第337話 新・部活動開始!


 早朝。


 朝五時に起きるのはもはや習慣であり、それは休日でも変わることはない。軽くストレッチをした後に、俺はランニングへと出かける。学院のコースも完全に把握しており、この一年で色々と自分なりのコースも開拓してみたりもした。


 外に出るとすぐに走り出すのではなく、校門の前でじっと立ち尽くす。


「お兄ちゃん!」


 そう。


 俺はステラを待っていたのだ。俺がランニングを毎朝している、という話をするとステラもぜひ付き合いたいというので一緒に走ることにした。それにしても、やはりステラは今日も美しい。


 最近は少し身長も伸びてきたようで、以前よりも大きく見える。体に厚みはそれほどないが、きっと大人になる頃にはもっと美しい女性になっているだろう。


「行こうか。ステラ」

「うん!」


 走り出す。もちろん魔術による身体強化などはしない。己が肉体を鍛えることこそ、史上の喜びなのだから。


「学院はどうだ?」

「楽しいよ! お友達もできたし!」


 軽くランニングをしながら俺はステラの話を聞く。ペースを徐々に上げていくが、息が激しく乱れることはない。流石は我が妹だ。しっかりと鍛錬は続けているようだった。


「マリアちゃんとオリヴィアちゃんは特に仲がいいよっ!」

「そうか。それはよかった」


 笑みを浮かべる。とても楽しそうな学院生活を送っているようで何よりだった。ステラが元気に笑っている姿を見れるだけでも、俺は本当に嬉しかった。


「あ。でもね」

「どうした?」

「オリヴィアちゃんがお兄ちゃんのこと、すごく聞いてくるの」

「……」


 一瞬だけ黙ってしまう。正直なところ、オリヴィア王女のことは嫌いではないが苦手である。何を考えているのかよく分からないし、俺に対するアプローチも積極的だ。


 キャロルは直球的なのだがオリヴィア王女は狡猾、と言えばいいのだろうか。気がつけば彼女のシナリオ通りに進んでいるなんてことにもなりかねない。師匠にも相談したことがあるのだが、オリヴィア王女にはくれぐれも気をつけるように言われている。


 そんな彼女がステラに何を聞いているというのだろうか。


「……な、何を聞いてくるんだ?」

「昔の話とか、好きなものとか、いっぱいだよ! オリヴィアちゃんはお兄ちゃんのことが好きなんだね!」

「あ、あぁ……そうかもな」


 ステラが考えているような好きではないことはもちろん分かっている。相手は王族で俺は一般人オーディナリーだが、気がつけば婚約させられていることもあり得ると師匠には言われている。


 彼女に対しては細心の注意を払う必要があるだろう。


「それでね〜マリアちゃんもね〜」

「マリアもあるのか?」


 マリアがステラに俺のことを尋ねるとはあまり考え難い。彼女は別に俺のことなどそれほど興味ないと思っているからだ。


「なんかお姉さまがどうとか、言ってたような」

「……」


 リリィーのことか……。


 マリアはすでにリリィーの正体を知っている。初め知ったときは驚いて失神してしまったが、なぜかその後は逆に嬉しがっていたような気もする。それにまだ彼女から呼び出しなどはされていない。


 曰く、「私が呼んだらちゃんと来なさいよ。分かってる?」と真剣な目つきで言われたのは記憶に新しい。


「マリアちゃんと同じ部屋だから、たまに独り言が聞こえてくるんだけど。お兄ちゃんの名前とお姉様って単語がよく聞こえてくるよ?」

「分かったステラ。もういい。大丈夫だ」

「そう?」

「あぁ……」


 どうやら二年生も色々と大変なことになりそうだと俺は思うのだった。



 放課後になった。今日から部活動もまた開始されることになっている。俺は本日は環境調査部の方に顔を出すことになっている。いつものように、エヴィ、アルバート、クラリスの四人で部室へと向かう。


「ねね。レイ」

「どうしたクラリス」


 ツインテールを揺らしながら彼女はあることを尋ねて来た。


「あんたの妹が来るって、本当?」

「あぁ。義理の妹ではあるが、俺はステラのことを本当の妹のように思っている。それにステラは世界で一番可愛い。これだけは譲れない」

「いや、別にあんたのシスコン話はいいのよ」


 最近はステラと一緒にいることよく目撃されているようで、シスコンと呼ばれることが多い。厳密な意味は知らないが、おおよそ妹を愛しているという意味らしいので正直嫌ではない。


「なんかめっちゃ強いって噂なんだけど……」

「あぁ。そのことか」


 一年生の噂は二年生の俺たちの方にも届いている。早速、一年生たちは魔術演習が行われカフカの森に向けて準備をしていることだろう。


 そんな中、一番目立っているのは主席のホスキンズではなくステラだった。曰く、男子生徒を優にこえるフィジカルを持っており、身体能力だけでいえば一年生の中でもぶっちぎりのトップだとか。


 別にそのことに対して驚きはない。


 俺が今まで教えて来たことを愚直にこなし、才能もあるステラが一年生の中でもズバ抜けているのは当然のことだろう。そんなステラのことを俺は誇らしく思っている。


「ステラは俺がみっちりと鍛えたからな。それに師匠もステラには色々と教えている。才能もあるし、努力もできる。当然の結果だな」

「え……二人の七大魔術師に教えてもらった、ってこと?」

「まぁそうなるな」

「……なるほど。義理とはいえ、あんたの妹なのね」


 神妙な面持ちでクラリスは呟いた。そしてエヴィとアルバートもまた、会話に入ってくる。


「レイの妹か楽しみだな!」

「あぁ。俺も会うのが楽しみだ」


 俺たちは部室でそれぞれ着替えると、改めて集合。そこには新入部員の一年生たちも並んでいた。ほとんどは男性生徒であるが、その中に一人だけステラが混ざっている。


「あ。お兄ちゃん!」

「ステラ。準備は万端か?」

「もちろんだよっ!!」


 ニコッと快活な笑みを浮かべる。うむ。やはりステラは世界一だな。


「……あんたがレイの妹?」

「はい! ステラ=ホワイトです!」

「私はクラリス=クリーヴランド。レイのお友達よ」

「あなたがクラリスさんですか!?」

「え、えぇ……何、この食いつき……」


 ステラは颯爽とクラリスの方へと近づいていくと、彼女の両手をギュッと握りしめる。


「実は環境調査部は女の子があまりいないって話だったので、クラリスさんがいてくれて嬉しいです!」

「ふ、ふん……そう?」

「はい! これからよろしくお願いします、先輩!」

「……先輩っ!?」

「はい。そうですよね?」

「そ、そうだけど……」


 ツインテールが激しく上下に動いている。この動きの時は感情が昂っている時のものだ。この一年で俺はクラリスのツインテールの動きを把握しているからこそ分かることだった。


「やっぱりレイの妹って感じね。よろしくね」

「はい!」


 ぶんぶんと上下には激しく手を揺らして握手を交わす。


 ふむ。すぐにクラリスとステラは仲良くなったな。いいことだ。


 そしてステラは一人一人、先輩たちに頭を下げていく。それに伴って、他の一年生も同様に挨拶をしていく。はからずとも、これで一通りの自己紹介が終わることになった。


「ふむ……今年の一年も粒揃いのようだな」


 新部長は顎に手を当てながら声を漏らす。圧倒的な巨躯を有しているのはもちろんだが、新部長はメガネをかけておりとても聡明な人だ。何事にも合理的な判断を下し、トレーニングを効率的に行う。


 前部長から指名されただけあって、すでに貫禄も出て来ている。



「それでは例年と同じように、トレーニングを開始する。全員、準備はいいな?」

『おう!』

『おー!』


 男たちの野太い声と、クラリスとステラの高い声が混ざり合って響く。そして俺たちはついに新しい世代での部活動を開始するのだった。


 ◇



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