彼氏にタピオカしか愛せないと言われたら

@Tane3

単話

「君は……」

「に、二年B組の朝陽日花里です!」

「日花里ちゃん、ね。それで、話って何かな」

 私は、今、一世一代の告白をしようとしている。

 まだまだ高校生なのに一世一代のとは大げさと言われるかもしれないけど、私にとってはそれくらいの心持だった。

「あ、あの、その、あの……す、好きです!付き合ってください!!」


 切っ掛けは、本当に些細なこと。少し親切にされたとか、その程度。

 それでも、それが嬉しくて、どうしても彼に近づきたくて。

 そんな下心で彼の幼馴染に近づいて、少しずつ彼の情報を集めながら、ついに今日この日を迎えている。

 ……その幼馴染さんとは随分と仲良くなったけど、彼の話をすると微妙な顔をしていたのが不思議だった。


 私の告白に驚いたような顔をしたものの、彼は真面目な顔で私を見つめてくる。

 顔を逸らしたいほど恥ずかしいけれど、そうしてはいけない気がしていた。

「朝陽日花里……もしかして、あのブログの子かな?」

「ふえ、あ、はい!そうです!」

 ブログというのは、以前から私が投稿しているブログだ。

 これも、幼馴染さんのアドバイスがあって始めたものだったりする。

 内容は、これもまた幼馴染さんのアドバイスで飲み食いした物――主に、タピオカドリンク――について。

 ブログは自分の名前からとって、陽だまりの花里。安直だけど、だからこそ彼はピンと来たらしい。

「そっか、うん。いいよ、付き合おうか」

 そして、こともなげにそう返事を返してくれた。

 って、え?

「えええ!?良いんですか!?」

「うん?嫌だったかな?」

「いえ、いえいえいえ嫌だなんてそんな」

「じゃ、よろしくね。日花里」

 いきなり名前を呼ばれた!?

「ふあい!よ、よろしくお願いします、旅岡君!」

「これからは彼氏彼女だから、名前で呼んでくれていいよ」

 ひゃあ、顔が近い!?

「あ、えっと、その……優月、君……」

「うん、よくできました」

「えへへ……」

 ああ、幸せだなぁ。

 これが夢なんじゃないかと思えるほどに、その日は、とても幸せな日になった。

 


「ねっ、聞いて聞いて!告白したらね!まさかまさかのオーケーだよ!」

 翌日、私は幼馴染さんに昨日の出来事を話していた。

 同じクラスである彼女とは、今の席が近いこともあり朝からずっとお話が出来ている。

「日花里、その話もう10回目……」

「だって、ねえ、だって!」

 私の喜びをこれでもかと伝えているのに、どうにも彼女は微妙な表情をしているのはどうしてなんだろう。

「あーもう、分かったから……にしても、あの変人のどこがいいんだかねぇ」

「変人?」

 そういえば、彼女はよく彼のことを変人と呼んでいる。

 けれど、傍から見ている限りはそれらしい姿は見たことがなかった。

 むしろ、誰にでも親切にする、とても良い人だと思ったものだ。

「んー、まぁ、多分見ないと信じないと思うから言わない。とりあえず、本性知っても幻滅しないことね」

「本性?優月君は良い人だよ?」

「あー、まあ、うん。そうだろうね。人当たりは良いやつだよ、うん」

「?」

 結局、彼女の言葉の意味を知るのはそれから暫くしてからのことだった。


 それは、初めてのデートのこと。

「優月君、その、今日はどこに行こうか」

「そうだね、駅前のモールに新しいタピオカドリンクの販売店が出来たんだけど、どうかな?」

「へー、そうなんだ!楽しみだね!」


 これは、その数日後のデートのこと。

「今日はどうする?」

「この前行ったタピオカ料理を出す店がね――」


 そして、一月ほどした後のデートのこと。

「えっと、今日は……」

「あのお店のタピオカミルクティーが――」


 そこから暫くして、今日。

「今日はどんなタピオカを……」

「タピオカー!!」

「うわっと、ど、どうしたの?」

 我慢の限界だった。

「毎日毎日タピオカタピオカって、たまにはタピオカ以外のデートもしたいの!!」

 来る日も、来る日も、タピオカタピオカタピオカタピオカ。

 お洒落なカフェに出かける、二人でショッピング、確かに、それはデートらしいデートと言える。

 けど、だけども、どこに行くにしても、必ず主目的はタピオカだった。

「急になんでそんな……」

「急に、じゃないよ!?もう二か月だよ!?タピオカデート!連日!」

 改めて思う。よく我慢した方じゃないかな!?

 告白の後、恋人同士になってからのデートは結構、頻繁にしていたと思う。

 けど、そのすべてがタピオカなのだ。

 今日も、昨日も、先週も、多分、明日も来週も。

 流石に我慢の限界だ。

「何?その顔は……」

 けれど、私の癇癪を聞いて彼は随分と動揺していた。

「折角、折角同行の志を見つけたと思ったんだ。

 君となら、タピオカの素晴らしさを語り合えると……」

「確かに!私も!好きだけど!!こうも毎日続くのはなんか、こう、違うの!たまには普通の男女がするようなデートがしたいの!!」

 

「そ、そう言われても……」

「そう言われても、何?」

「僕はタピオカしか、愛せないから」

「……え?」

 この人は何を言っているのだろう。

「僕はタピオカしか愛せない、いや、むしろ僕自身がタピオカだと言っても過言ではない」

「過言だよそれは」

「だからどうしても、男女の恋愛というものに興味が持てなくてね」

「じゃあなんで私と付き合ってるの?」

「君が運命の相手だと思ったからさ」

「えーっと、話が見えないんだけど……」

「こんな僕だから、話が合う相手なんて居なかったんだ。

 だけど、君のブログを見た時は感動したよ!ああ、なんてタピオカを愛している子なんだと」

「えっと、ありがとうございます?」

 あれは、お近づきになりたくて始めたものでしかない。

 いや、確かにそれがきっかけでタピオカが好きになったのは間違いないけど。

「だから君に告白されて、あのブログの子だと気付いた時は運命を感じたよ!

 なのに、どうしてタピオカを蔑ろにするようなことを言うんだ!」

「どうしてもこうしても、さっきから言ってるでしょ!?毎日毎日っていうのは流石に違うの!!」

「毎日毎日は違う……はっ、もしかして、それはこういうことか。

 たまには一度、離れた場所からタピオカの素晴らしさを知る機会を設けるべきだと!

 ああ、なんて僕は愚かだったのか、確かにどんな良い物でも、毎日続いたらそれと気付ずに、その良さが陰ってしまう!

 日花里はそう言いたいんだね!?」

「ああ、もう、それでいいです」

 どうしてくれよう、このタピオカ狂い。

 幼馴染さんが微妙な顔をしていたのも、今となってはよくわかる。これじゃあ、確かにね。

 でも、良い人なんだよなぁ……と思ってしまっている辺り、自分も手遅れなのかもしれない。

 だから、いつか……ほんの少しでも。

「何をしているんだい、さあ行こう、タピオカの良さを再確認するための休タピオカに!」

 最初の憧れや緊張は、今となってはどこへやら。既に呆れが勝るばかり。

「ちゃんと行くから、待ってよ!っていうか休タピオカって何!?」

 まあ、でも、これも悪くはないかな、なんて思ってしまっているわけで。

 惚れたら負けとは、昔の人はよく言った物だ。


 彼氏にタピオカしか愛せないと言われたら、あなたはどうしますか?

 私は――

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