第10話 鎬削
数で大きく劣る日本海軍が取った戦法は煙幕と兵科の集中運用だった。
つまり、ヘリ部隊、戦闘機部隊、機甲兵部隊が固まってターゲットを絞り集中放火を浴びせ確実に一つ一つ破壊していく、ということだ。
『こちら藤堂班。敵駆逐艦艦橋を破壊。』
『こちら榊原班。敵駆逐艦弾倉への着火を確認。距離を取る!』
「こちらブリッヂ了解!」
『枕木だ。敵潜水艦を破壊。』
『生駒班。巡洋艦2隻撃沈。』
「了解しました!次のターゲットへの移動をお願いします!」
『おいブリッヂィ!!動かねえ的当てじゃなくていい加減機甲兵やりてぇんだけど??』
「枕木中佐、、。これは作戦で。」
『さっきからちまちま撃たれててウゼェんだよ!!!さっさとやらせろ。おい島守のおっさん!!聞こえてんだろ!良いよなぁ?!』
「ダメだ!」
『じゃあいつまでやれば良いんだよこれはよ!!』
「まだ耐えろ。合図を出したら好きにしろ。」
『合図出さずに終わったら殺すからな。』
ブツッ
「まあ、枕木なら当然こうなるでしょうな」
「彼はイレギュラーな行動を取りかねませんからね。まだ縛っておきたい。」
「敵ミサイル来ます!数は13!」
「CIWSで迎撃しろ!チャフは出すな!」
「汎用艦『なら』が大破!数分後に沈没します!!」
「潜水艦『藤鼠』小破!一時撤退の要請!」
「『なら』の乗組員は救難艇で脱出させろ!『藤鼠』の撤退許可は出す!しかし5分で再度前線に出ろと伝えろ!」
「『なら』の大破ですか。厳しいですな。」
「ええ、ですがこちらも駆逐艦3隻、巡洋艦1隻、潜水艦1隻を破壊しています。まあトントンでしょう。」
しかし、このままではいけないのだ。
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目の前には黒煙を吹きながら傾く巨大な鉄塊。それを見下すように見る機甲兵とパイロットが居た。
ったく。これじゃあ弾がいくつあっても足りねえよ!いつまでこんなことやらされんだ?
ん、なんだあれ?
『枕木隊長。次はポイントDの敵巡洋艦です。』
「やめだ」
『隊長。いいかげんに』
「いや、やめだ。もう携帯ミサイルは尽きてんだろ。豆鉄砲じゃデカブツには大したダメージになんねーよ。それよか見ろあれ。」
『どれですか?』
「今3キロ先の空母の上でセットアップ中の機甲兵だよ。」
『あー、あ?ずいぶん遠いな、、あれがどうかしました?』
「似てる。」
『は?』
「似てんだよ。沖縄の基地襲った型のと。聞いた話によれば守備隊はほぼ全滅させられたらしいじゃねえか。てことで俺たちの仕事はあっちだ。」
『ええ!』
「ついてこい!」
なんだぁ?この胸騒ぎは。悪い予感がするぜ。なんにせよ悪い芽は摘んでおかなくちゃなぁ!
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「これが例の機体ですか。リュウ大校。」
『そうだ。沖縄を単騎で襲撃した
「名前がダサいですね。いつもながら。」
『それは私に言うなよ。しかしどうだ。やれそうか?チョウ・ハオラン中校。』
「ま、やれと言うならやりますよ。仕事ですし。ただ解放軍で一二を争う実力を持つこの"
『我慢しろ。それより失敗するなよ。あのシュウ・ユンハオがその機体で失敗したんだ。貴様まで失敗したら誰もそれに乗りたがらなくなるからな。』
「へいへい。最近の解放軍って、なにかと信心深いですからね。」
『わかったらさっさと乗れ!整備はもう完了するぞ。』
「さて虎鯨部隊諸君!仕事の時間だぁ!労働の喜びを噛み締めながら!せいぜい死なないように頑張ろうぜ。」
『『是‼︎』』
「よぉーうし!
ビーーーーーーーーーー‼︎‼︎
「なんだ?」
レーダーに感、、!機甲兵か!
『
「わかってるよ!敵の頭は!」
『照合中!出ました!機体は最新型『隼人改』!ナンバーとカラーリングよりパイロットは推定ですが!"
「、、おいおい初っ端から"
背中からゆっくりと得物を抜き、構える。
「スピードなら負けねえよ?」
『敵機!甲板に突っ込んできます!』
3
2
1
「ここだ。」
背中の翅が大きく開く。瞬間。機体はトップスピードに達した。
そして同時に、その黒鉄の剣は敵機の肩部を粉砕していた。
「ちょっとズレたな。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「何が起こった…?!」
モニターは機体左肩部の大破を示している。当然の如く左腕と左手は
動き出す前にヤれなかったのかよ!クソ!
『隊長!』
「下がってろボケ共!お前らじゃ手に負えねー!」
『しかし!』
「だまれ!」
『しかし隊長でも手に負えていません!複数で対処すべきです。』
「...俺の邪魔すんなよ?」
『勿論ですよ。』
「俺は突っ込んできた頭を相手する。お前らは取り巻きをやれ!」
『了!』
しかしこいつ、追い討ちを掛けてこない。
こっちが仕掛けんのを待ってるのか?それともハンデを与えてやってるつもりなのかよ!
「ぁあん?!」
腹立つなぁあ!
「いいぜ。お望み通り本気でやってやるよ、、、こいつを待ってたんだ、ろぉ?!」
枕木機の背中から展開されたのは、彼の異名の由来ともなった武装。ヒートサイズだった。機甲兵用の鎌状兵装ヒートサイズはただでさえ扱い辛く、使用する兵士は所謂"変わり者"扱いされる。しかし枕木前夜が使うヒートサイズは普通ではなかった。一般的なソレよりも長く、鋭く、大きかった。折り畳まれている状態だと分からないが、その全長は枕木機の全高の2倍に近い長さとなる。そのサイズにもなると機甲兵のアームでは支えきれず、サブアームを併用しなければならない。
それ程の武器で、それほどの武装。それは正に、一振りで命を絶てる死神の鎌だった。
ヒートサイズを構えると、それに応じて敵機も得物を構えた。
「行くぜ?」
瞬間。動きは同時だった。しかし、方向が違った。
音速を超える速度で正面から突撃してくる敵機に対し、枕木機は横に全速で移動した。
敵機は先程枕木機が居た地点で静止している。攻撃は勿論当たってない。
「なるほどなるほど。わかっちまったぜ?テメェの弱点がよ。急ブレーキは効くが、急旋回は出来ねぇんだろ。」
「反撃の時間だ。」
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「ぬおっ!」
敵の大振りをすんでで
最初の突撃で近づきすぎた。
距離を取らなければ、こちらに不利だ。
しかし、その隙を与えてくれない。
『舞鷹』のスピードが活かせるのは前方だけ。横移動や退避で使うにはその都度向きを変えなければならないが、この相手に背を向けることはできない。
こちらが狩られる。
「どうしたものか。」
今度はー。縦の大振り、横。縦。横。横。縦。横。縦。縦。縦。
ダメだ。法則性は無いようだな。
しかし大振りなのに隙が見当たらない。切り返しが異常に速いのだ。ならば。
敵のリズムを崩す!
そして横の大振りが流れてくる瞬間。『舞鷹』はその黒光りする超刀を、柄を上にして縦に持った。
カァァァアン‼︎‼︎
大鎌は見事に機体と機体の間にあった剣に引っかかる。
途端。剣を引き寄せる。同時に前へ放たれる拳。それは敵機の両面を潰し、顔面の装甲を削った。
相手のヒートサイズは今や『舞鷹』の脇腹と剣の間でガッチリと挟まって動かない。
「勝負あったなぁ。死神よぉ。そもそも俺より強い機甲兵はそうそう居ねぇから。諦めな。」
背の翅が再度展開される。
「さてどう料理しようか?お前も名のあるパイロットだ。最期は劇的が良いだろう。ふむ、、。ん、そうだ。この高さから音速超えのスピードで水面に叩きつけたらどうなるかね?」
「沈めや。」
それかバラバラになって、名声と共に砕け散れ。
ギシッ
「ギシ?」
何の音だ?
次の瞬間だった。
物凄い振動と共に突き上げるような衝撃。
モニターには左腕部が接続断絶された事を示すエラーが光っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「まだ終わってねえよ!」
サブカメラに切り替わったモニターには敵の肩と胴体の接続部が破損しだらんと腕が垂れている様子が映っていた。
「狙い通りだ。」
サブアームと右腕の力を限界いっぱいまで引き出し上に持ち上げたのだ。
強い力で押し上げられた大鎌の柄は敵機の肩部の関節ごとコネクタをすり潰し破壊していた。
そして刃を上に向け取れかかっていた肩部を完全に斬り離す。敵の長刀は既に無くなった。近接戦闘はできない。
さらにそこに働く物理エネルギーによって前に仰反り、バランスを崩すその黒い機体は形勢が逆転した事を悟っていた。
『隊長!副隊長が、、!』
「どうした!」
『伊藤副隊長の機体が墜ちました!』
「なんだと?」
『福島機も墜ちています!人数差が開きすぎています!もう戦えません!』
見ると既に敵の応援が向かってきていた。
「畜生が!撤退するぞ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『敵が撤退していく、、!』
『私が追います!』
「追うな!」
『しかし!』
「これは命令だ!こっちも空母に戻るぞ!」
"死神"貴様とは必ず決着をつけてやる。
しかしー。
「リュウ大校!」
『なんだ!』
「今ならそっちに戻りますけどね!サブの近接兵装と基本的な遠距離兵装は付けてくださいよ!ミサイルと剣だけじゃあ使い勝手が悪すぎる。今回は相手が近接バカだったから何とかなったが、相手が遠距離兵装使ってこられてたら死んでましたぜ!」
『技術部に報告しておこう。』
「備品部でしょうが。」
『それよりチョウ中校。戻ったらすぐに再出撃して欲しい。』
「あ?」
『南洋艦隊のリー・シンイ少校の部隊が"
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
"
戦争開始時から既にパイロットであったこのベテランは、小隊を率いてはロシア軍の第一次南下攻勢、第一次冬季攻勢を完璧に撃退し、"
『生駒隊長、どうしましょうか。』
「一応上からは機甲兵は無視しろとの命令だが、」
赤と黄色の派手なカラーリングの機体と8機の量産機がこちらに向かってくる。ただの守備部隊でないことはすぐに分かった。
『おとなしく通してくれそうも無いですね。』
『しかし隊長の前に立ちはだかるとは良い度胸だな!この生駒隊長とこの機体の恐ろしさは知れ渡って居るはずなのに。』
「余程腕に自信があるのか、、それともネームドか、、いずれにせよここで討ち果たし、味方に害が出ないようにするのが正しい判断だ。各機散開!」
『『了』』
「佐久間は右の2機、須藤は左の2機、残りは俺がやる。余りは藤堂指揮下に入って敵艦艇の破壊を続けろ。」
さて、お前はどんな風に死に様を晒してくれるんだ?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やばっ!やばば!超やばいんですけど!」
『リ隊長〜まずいですって。相手誰か分かってます?』
「そんなのとっくに知ってますけど!"
リ・シンイ。髪をツインシニョンに纏めたこの若い女性兵士はネームドでこそ無いものの、期待のニューウェーブとして、そして半ばアイドルとして現在中国軍で担ぎ上げられている。が、お飾りではない。上海の国防大甲兵科を首席で卒業した優秀な将校だ。
『チョウ中校の部隊も応援に来てくれるみたいですし待ちましょ?』
「はぁ〜?余計なことすんなよ!あの辛気臭いオッサンに助けられるなんて無理!無理無理!」
『隊長〜。』
「大丈夫大丈夫!ウチの腕前とこの『
『あー!仕方ないですね、、もう。各機!左右に展開してアウトレンジから攻撃です!』
『『是』』
『良いですか!!各機時間稼ぎに努めてください!でなきゃ死にますよ!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
敵の量産機が止まった。
そして、前を向きながら後退し始めた。
「これはー。」
『撤退ではなく攻撃のための後退ですね。』
「そのだろうな、アウトレンジからの射撃。定石通りだな。」
予想通りサブマシンガンを撃ちかけてきた。
だが無意味だ。
この
機体の腰部からサブマシンガンを引き出し、構える。
そちらは牽制のつもりだろうが、こちらはこの距離でも、
「当たる」
短く射出された弾は。
敵機甲兵2体のコックピットを貫いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『隊長!ワンとリュウが!』
「げっ、、!」
この距離で当ててくんの?!
ちょっと分が悪いけどさ!これくらいが。
「生きてるって感じするよね!」
『?!、、隊長危険です!』
『双爪』がさらにスピードを上げる。
「ゴッメーン!副長!」
『な、なんですか!』
「囮になって!」
途端『双爪』は空へ飛び上がる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「凄まじい機動力だな。」
真上に急上昇して消えていった赤い機体を見ながらつぶやく。
ヒュン、ヒュンと弾が掠める。
どうやらまだ敵がサブマシンガンを撃ち続けているらしい。学習しないのか。
その時、
その中の一体が、近づいてきた。
「面白い。この生駒に接近戦を計るか!量産機!」
受けて立と、
?!
レーダーに反応。位置が同じ。真上か!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『近づいてみましたけど!みましたけど!僕を囮にして何するつもりなんです!?』
「見ててよ!中距離で負けても!近距離なら!どうにかなる!!」
『きんきょり、、近距離?!だめです!!』
“
味方の声は聞こえていなかった。代わりに光の筋が、一直線に、こちらへ、、。
「やば」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
上空から攻撃に対して、腰から抜かれたその一閃は敵の右腕、そして腹部から腰部に掛けてを両断していた。
「若干外したか、、」
俺も衰えたかもな。
動きを停止した敵機の首を掴む。
「ふむ、やはり見たことのない型だな。沖縄でも新型が出たと聞く、、中国との戦いは厳しいものになるだろうな。」
『こちら佐久間、片付きました。』
『こちら須藤、こちらも完了です。』
「よし。あとはお前だけだが、」
そう言ってヒートソードの切先を敵のコックピットに当てる。
「大した事は無かったがー。貴様の勇敢さに免じて楽に逝かせてやろう。このヒートソードなら一瞬で蒸発する。痛みを感じる暇も無くな。」
『隊長!』
「む?どうした佐久間。」
『緊急要請です。』
「第一艦隊の隊列が瓦解。既に敵機甲兵、航空機の攻撃は旗艦にまで及んでいます!」
『私の方にも速報が!枕木隊がネームドとの交戦で大破多数で撤退。藤堂隊は旗艦の援護の為に戦略的撤退。榊原隊は散り散りに。』
『我々も艦隊の防衛に向かった方が良いのでは。』
枕木がやられる程のネームドがこの戦場に居る。遭遇したくは無いな。何より、部下を死なせるわけにはいかないし、帰るべき艦隊が崩されているならそちらを優先すべきだ。
その時だった。
『もしもーし!』
快活な声が耳を通り抜けた。
『はいはーい!聞こえてルー?』
カタコトの日本語で、しかも女の声だ。
どうやらオープン回線で繋いでいる様だ。
『あれ?
「何者だ。」
『お!良かっタ良かっタ!私。あなたが今首掴んでる奴に乗ってる、パイロット!』
「何のつもりだ。お前はこれから死ぬんだぞ?」
『No〜!死にたくなーい!』
「命乞いのつもりか?」
『そうそう!でもただ命助けて〜!ということでは無いのです!
「取引?」
『ソ!貴方達艦隊に戻りたい。私助かりたい。』
『さっきから聞いていれば抜け抜けと!釣り合ってないだろ!我々は今すぐお前を殺して戻れる!』
『ノンノン!このままじゃ貴方達帰れない。だって"鯱"来るよ。もうすぐそこ。』
「ネームド、、“大鯱"のことか!」
『何?!では枕木隊をやったのは!』
『そう聞いてるヨ。でも私特別。"鯱"がわざわざ助けに来るくらい特別。私を囮にしたらその隙に戻れる。』
「時間は無いな。正直、ここで“大鯱"とやり合ってもメリットは無い。」
ただしこいつが嘘をついてる可能性も。
あっ!と須藤が叫ぶ。
『隊長!本当に来ました!敵機甲兵10機が接近中!』
「嘘は付いていなかったか。」
『私嘘つかないーい。』
「では囮に使わせてもらうぞ。」
そういうと、生駒機は首根っこを掴んだ右腕をいっぱいに伸ばし。向かってくる敵小隊に向けて投げた。
『囮ってそーいうこと?!あわ、あわわa』
バツンッ!
「騒がしいガキだ。行くぞお前ら!」
『『了』』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『リ少校』
「あ、チョウさんこんにちは。」
『こんにちはじゃない!自分の小隊全滅させやがって。部下を何だと思ってる!』
「えー!あいつら死んじゃったの?!残念!良いやつも居たのに!」
『副長のシュウだけは生きてるよ!責任感じてるぞ。お前のせいだからな。』
「なにそれー。わけわからんですよ。私は自分の仕事をしたまでですのに、、」
『お前の仕事には部下の管理も入ってんだバカが!とにかく上に言ってお前は配置替えしてもらう!お前に隊長の素質はない!』
「ぶー!」
『しかし、また酷くやられたな。"
「次は勝てますよ。」
『は?』
「次は勝てるって言ってんですよ。」
そう言ってリ・シンイは口角を上げた。
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