第174話 見守る人たち
すでにエントリーは全て終了し、一週間後にはそれぞれの組み合わせが発表されることになっている。
もちろん各学院では、どのチームが優勝するのかという予想が始まっていた。
「レベッカ様はどこが優勝すると思います?」
生徒会室。
レベッカの婚約はまだ解消されておらず、貴族の派閥問題はまだ残っている。
そのため、以前のように他の生徒会役員がその役割をしない……ということにはなっていなかった。そこは、ディーナが他の役員の元に乗り込み、半ば強引に説得したのだ。
貴族の派閥の問題は確かにある。しかし、自分の仕事を疎かにするのは貴族としてどうなのかと。
そのように問い詰めると、まだわだかまりはあるものの、あれからは生徒会はいつものように運営されることになった。
また、最近は生徒会役員選挙が行われたが、そこでレベッカとディーナは再び生徒会役員として抜擢された。
他のメンバーは、役員選挙を最後の仕事として、辞めていくことになった。その際に、新しいメンバーには一年生も加わることになったが、そこにはアメリアが入ることに。
といっても、現在は
「それはもちろん、レイさんのところに決まっているでしょう?」
「……いや、でも他のチームもなかなかに手強いですよ?」
「いえ。レイさんのチーム以外は、ありえません」
「……そうですか」
レベッカとディーナの関係も、少しずつだが変わってきていた。
元々は二人には距離感が多少なりとも存在していたのだが、それが今やかなり近くなってきている。
レベッカもディーナも互いの意見をしっかりと言うようになった。しかしそこで、ある問題が発生しているのだ。
「ディーナさん」
「はい。なんでしょうか」
「聖歌祭りですが、女性から男性を誘うのは、はしたないでしょうか?」
少しだけ顔を赤らめながら、レベッカはそう尋ねた。
そう。問題とは、レベッカがレイのことを好きになってしまった……ということだった。
ディーナとしては、これは非常に複雑な問題である。仮に、レベッカがどこの馬の骨とも知れない男に惹かれているのならば反対していただろうが……相手がレイとなっては、彼女も反対することはなかなかに難しかった。
仮に、レベッカを任せることができる男性がいるとすれば、レイしかいない。そう思うほどに、ディーナは彼のことを評価しているのだ。
「そうですね。聖歌祭は
「そこはどうにかします」
キッパリと言い張るレベッカだが、そこには不屈の意志があった。間違いなく、彼女は時間を作り出そうとしているに違いない。
「正直言って、女性から誘うのは私も少し遠慮しますが……相手がレイとなると、難しいかも知れません」
「……ですよね」
「はい。ここははっきりと、言ったほうがいいかも知れません」
「なるほど……やっぱり、そうなりますよね」
複雑な気持ちではある。
しかし、ディーナが願っているのは何よりも、レベッカの幸せである。そのため、助言をするのは彼女としても本望だった。
「よし! では、近いうちに行動を起こします!」
「応援しています。レベッカ様」
「何を言っているんですか? ディーナさんも手伝ってください!」
「え!?」
ということで、ディーナは今後レベッカに色々と振り回されることになるのだった。
◇
「ククク……これで揃ったわね……」
「うん。そうだね」
ニヤリと微笑む彼女。
金色のツインテールを弾ませるように動かしながら、クラリスとエリサはある資料を見つめる。
それは
初めは、
その作業をしていると、クラリスも暇だから手伝う……ということで二人で出場選手について独自にまとめていた。
また初めは、その資料をレイ達にも渡そうと思ったが、今回はアルバートとエヴィ達も出場するということで誰にも渡さないことにしたのだ。
どちらかに肩入れしないと、二人で決めたのだから。
「それにしても、改めて見るとレイ達の異質さが際立つわね……」
「そうだね。レイ君たちは、珍しいよね」
二人が何に関して珍しい、と言っているのか。
それは……。
「三大貴族二人の中に、
レイ=ホワイト。
すでにエントリーした選手は、全て閲覧できるようになっている。その中でももっとも異質な存在はレイだった。
魔術学院の中では、彼は悪い意味で有名だ。
クラスメイトや友人たちは彼を認めているが、その他の人間は彼をよく知らない。そのため、
そんな彼が、オルグレン家とローズ家の長女とチームを組めば、話題になるのは当然だった。
現在は、ルーカス=フォルスト率いるチームが優勝候補筆頭とされている。アルバートとエヴィは無名の一年生ではあるが、それを考慮してもルーカスの実力は圧倒的だからだ。
その一方で、話題性でいえば間違いなく……チーム:オルグレンが一番の話題だ。
また、チーム名は代表者のファミリーネームを採用することになっている。
「レイくんたち、大丈夫かな……」
「大丈夫よ。アメリアとアリアーヌは分からないけど、あのレイよ? 全く気にしてないわよ」
「はは……それもそうだね」
苦笑いを浮かべる。
エリサの懸念は当然のものではあるが、当の本人たちはその噂をほとんど聞いていない。
三人ともに、訓練に励んでいるからだ。特にアメリアとアリアーヌは連日の訓練の疲労により、噂などを聞いている暇はない。
いかに訓練を乗り切るのか。
そのことを毎日考えているのだから。
「で、エリサは誰を応援するの?」
「それはもちろん、みんなだよ!」
「そうね。でも、決勝はお互いにぶつかるかもしれなわね」
「それは……仕方ないね」
エリサとクラリス。
二人とも、みんなに頑張って欲しいと思っている。しかし、勝敗というものは明確に残ってしまう。
どちらかが敗者、または勝者になる。
そればかりは避けようのない事実だった。
「でも他のチームも侮れないわよね」
「うん。他のチームは上級生だけで組んでいるところもあるからね」
二人で資料に目を通す。
レイたちや、アルバートたちは主に一年生で構成されているチームだがそれは珍しい。
ほとんどのチームは三年生や四年生だけで構成されている。
そこから導き出されるのは、上の学年の方が熟達している可能性があると言うことだ。確かに、一年生はそれぞれが魔術師として突出しているが……今回は団体戦である。
一人だけが、強くても意味はない。
各チームの総合力が試されるのが、この
優勝候補はチーム:フォルスト以外にもある。その中に、レイたちのチーム名はない。つまりは、世間的な評価はそう言うことなのである。
「みんな頑張って欲しいわね」
「うん! そうだねっ!」
二人が出場することはない。しかし、自分たちにできることをしよう。その思いから、二人は自分たちにできることを少しずつ進めていくのだった。
友人たちが戦い合うのは、見ていてハラハラする。
だが魔術師たるもの、切磋琢磨して成長するものだ。
だからこそ、二人は大会を心待ちにするのだった。
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