第206話 本戦二回戦
本戦一回戦が無事に終了した。
そしてついに、本日より本戦二回戦が開始となる。今日の第一試合は、シード権を獲得している俺たちと一回戦を突破したチームとの戦いになる。
相手は、メルクロス魔術学院の三年生と四年生で構成したチームだ。一回戦ではその卓越した魔術により相手を圧倒した。
特に防衛側での力はかなりのものであり、仮に防衛戦で勝ち取ることができなければ3ラウンドまで突入することは確実になってしまうだろう。
「よし。いくか」
今日もまた、いつものように早朝に起床。自身の体調をよく確認するが、問題は全くない。
そうして俺は一人で、集合場所である古城の前へと向かうのであった。
「ついに本戦だな」
「えぇ。ついにここまできたわね」
「そうですわねっ! 今日も勝ちますわよっ!」
アメリアとアリアーヌと合流したが、二人とも体調は万全。気概も十分である。今回の試合に際して、作戦はかなり練ってきた。
といっても、何か特殊な作戦があるわけではない。
早期に試合を決めるためには、防衛と攻撃の両方で勝利をするしかない。そのため、どちらの特化していても試合が泥沼化するのは自明。
ここから先は、総合力の高いチームの勝利となる。
「レイ=ホワイトくん……だよね?」
相手のチームは、チーム:アスターという名前だ。リーダーのアスター先輩はメルクロス魔術学院の四年生で、その実力は三つの学院の中でも最上位に位置していると言われている。
「はい。今回の試合、よろしくお願いします」
握手を求める。すると彼は、じっと俺の瞳を見つめながらグッと強い力を込めて握手を返してくる。それはとても分厚く、よく鍛錬していることが分かる掌だった。
「正直いって、君のチームがここまでくるなんて思ってなかったよ。それに、一番の敵は三大貴族の二人と思っていたけど……このチームの心臓は君だね」
「そんなことは、ありません。三人揃ってのチームですから」
「謙遜も美徳だけど、君の実力には非常に興味がある。
「恐縮です」
その場で頭を下げると、彼は軽く微笑んでから手を振りながら去って行く。
実際に話したのは初めてだったが、とても紳士な方だった。
それはおそらく、彼が苦労人ということが起因しているかもしれない。
出身は貴族の家系ではなく、一般的な魔術師の家系。しかし彼は優秀だった。そのため、学院では他の貴族にあまりいい印象を抱かれていない、という噂は聞いていた。
そんな彼だからこそ、俺のことを認めているのだろうか。
ふとそんなことを考えてしまう。
「話してたの?」
「あぁ。挨拶程度だが」
「コーディ=アスター。魔術に特化した、魔術師ね。
「そうなのか」
アメリアからそう話を聞くが、それも納得がいく。
今までのチームで、
そして、互いのチームが整列。
この試合の審判はキャロルで、彼女がコイントスを開始する。
「コイントス、始めちゃうよ〜☆ 二人とも、どっちを選ぶのかなぁ〜?」
甲高い猫撫で声で、いつものようにキャロルはそう言ってくる。俺としてはどちらでもいいのだが……と思っていると、アスター先輩が選択権を譲ってくれる。
「そちらの好きなようにしていいよ。後輩に譲るのも、先輩の役目だからね」
「では、裏で」
「はいはーい! では、始めちゃいますっ!」
キィイインと音が軽く響くと、宙をクルクルとコインが舞う。キャロルがそれを、手の甲でしっかりと受け止めて、手を退けると……そこには、表の表示になったコインがあった。
「では、僕たちは防衛を選択します」
「はい! では、今回の試合はチーム:アスターは防衛、攻撃、防衛の順番で〜すっ! チーム:オルグレンは、攻撃、防衛、攻撃の順番になりま〜す☆ キャピ☆」
「……」
どうやら天は俺たちに味方をしてくれなかったようだ。欲を言えば、防衛、攻撃、防衛の順番にしたかったが……どうやらラウンド1は、相手の有利な盤面で戦わざるを得ないようだ。
出鼻を挫いておきたかったが、こればかりは仕方がないだろう。
「それでは、準備フェーズに入りますっ! レイちゃんたちは、十分待ってね〜」
「おい。ここでそんな風に呼ぶな。中継されているんだろう」
と、耳打ちをするとキャロルは大袈裟に謝罪をしてくる。
「あ、ごめ〜ん☆ レイちゃんといるのが楽しくて、ついねっ!」
「……」
腹立たしいこと、この上ない。
だが、キャロルは不意にその表情を真剣なものにかえる。
「ねぇ、レイちゃん」
「おいさっきも言っただろう。不用意な会話は」
「今は準備しているチームの方に向けてるから」
そういえば、モニターの管理はキャロルがしているんだったか。審判もこなしながらするとは、本当に器用なものだと感心していると、さらにキャロルは言葉を続ける。
「──レイちゃん。楽しそうだね」
その言葉は、やけに感情のこもったものだった。ふと、その顔を見るととても優しそうにキャロルは俺に微笑みかけていた。
いつもは戯けたりしているが、この時のキャロルは年相応の大人の女性に思える。
真面目な時のキャロルは嫌いではない。それに、その表情もとても綺麗に思える。
「そうだな。きっと俺は、楽しんでいると思う」
「大切なものが見つかってよかったね」
「確かに友人たちができて、それはきっとかけがえなのない大切なものだ。しかし、俺は師匠やアビーさん、それにキャロルなどの大人たちに出会ったことも、大切だと思っている」
「レイちゃん……」
と、思ったことを口にするとキャロルは瞳を潤ませながら、思い切り抱きついてくるのだった。
「もう大好きーっ! 絶対に
暴走を始めたキャロルは、顔を思い切り近づけてくる。それに
もちろん、俺はすぐにキャロルを組み伏せる。だがこいつも七大魔術師の一人、難なくそれは躱されてしまう。
そして、まるで絡みつく触手のようにべったりとしがみついてくる。
「ちょっ! おいっ! 離せ! 試合前に戯れてくるなっ!」
「じゃあ、試合の後ならいいのっ?」
「よくないっ!」
そのように問答をしていると、近くに寄っていきたアメリアとアリアーヌがじっと俺たちのこと射抜いてくる。
「思ってたけど、レイってキャロル先生と仲良いよね……昔からの知り合いなのは知ってるけど」
「ですわね……しかしこれは、ちょっといき過ぎなような?」
その後、問答無用でキャロルを一本背負いでその場に叩きつけると、試合の準備が終わったようで打って変わったようにキャロルは試合開始のコールをするのだった。
「それでは、本戦第二回戦。チーム:オルグレン対チーム:アスターの試合を開始しますっ! 制限時間は一時間。それでは──始めっ!」
その掛け声と同時に、俺たちは古城内へとさっそく侵入して行く。
すでに城の中の立体的な構造は把握している。またおおよそにはなるが、相手がフラッグを置いている位置もまた把握している。
そうして三人で疾走していると、地面から眩い光が発生。
どうやらいきなり仕掛けてきたようだった。
「レイ!」
「レイ、ここままだと分断されますわっ!」
そう。その光はちょうど俺たちを分断するようにして現れると、そのままアメリアとアリアーヌの姿が霞んでいく。
おそらくは、俺を一人にして相手をしたいのだろう。
「二人とも、作戦は継続だッ!」
「分かったわ!」
「分かりましたわ!」
そうして二人は、眩い光の中に包まれて消えていった。それと同時に、コツコツと地面を踏み締める音が反響する。
そこに現れるのは、彼一人だった。
「さて、と。邪魔者はいなくなったね」
「アスター先輩」
「これで、一対一だ。君にはとても興味がある。今回は勝ちにもこだわるけど、君とはこうして正面から戦いたかったんだ。シャーロット=ハートネットとは一緒にしないでくれよ? 僕は慢心などはしない」
優しい笑顔を浮かべているが、それは宣戦布告。
こうしていきなり分断されてしまった俺たちは、攻城戦を戦い抜くのだった。
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