第205話 攻城戦


 本戦第一試合。


 俺たちは、シード権を獲得しているのでしばらくは試合の観戦となる。


 一回戦を全て消費した後に、俺たちはシードなので二回戦からの登場となる。


 そのため、ほぼ全ての試合を事前に見ることができるためかなり有利だ。


 攻城戦は攻めと守りに分かれての試合となる。


 攻め側は城の中に置かれているフラッグを奪って、外の所定の位置に持っていけば勝利。守り側は、制限時間内で守り切れば勝ち。


 攻めと守りの順序は、コイントスで決める。そして、試合は全て合わせて3ラウンド制。先に二勝した方の勝利となる。理想を言えば、先に二勝を獲得したいところだ。


 もつれてしまえば、3ラウンドに突入してしまう。各ラウンドは一時間。最速で決めれば試合は二時間だが、3ラウンドまでいけば試合時間が長引く。つまりは、それだけ疲労が蓄積する。


 過密な日程な上に、トーナメント方式ということで各チームは早期に試合を決めにくるだろう。


 また、フラッグの位置は防衛側が自由に設置できる。防衛側は、五分だけになるが事前の準備フェーズが与えられる。その時間で、古城内にフラッグを設置。


 そして、遅延魔術ディレイの設置も可能だ。


 防衛側が有利なのか、攻撃側が有利なのか、それは一概には言えない。


 もちろん、それはチームメンバーの構成次第となってくる。


 俺たちのチームとしては、攻撃と防御どちらにも対応できるようになっている。


 その中で一番強力なのは、因果律蝶々バタフライエフェクトだろう。相手がフラッグを持って外に出る場合は、相手を外に逃さないければいい。逆に攻撃側では逃げ切ってしまえばいい。


 そのように因果を操作すれば、戦いは容易になってくるだろう。


 問題は、アメリアの限界値。


 本戦のトーナメントはかなりの連戦になる。そのため、十分なインターバルが取ることができない。出すとすれば、決勝戦にして欲しいが果たしてそこまで無事に試合をすることができるかどうか。


「ついに始まるわね」

「わたくしがちょっと緊張して来ましたわ……」

「さて。お手並み拝見とこうか」


 三人で円形闘技場コロッセオにて観戦を行う。今回の試合は、ディオム魔術学院の生徒三人と、メルクロス魔術学院の生徒三人で構成されているチームだ。


 予選の時からその試合を見ているが、やはり互いの魔術学院の特性がよく出ていると思う。


 ディオム魔術学院は近接戦闘に特化しており、メルクロス魔術学院は魔術に特化している。


 一見すれば、近接戦闘に特化しているディオム魔術のチームが有利と思われているが、防衛となれば有利になるのはメルクロス魔術学院のチームだろう。


 一概にはどちらが有利かというのは判断がし難い。


 流石に、この試合の行方はどうなるのか分からない。


 また、連続で最高三試合することになるので、早期にどちらも勝ちを決めたいだろう。


 そして、両チームが並び合うと早速コイントスによって攻撃と防衛の選択が始まる。まずはディオム魔術学院側が、選択権を獲得。


 選んだのは、攻撃側だ。


「攻撃を選んだな。予想通りだな」

「えぇ。そう見たいね」

「確かにうちの学院は近接格闘に特化していますから、当然ですわね」


 そうしてついに開始となった試合。


 俺たち三人はその試合の行方を最後まで見続けるのだった。



 ◇



「勝負あったな」

「そうね。でも、意外というか……」

「一概に近接戦闘に特化していればいい、というわけではないようですわね」



 そう。今回の試合は、どうやらメルクロス魔術学院側が間も無く勝利を収めるだろう。


 一試合目は、防衛。二試合目は攻撃。三試合目は防衛。という順番になったメルクロス魔術学院側だが、彼らは遅延魔術ディレイを巧みに使用して完全なる防御陣を構築。


 それを崩すことができなかったディオム魔術学院側の敗北はもはや自明。


 そして、残り時間が一分を切り……大きなサイレンがこちらの会場にも響き渡る。


 本戦一回戦が無事に終了。


 この試合を見ることで、非常に勉強になった。今回は事前に古城を調査することは許されなかった。どのチームもその構造を知るのは一試合目の後になる。


 俺は、手元のメモにモニターでみた構造を立体的に展開させ、それをペンで書き記しておいた。


「ねぇ、レイ。今の試合どう思うって……なにそれ? メモ書き?」

「ん? あぁ。古城の構造をメモしていたんだ」

「え……そんなことできますの?」


 と、アリアーヌがそう尋ねて来てアメリアも不思議そうな顔をしている。俺は素直に、自分の感覚を伝えることにした。


「今の試合では全ての位置が見えたわけではないが、おおよその構造は理解できた。おそらく、もう一試合を見れば完全に把握できるだろう。こればかりはシード権に感謝だな。数多くの試合を見て、準備に時間を割くことができる」


「「……」」

「どうした?」


 二人ともに、口をポカンと開けて呆然としていた。


「レイが規格外なのは知っていたけど、ここまでくるとちょっと凄いを通り越しているというか……」

「そ、そうですわね……あの断片的なモニターの情報で、そこまで立体的な構造を理解しているなんて……とんでもない空間把握能力ですわね」

「まぁ、これは師匠に色々と鍛えられたからな。活かすことができて、嬉しい限りだ」


 極東戦役の経験を経て、俺は類まれなる空間把握能力を手にした。元々それは、才能があるということで師匠が後天的に伸ばしてくれた能力でもある。


 それは俺の絶対不可侵領域アンチマテリアルフィールドという能力にも繋がっているものだ。


「さて、大体は把握できた。あとは実戦に向けて、作戦を立てていくだけだな」

「レイの作戦なら完璧ね!」

「そうですわねっ!」


 と、二人は賛辞してくれるが俺はそこで注意をする。なにも俺の意見が正しいとは限らない。俺だって、数多くの間違いをしてきたのだから。


 今後も間違いをしないという保証はない。


「いや、そうとも限らない。俺だって、数多くの間違いをしてきた。二人も、何か意見があるのなら遠慮なく言って欲しい。あくまで提案だからな」

「……そうね。分かったわ」

「分かりましたわ。レイはやっぱり、とても素晴らしい人ですわね」

「そうか?」

「えぇ。そう思いますわ」


 すると、アメリアがじっとアリアーヌの方を見つめる。それは明らかに探っているというか、詰問しているというか、何かを責めているような視線だった。


「アリアーヌ? まさか?」

「い、今のは普通のことでしょうっ! アメリアは気にし過ぎですわっ!」

「でも、レイの実家にお泊まりした時の話は詳しく聞いてないけど? 私、概要は聞いてるんだからね?」

「そ、それはっ! べ、別に何もなかったんですのよ!」

「その焦り方が怪しいんだけど……」


 その後、アメリアとアリアーヌは二人で騒ぎ始めてしまった。その会話に特に混ざることはなかったのだが、アメリアがアリアーヌを詰問しているのだけはよく分かった。


 二人は、「アリアーヌもライバルになるとか、嫌だからね……」「そ、そんなことはありませんのよっ! えぇ! 私は【戦う乙女】ですのよ!」「でも顔が赤いんだけど……?」「勘違いですわっ!」と、なにやらやりとりをしているようだった。


 一方の俺は、これからの試合について思考を潜らせる。


 確実に勝ちを拾うには、決勝までは早期に試合を決着させるべきだろう。先に二勝すればそこで勝ちとなる。しかし、1ラウンドでも取られてしまえば最後まで戦い必要が出てくる。


 それが決勝戦まで続くとなると、かなりの疲労になるだろう。間違いなく、蓄積した疲労によって負けにつながる。


 つまり予選よりも、ここから先の戦いは慎重になっていくべきだろう。


 ここまで来てしまえば、優勝を見据えるのは当然。


 だが立ちはだかるのはルーカス=フォルスト率いるチームだ。エヴィとアルバートもまた、かなりの実力がある。

 

 おそらくはかなり鍛えられたのだろう。中でもアルバートの成長は著しいものがある。魔術と近接戦闘、どちらもバランスよくこなすことができる。戦うとすれば、先にアルバートをどうにかしたいと思っている。


 だが相手もそれは分かっているはず。


 どのような試合になるのか……色々と策を巡らせるが、きっと最高の試合ができるに違いない。


 そんなことを俺は思うのだった。

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