。

タンカーのような形をした艦。

布が被せてあり、大きなものを運んでいるようだった。

「おい、あの右から3番目、下から2番目の艦。あれはなんだ、補給艦か?」

『形状はそのようですが、、日本軍の補給艦にあの型式のものはありません。民間船を借り受けたのでしょうか、、』

「そんな筈は、、」

布の膨らみ、皺、粗い拡大画像を再解釈しながら考える。

よぎる。

最悪の考えだったが、あり得なくはなかった。

まさか、まさかな。

「核兵器。か?」

思わず声に出てしまった。

我に帰って周りを見遣ると、唖然とした様子の部下達。

その光景を見ながら少しずつ思考回路が繋がっていく。

「おい、その艦隊の場所から北京までどのくらいだ。」

『ま、まさか、、』

「早くしろ!!」

『は、はい!今すぐ算出します!』

考えれば考えるほどそうにしか思えない。

この考察がもし正しければ、今すぐにでも伝えなければ!

『ちょうど2000km弱です、、。』

「米国製、核弾頭搭載可能積載型軽量ミサイル"スターエッジⅢ"、最大到達距離2000メートル。日本にも輸出されていたよな?」

『それって、、』

「今すぐ本国に伝えろ!!」

『了解!!』

自国の艦隊と引き換えに我が国の中枢を破壊する気か倭寇共め!

もし核が使われたらこの戦争は、いや世界がひっくり返るぞ、、!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

-中国東洋艦隊旗艦『青龍』艦橋-

「北洋艦隊はこの戦功レースから離脱。南洋艦隊は最前線に出たお陰で戦力の消耗が激しい。ロシア極東艦隊は精鋭部隊で敵の本艦を叩くも失敗。今こそ温存してきた我々の戦力を解き放つ時だ。」

東洋艦隊総司令官ワン・ユーシェンはほくそ笑む。

「チュウを呼べ。」

『はっ』

東洋艦隊における甲兵戦隊の最高戦力と呼ばれる男が居る。

チュウ・イーミン。通称"白旗魚しろかじき"。

鋭い得物による素早い刺突による攻撃を得意とするパイロットで、真白い機体と共にその様はまさに白馬の騎士と形容できる。

「お呼びでしょうか、総司令官。」

「あぁ、やっと貴様の出番だ。」

「承知しました。」

「釣魚の雪辱はここで晴らさねばならん。あの時貴様が居れば状況は違ったかも知れんな。」

「不在であったこと、重ねてお詫びいたします。」

「もう良い。状況は把握しているか。」

「無論です。」

「では作戦を説明する。貴様は部隊を引き連れ、敵の右艦隊側面を迂回しつつ、敵本艦を守備する駆逐艦、及び巡洋艦、そしてその守備隊の各個撃破を狙え。」

「承知しました。」

「側面の防御をあらかた散らしたらこちらに合図を送れ。さすれば敵の本艦を我が艦隊が一斉に叩く。」

「承知。」

「その後の判断は任せる。」

「はっ。必ずや、ご期待に応えて見せましょう。」

チュウは我が国でも指折りのパイロット、、。満身創痍の猿共に負ける筈は、、万に一つも無い!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

-中国南洋艦隊旗艦『朱雀』艦橋-

「5番から12番!ミサイル放て!艦砲は全て敵艦に向けろ!撃ち尽くせぇぇえe、え、ゲホッゴホッ。」

「司令官殿!落ち着いてください!もう年なんだから!」

「なんだとぉ?!まだお前に言われるほど衰えてないわい!!」

「それに突っ込みすぎです!我が艦隊の被害が拡大しています!」

「ここで決めなければどうする!!今日本を下して太平洋の安定を確保しなければ、我が国の継戦はずっと厳しくなる!」

「焦らずとも目の前の餌は瀕死です。早まれば他の艦隊に漁夫の利を取られますよ。」

「お前をそんな軟弱に育てた覚えはないぞダーレイ!」

「シュウ・シャンイェン総司令官。昔からそうだ。あなたは、、」

『あの、親子喧嘩中失礼致します。悪い報告と良い報告が合わせて三つ。』

「悪い報告からしろぉ!」

『はい、一つは我が艦隊の戦力損失46%を超えたと言う情報です、東洋艦隊が動いているので、そちらと交代しても良いのでは。』

「東洋艦隊ぃい?!今更動いて何する気だ!最後の1艦になろうと、我々が前に出て、敵本艦を撃ちくだぁく!」

『もう一つは敵の増援が一部間に合ったという話です。まあ、甲兵小隊と高速艦3隻のみですので、さして問題はないかと。』

「して、朗報の方は。」

『はい。東洋艦隊のエース、白梶木の部隊が出撃しました。』

「どっちも悪い報告だぁ!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

-日本海上、直方隊-

『これは、、!、、酷いな。』

直方隊長が息を飲む。

無理もない。眼前には、沈没、大破、炎上する第一艦隊の艦船達があった。

残存する第一艦隊は旗艦である『滅紫』を中心に方円陣を作り、敵艦とその戦闘機、機甲兵はそこへ集中砲火を掛けるという有様であった。

『こちら直方!第三艦隊本隊へ通達!第一艦隊の残存兵力は僅か!敵は既に旗艦に対する自由攻撃を敢行中!敵艦隊は第一艦隊殲滅を目標としており壊滅は時間の問題です!指示を。』

『こちら第三艦隊副司令官斑鳩だ。こちらも先程遊撃艦隊より情報を得たところである。遊撃艦隊はこの事態を把握しており、起死回生の一手を以って敵戦力を撃退すると言っている。』

『起死回生の一手?』

『残念ながら我々にも伝えられない機密らしい。直方隊は別命あるまで当初の作戦通り敵後方に機動攻撃を加えて時間稼ぎをせよ。』

『了解、、!遊撃艦隊を信じていいんですね?』

『我々も間に合わない。信じる他ない。』

『承知しました。』

すぅ、と息を一つ吸うと隊長が今まで1番冷静な声で話し出した。

『聞いたな。我々は11時方向、奥の敵艦隊に機動攻撃を開始する。分かっているとは思うが、一撃離脱を徹底しろ。』

『『『了』』』


機動攻撃とは、機甲兵を使用した一撃離脱を中心とする奇襲攻撃である。

敵に確実に損害を与え、かつ生存確率を最大に上げる戦術だ。


『各員陣形を崩すな!』


魚鱗の形となった部隊は敵駆逐艦の船体をなぞる様に飛ぶ。

そして、

『撃て!』

号令と共に至近距離で弾丸を撃ち込む。

弾ける鉄の音が響き、火花が散る。

が、僕が撃った弾は空を切って彼方へ飛んでいった。

こんな巨大な的にも当てることが出来ないのかと、僕は心底落ち込んだ。

『離脱!』

全速力で対空砲火の雨を突っ切って雲の上へ逃げる。

『次だ!』

旋回し、今度は逆側から奇襲。

スコープを覗きながらマニュピレーターの震えを力任せに押さえつける。

それでいて、少し気を抜けば仲間に置いていかれるので中々難しい。

付いていけているのが全く信じられないほどだ。初出撃でこれなのだから、直方隊長の言う通り、僕には才能というものがあるのかも知れない。

ガァン!!

鈍い音がしてカメラの横に火花が散った。

どうやら肩部を対空砲火が掠めたようだ。

油断禁物とはこのことである。


そうして何度目かの攻撃を終えた時だった。

目の端に光と見紛う程の純白を捉える。


中国軍機甲兵のネームド最高峰、『五行』の一角。

白梶木ホワイトマリン、チュー・イーリンである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る