第198話 反省と展望


 無事に第一試合が終了。


 そこから勝利の余韻に浸る間も無く、次の試合が開始となる。俺たちがカフカの森から出ていくと、中継をこの場で見ていた人たちから拍手が送られる。


 それは主に、アメリアとアリアーヌを賛辞したものだった。一方で、クラスメイトたちからはより大きな拍手が一斉に送られる。


「ホワイトー! お前すごすぎだろー!」

「おめでとう! すごい試合だったよー!」

「やばすぎだろ! ホワイト! お前は何者だよっ!」


 と、明るい声が周囲から集まってくる。それを聞いて、俺は微かに笑いながら軽く手を振るう。


「流石に周りもレイの凄さが分かってきたみたいね」

「えぇ。そうですわね」


 二人は頷きながら、そう語る。


 俺としては、今回の試合で色々と他のチームに示すことができたらいいと思っている。


 そうすれば、俺に警戒してくれるおかげでアリアーヌとアメリアが自由に動くことができるからだ。


「さて。次の試合は俺が見ておく。二人はシャワーにでも行ってくるといい」

「でも、悪いような」

「そうですわっ! 悪いですわっ!」

「しかし、汚れは気になるだろう。試合の後だ。気にすることはない。俺はすぐに円形闘技場コロッセオで次の試合を見る」

「レイがそういうなら……」

「ここはお言葉に甘えておきましょう。アメリア」


 二人とはここで別れることになった。もちろんシャワーが終わり次第合流する予定だ。今日はAリーグからGリーグまでの試合がかなり消費される予定だ。


 今後のためにも、一試合たりとも見逃すわけにはいかない。


 俺はその足で円形闘技場コロッセオに向かうと、すでに用意してもらっている席へと向かう。


「師匠。カーラさん。それに、リーゼさんも、ご無沙汰しております」

「おぉ! レイか! 早かったな!」

「次の試合もすぐに始まるので」

「それはいい心がけだな。うんうん」


 そう。俺たちは、師匠の近くに席を取ってもらっていたのだ。今後の試合を観戦する為にカーラさんに用意してもらっており、非常に助かっている。


 席に着くと、師匠が先ほどの試合のことを尋ねてくる。


「レイ。どうやら、試合はうまくいっているみたいだな」

「そうですね。しかし、流石に翠玉の庭エメラルドガーデンまでは予想していませんでしたが」

「あぁ。あれは確か、ハートネット家の令嬢か。魔術に長けているとは聞いていたが、まさか固有魔術オリジンとはな。しかし、あれは攻撃に特化しているものではない。攻略は容易だっただろう?」

「容易……とまではいいませんが、それなりに対処はしやすいものでした。それに、自分は基本的に内部インサイドコードを使用するので、それほど影響は出なかったのも大きいですね」


 試合のことを振り返っていると、その会話にリーゼさんも混ざってくる。


「レイ=ホワイト。私も見ていたよ。勝利、おめでとう」


 スッと握手を求めてくるので、彼女の薄い手をしっかりと握る。


「ありがとうございます」

「それにしても、君は試合運びが上手いね。第三拠点は、初めから捨てる作戦だったのかな?」

「はい。第一拠点と第二拠点を全て取り切れば、相手は確実に焦ります。そこで、今回は第一、第二、第四拠点を全て取り切って早期に試合を決めるつもりでした。翠玉の庭エメラルドガーデンなどの予期しない事態もありましたが、概ね試合はうまく勝利することができたと思います」


 欲を言えば、翠玉の庭エメラルドガーデンを出される前に決着をつけたかった。そもそも、あそこで翠玉の庭エメラルドガーデンを発動させる間を与えるべきではなかった。


 しかし、シャーリエ姉妹の魔術に妨げられてしまい、発動を許してしまった。


 攻撃的な固有魔術オリジンではないことが幸いして、なんとか勝利することができたが、これは今後の反省点になるだろう。


 俺としても固有魔術オリジンを使えるという想定をしていなかった、その詰めの甘さが出てしまった。


「ふふ。確かに、レイは私の弟子だからな! あれくらい当然だっ!」


 師匠は妙に上機嫌だった。会った時もずっとニコニコとしており、とても嬉しそうだった。


 しかし、すぐにその視線は鋭いものに変わる。


「しかし、レイよ。今回の試合。反省点が多いようだが、分かっているな?」

「はい。もちろんです」


 反省点はもちろん理解している。そして、師匠はその話を広げる。


「まず、拠点を全て取り切って早期に試合を決着するのはいい。だが、固有魔術オリジンを出させる余裕を与えたのはよくなかったな」

「返す言葉もありません」

「ま、お前のことだからよく分かっているだろうが、あの試合を真の意味で完封するならば、あそこで固有魔術オリジンの発動は封じておきべきだった」

「自分の失態です。シャーリエ姉妹の底力を見誤っていました。それに、魔術に長けている上流貴族の令嬢ということで、固有魔術オリジンの可能性も考慮しておくべきでした」

「そうだな」


 そこからは、師匠にさらに試合のダメ出しがされていく。


 なんだか昔を思い出して懐かしい気持ちに浸る。しかし、そこは真剣にその言葉を受け止めなければならない。


 師匠の言うとおり、先ほどの試合は反省点が多い。


 俺は現在、体内時間固定クロノスロックがない為、魔術を自由に使える。


 しかし、それはある程度自分でセーブしなければならない。ふとした拍子に、魔術領域暴走オーバーヒートが悪化する可能性もあるのだから。


 それを踏まえた上でも、あの試合は完璧に運ぶのならばもっと相手の分析に時間を割くべきだった。


 先の試合も見据えているため、わずかに意識が試合に向いていなかったのだろうか……俺もまだまだである。


 今回はそれが、悪い形で出てしまったようだ。


 そうして師匠との反省会が終わると、リーゼさんがニコリと微笑む。


「なるほど。師弟というのは、このような感じなのですね」

「ふふ。私とレイの付き合いは長いからな。それにしても、久しぶりだったな。レイと戦術について話したのは」

「そうですね。自分もあの頃を思い出したようでした」

「しかし、今回の大会。分かっているとは思うが、ルーカス=フォルストが必ず最大の障害になるだろうな」

「心得ています」

「レイはどう考えている?」


 そこで、自分の所感を述べる。


 おそらく当たるとすれば、本戦の攻城戦。そこで、チームでの戦いになれば、どのようになるのか。


 予想される展開。それを複数提示した上で、どのように攻略していくべきか。


 自分がいま考えていることを、ありのままに話した。


 すると師匠は、ふっと微笑みを浮かべる。


「なるほど。私と同じ考えだ。勝敗はきっと、そこになるだろう」

「はい。しかし、まだ予選も通過していません。今は、目の前の試合にしっかりと集中したいと思います」

「いい心がけだ」


 と、そんな話をしているとちょうど試合が始める時刻の直前。


 目の前に映るモニターには、次の試合の様子が映し出されていた。


 それと同時に、アメリアとアリアーヌも到着する。


「失礼します」


 ペコリと頭を下げると、俺の隣に座るアメリア。


 一方でアリアーヌは師匠とは初対面だったので、その場で自己紹介をする。


「アリアーヌ=オルグレン。三大貴族、オルグレン家の長女でございます」

「リディア=エインズワースだ。レイの師匠に当たる存在だ。先ほどの、試合。いいものだった」

「あ、ありがとうございます」

「それにしても……」


 じっと師匠がアリアーヌのことを見つめる。それは何かを調べているような、探っているような、そんなものだった。


「ふむ。まぁ、いいだろう」

「そ、そうですか?」


 そして視線を切ると、アリアーヌはアメリアの隣に腰を下ろす。


 次の試合が開始になる。俺たちは、それをただ集中して見つめるのだった。


 ついに始まった大規模魔術戦マギクス・ウォー


 俺たちの戦いはまだ始まったばかり。


 この先に一体何が待ち受けているのか。果たして、優勝できるのかどうか。そのことはまだ分かりはしない。


 これから試合は続いていく。


 しかし、一つ一つの試合を全力で取り組んでいく。


 そのことだけは、変わりはしなかった。

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