第184話 上流貴族のお嬢様
「おーっほっほっ!! これは私たちのチームの勝利よ!」
午後。優雅にティータイムを楽しんでいる一人の生徒。
ディオム魔術学院。ここは、三つの学院の中でも最も魔術に主眼を置いている場所だ。
そのため、他の学院よりも血統主義の貴族が多い傾向にある。
魔術こそが全て。血統こそが全て。
そのように教育され、この学院でもまた同じように序列が決定される。
三大貴族は現在は通っておらず、現在このディオム魔術学院のトップに君臨するのは……上流貴族である【ハートネット家】だ。
しかし貴族社会の序列でいえば、アルバートの【アリウム家】とクラリスの【クリーヴランド家】には劣る。
そのため、ハートネット家の人間はその二つの家の人間よりも秀でていることが求められる。
そして、そんなハートネット家の長女。
シャーロット=ハートネットは誰よりもその血統にこだわる人間に育った。
幼い頃から彼女は劣等感に苛まれてきた。それは他の上流貴族もそうだが、何よりも三大貴族に対して強いコンプレックスを抱いている。
アメリア=ローズ。
レベッカ=ブラッドリィ。
アリアーヌ=オルグレン。
昔からパーティーでよく顔を合わせているが、その三大貴族で当たり前という表情が気に入らなかった。
自分は誰よりも麗しくて、こんなにも美しく気高い。
綺麗な色素の薄い青色の髪。スタイルも抜群で、胸はしっかりと出ており腰はキュッと引き締まっている。加えて、身長も175センチと高い方だ。
だというのに、どうしてあの三人よりも下というレッテルを貼られているのか。
そんな彼女は傲慢ではあったが、才能があった。
魔術の才能が貴族の中でもトップクラス。それは三大貴族に肉薄するほどに。
だが、今年の
そんな矢先に入ってきた
彼女はすぐに、チームを組んだ。そして、現在は発表された各リーグを見て高らかに笑っているのだった。
「見なさい! ケイシー、キャシー! チーム:オルグレンがいるわ!」
「「そうでございますね。お嬢様」」
胸にわずかにかかる綺麗な青い髪を後ろに流しながら、シャーロットは喜びの声を上げる。
その後ろに控えているのは、メイドの二人。
姉である、ケイシー=シャーリエ
妹である、キャシー=シャーリエ
一卵性双生児であり、その見た目は完全に酷似している。唯一の違いといえば、ケイシーは右目のしたに泣き
身長は165センチ、胸の大きさ、体重、全体の体のバランス。さらには得意な魔術から苦手な魔術まで酷似している。
シャーリエ家は代々、ハートネット家に仕える一族である。
この三人は年齢も同じで、幼馴染ではあるが主人とメイドという一線は常に保たれていた。
「うふふふ! あのオルグレンとローズがいるなんて! でも……許せないのは……」
グシャと発表されてリーグ表を握り潰す。
Aリーグには、チーム:オルグレンとチーム:ハートネットが入っていた。その他にもチームは存在するが、シャーロットは誰よりもチーム:オルグレンに固執していた。
それは、アメリアとアリアーヌの存在もあるが……彼女はその二人よりも許せない存在があった。
「レイ=ホワイト。この存在だけは許すことはできません」
さらにギュッと紙を握り潰すと、ぽいっとそれをケイシーに向かって投げ捨てる。
「で、調査はしたの?」
「はい」
「教えなさい」
すると妹であるキャシーが前に出てきて、調べたことを伝える。
「レイ=ホワイト。
「ふ……本当にお笑いだわ。そんな存在が、魔術学院にいるなんて……」
血統を重んじるシャーロットにとって、レイの存在は入学当時から目の敵のようなものだった。
しかし、学院は違う。
大人しくしているならば、シャーロットも不快だが、何かをすることはなかった。だというのに、彼は
身の程を弁えない
今こそ、神の鉄槌を下してやろうと。
同じリーグになったからには、必ず戦いになる。
そこで三大貴族の二人を下して、さらには
こんなにも心が踊らないことはなかった。
「しかし……」
「何かありまして?」
キャシーは言い淀むが、すぐに言葉を続けた。
「レイ=ホワイト。他にも噂があるのです」
「言ってみなさい」
「まずは三大貴族の令嬢と仲が良い。加えて、あのアメリア=ローズ嬢の
「ふん。どうせ、そんなものは嘘に決まっているわ。自分を大きく見せるために、そんなことをほざいているのよ」
「そして……ちょっとカッコ良かったです」
キャシーは素直に自分の感想を述べた。
というのも、あの精悍な顔つきは実は女子の間では人気があったりするのだ。おそらく、
「……それは、本当に?」
血統を重んじるシャーロットではあるが、男性の顔を重視するのも当然。何よりも、彼女は面食いと呼ばれる部類の女性だった。
自分よりも格下の男に惚れるなんてことはありえないが、自分の下につくというのならば、飼ってやってもいい。そう思っているほどには、彼女は高飛車であった。
「はい。ねぇ、ケイシー」
「キャシーと二人で調査しましたが、お嬢様好みの顔かと。それに体つきも悪くありません。これを機会に、お嬢様が飼うのもよろしいかと」
「うふふ。それは楽しみが増えましたわねぇ……」
ニヤリと人の悪い意味を浮かべる。
大言壮語なことを言っているが、実際に今までケイシーとキャシー以外を下に従えたことなどない。
ましてや、男性に対しては免疫のないシャーロットである。
しかし、興味はある。これを機会に、レイ=ホワイトを自分のものにしてもいいと思っている。
それに、三大貴族の令嬢と仲がいい……というのは噂では聞いていた。
あの三人から彼を奪う。そのシナリオもなかなかに楽しいものだと思うと、愉悦で顔が歪む。
「お嬢様。ブサイクですよ、お顔が」
「ちょ! 主人に向かってその言葉はどうなの!?」
「申し訳ございません。つい、お口が滑ったようで」
「しかし、今のは私もなかなかにブサイクかと思いました」
淡々と答えるキャシーとケイシー。
主人とメイドという関係ではあるが、三人は生まれた時かた一緒に育ったのだ。ある意味、親友でもありこのように辛辣な言葉をメイドの二人がいうのは日常茶飯事だった。
もっとも、そんな関係をシャーロットが気に入っているもあるが。
「全く。二人は後でお仕置きね。で、勝てるの?」
「もちろん」
「お嬢様と私たち二人が揃えば、無敵です」
それは決して虚勢ではない。
ずっと一緒にいた三人は、互いのことを全て知り尽くしている。シャーロットがベッドの下にいかがわしい本を隠していることまで、把握しているほどに。
つまりは連携という一点においては、今回の大会では随一。
レイ達もすでに彼女達の存在は認知しており、警戒しているほどだ。
傲慢で高飛車ではあるが、その実力は間違いなく学生屈指。
「して、お嬢様」
「何よ?」
「そろそろ周囲の目線が厳しいのですが」
ケイシーとキャシーが交互に言葉にしたのは、実はメルクロス魔術学院の中庭に勝手にテーブルとイスを持ち込み、勝手にティータイムをしているからだ。
教師達もその愚行には呆れ果て、もはや注意もしなくなった。ただ、この学院の名物として語り継がれているものになっている。
中庭でポツンとティータイムを楽しむ上流貴族。
それが、シャーロット=ハートネットだと。
「私たちは恥ずかしいので、そろそろ失礼します」
「失礼します」
と、二人はそのままスタスタと校舎へと向かってしまう。
「ちょ!? 主人を置いて行くなんて、馬鹿なの!?」
迫る
果たして、チーム:オルグレンとチーム:ハートネットの戦いはどうなるのか。
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