君の知らぬ地平の彼方(リメイク)

旭 新崎

プロローグ

外はいつものように黒い雨が降っていた。 「ねぇ!おじちゃんおじちゃん!またお話して!」 そう言いながら無邪気な子供らが、その日も老人の下へ駆けて行った。 私も、隅っこで読んでいた古い本を閉じて、立ち上がった。 老人の話はいつも面白かった。 自分たちが知らない世界や動物、植物、歴史、人物。様々な話をしてくれた。 皆、冗談の類だと思っていたが、それでも老人の話は毎日変わらない生活を過ごす子供らにとって、その退屈を払うには十分な効力があった。 老人は子供らの騒がしい声を制止して静かに言った。 「待ちなさい。私は今話す内容を考えているところだから、その前に、雨で汚れた服を脱ぎなさい」 老人は雨が嫌いだった。 老人曰く、自分は子供らと違い雨にさらされると肌が溶けてしまうそうだ。 そんな馬鹿なと思ったが、自分も雨にれるのは好きではないので、なんとなく気持ちはわかる気がした。 さて、子供らは汚れた上着を脱いで老人の前にきちんと並んだ。 老人は来ていた上着のボタンをいじりながら、話し始めた。 「今日するのは、戦いの話だ。」 戦い、と聞いた子供らの顔は興奮して紅潮していた。それもそのハズ、老人は自分から戦争の時代を生きてきたと言う割には戦争の話だけは絶対にしなかったのだ。子供らはそれが気になってしょうがなかった。 「これはずっと昔の頃、わしの年が君らとそう変わらない時の事。」ーーー 老人の話によるとその頃、世界では第四次世界大戦と呼ばれる戦争が起こっていたらしい。 当時世界の中心であった中国という国とその周辺諸国の対立に始まり、さらに他の国が巻き込まれていき、遂には、世界を二分した巨大戦争が幕を開けたそうだ。 老人は、その周辺諸国の1つ、日本という国にいたらしい。 その日本という国は丁度テクノロジーの発展著いちじるしい島国で、世界の中でも五本の指に入るほど、強い海軍を持ち、中国と互角の戦争を行っていたそうだ。 だが、戦火は広がり、犠牲は絶えず、終わりの無い戦いが続いていた。 しかし、その戦いは、ある日唐突にに終わりを迎える。 戦いを終わらせたのは1人の元整備兵の少年であった。名を九条くじょう千秋ちあきという。


これから記すのは、その老人の話と、私が各地を探し回って見つけた資料を元に再構成した、九条千秋という男の壮絶な、それでいて儚い、悲しき人生の物語である。


君の知らぬ地平の彼方

誰もが夢見る桃源郷

蟻の子一匹死なぬ世へ

この身を投げて進みけり

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