第129話 さまざまな来客
「いらっしゃいませ〜☆」
マリアの接客を終えた後、次々と知り合いの方々がやってきた。
と言うのも、二日目からは噂でさらに客の数が増えるだろうと予測されるため、知り合いの人には初日にぜひ来て欲しいと声をかけてあったのだ。
「おぉ。やっているようだな」
「やほやほ〜☆ みんな頑張ってるね〜☆」
「ここがレイのいる教室か……感慨深いな」
「……」
視界に入る四人。それは、アビーさん、キャロル、それに師匠。車椅子の後ろにはカーラさんもいた。俺はすぐに、近寄って声をかける。
「四名様でよろしいですか?」
ニコリと笑みを浮かべると、アビーさんがニヤッと笑う。
「……楽しそうだな。レイ」
俺もまた小声かつ、男性の声でそれに応える。
「……はい。機会をいただけたこと、本当に感謝しております」
「いや、いいんだ。実際のところ、リディアも楽しみにしていたようだしな」
そして四人ともに席に案内すると、師匠は周囲をキョロキョロと見始める。何か探しているのだろか。
「リディアちゃんどうしたの〜☆ そんなにキョロキョロしてさ〜☆」
「いや、レイがいないと思ってな。この時間にきて欲しいと言ったのはあいつだろうに……全く」
「レイちゃんならそこにいるじゃ〜ん☆」
「は? ばかなこと……いう……な?」
「……ま、まさか。レイ様……なのですか?」
アビーさんとキャロルは事前にこの姿を見せているので、俺が誰と言うことは把握している。一方で、師匠とカーラさんはポカンとした表情を浮かべる。
確かに、
すぐに理解できないのも無理はない。しかし、身長に変化はないので気がつくと思っていたが……。
「はい。師匠もカーラさんもこの前ぶりですね」
女性の声で話を続けるが、二人とも気がついたようだった。
「ば……ばかなっ! レイ……お前はさらに進化しているとでも言うのかっ!?」
「ふ。私の姿は自由自在。今回は清楚路線です」
「そ……そうか。いや、お前は天才だと思っているが……こっち方面でもその才能を遺憾なく発揮するとは……いや、まじで何処に向かっているんだ?」
「師匠。私の向かう先はただ一つです。みんなでこの文化祭を成功させる。それだけです。と言うことで、ご注文お願いしますっ☆」
元気よくそう声を上げると、師匠は「あ、あぁ……」と言ってまだ驚きが抜けていないようだった。
「では、『萌え萌えオムライスセット』4つですね! 少々お待ちくださいっ!」
四人ともに、『萌え萌えオムライスセット』を選択。
抜かりはない。四連続など、余裕である。
「お待たせしました〜☆」
そして左右のトレーに四人分の『萌え萌えオムライスセット』を乗せて運んでくると、それをテーブルの上に置いていく。
そして、「こほん」と一度だけ咳払いをして俺は伝家の宝刀を抜いた。
「美味しくなぁれっ! 萌え萌え、きゅ〜ん☆」
しなやかに伸びる右脚を曲げるようにして高くあげ、両手をハートの形にしてそれぞれのオムライスに俺の想いを注ぐ。すると、キャロルとアビーさんはそれを褒めてくれる。
「うわ〜☆ とっても可愛いよぉ〜☆ 流石、リリィーちゃんだねっ!」
「そうだな。さらにオムライスが美味そうになった」
一方の師匠とカーラさんは……。
「あ、あわわ。わ、私のレイは……一体どこに?」
「清楚系の女装……? むむ……閃きましたっ!」
と、師匠は呆然としており、カーラさんは何かを閃いたみたいだった。
そして四人ともにオムライスを食べると、教室を後にしていく。
その際に、俺は師匠に声をかけた。もちろん声は、周りの視線もあるので女性のままだが。
「師匠」
「……どうした」
妙に疲れている様子だが、どうせ昨晩も徹夜でもしたのだろう。
「うちのクラスはどうでしたか?」
「……楽しそうで何よりだ」
「はい。改めて、ここに来てよかったと思っております」
「ふ。そうか。レイ、三日間。頑張れよ」
「はい」
軽く手をあげると、師匠は去っていく。その後ろ姿を俺は、どこか嬉しそうに見つめる。
師匠に見せることができて良かった。俺はこのクラスでしっかりやれていると。大切な仲間と一緒に、進むことができていると。
その姿を、見せたかったのだから──。
「おお! ここがお兄ちゃんの教室かぁ……」
「僕たちは二人で〜す。案内お願いしまーす!」
次にやってきた知り合いは……なんと、我が最愛の妹であるステラだった。
それにもう一人は友達だろうか……? 今日は父さんも母さんも仕事でステラ一人で来ると言っていたが……。
そしてよく見ると、その大きめのメガネをかけた人物は……見覚えのある人だった。
「いらっしゃいませっ! ご案内しますねっ!」
近寄っていき、改めて気がつく。これは間違いなく、オリヴィア王女だった。
いつどこで、どうやってステラと知り合ったのか知らないが……妙に仲が良さそうだった。
それに俺と視線があった際に、ニヤリと不適に笑っていたのは……気のせいではないだろう。
「あの〜……」
二人をテーブル席に案内すると、ステラがもじもじとしながら尋ねてきた。
「お兄ちゃん……じゃなくて、レイ=ホワイトはいませんか?」
「……ステラ。俺だ」
妹に女装姿を見せることに抵抗はない。俺はプロだからな。
だが隣にいるオリヴィア王女がどうしても気になってしまう。しかし、どうすることもできないので素直にステラに俺の正体を明かす。
「お、お兄ちゃんっ!?」
「あぁ……こほん。まぁ、そう言う事情でして」
途中で女性の声に切り替えると、ステラは「はわわ……」と口元を押さえながら慌てている。
「お兄ちゃんは、お姉ちゃんだったの?」
「今回ばかりは……そうですね。お姉ちゃんです。リリィーお姉ちゃんと呼んでください」
「リリィーお姉ちゃん!?」
「はい」
「わーい! お兄ちゃんがお姉ちゃんになった! 私は幸せ者だねっ!」
「えぇ。そうですね」
ステラはその場で大はしゃぎだった。
流石、愛すべき我が妹。順応性は抜群である。
「ふ〜ん。レイってば、妹ちゃんと仲がいいんだね〜。僕としては意外というか、なんと言うか……」
じっと半眼で見上げ来るのはオリヴィア王女。
果たして、この人はどうしてステラと一緒だったのか。問い詰める必要がある。しかし、時間も時間。今は来客も増えてきて、先ほどのように雑談する時間は……ない。
「では、ご注文をどうぞっ!」
仕方なく、注文を取ると俺はいつものように伝家の宝刀を抜くのだった。
去り際に、「これは貸しひとつだからね?」とボソっと呟いたオリヴィア王女。
俺は冷や汗をたらしながら、二人を見送るのだった。
そして次にやってきたのは……意外な人物だった。
「お一人様ですかっ?」
「……なにをやっているんだ。冰剣……」
やってきたのはなんと……ルーカス=フォルスト。
別名、絶刀の魔術師。
長い髪を後ろで一本にまとめ、中性的な顔立ちはあの夏に見たものと同様だった。
俺の姿を一瞬で見抜いたその慧眼は、流石……と言うべきだろう。
また、どうしてこの学院に、そしてうちのクラスにやってきたのは謎だが……俺は毅然とした態度で応じる。
「……文化祭でメイドをしている最中だ」
「……そうか」
彼を席に案内すると、注文したのは『萌え萌えオムライスセット』。
もちろんここで渋ることはない。俺はプロであり、スペシャリスト。相手が誰であっても、これは全力でこなす。絶対にだ。
「美味しくなぁれっ! 萌え萌え、きゅ〜ん☆」
いつもの掛け声とポーズを決めると、ルーカスはただその様子をじっと真面目に見つめていた。
「そうか……なるほど。いや、いいと思う。うん」
ペロリとオムライスを食べ終わると、彼は颯爽と去っていく。
一体、何をしに来たのだろうか。
「あー! リリィー姉ちゃんだあっ!!」
ドンッと腰に抱きついてくるのは、ティアナ嬢だった。久しぶりだが、どうやらとても元気なそうで嬉しい限りだ。
「こら、ティアナ。礼節はあれほどしっかりしなさいと……」
その後ろからやってくるのは、ついこの前会ったばかりのアリアーヌだった。やれやれと言った様子で、ティアナ嬢を俺から引き剥がす。
今日は二人ともにお揃いで、ポニーテールにしていた。互いに同じ
「……ふふ。ティアナちゃん。お元気そうですね」
「うんっ! 元気だよっ!」
「それではご案内しますね」
「ありがとうっ! リリィーお姉ちゃん!」
可愛い。
その圧倒的な愛らしさに、心を打たれるが今は仕事に集中しなければなるまい。
アリアーヌとティアナ嬢を席に案内すると、注文するのはもちろん『萌え萌えオムライスセット』だ。
「美味しくなぁれっ! 萌え萌え、きゅ〜ん☆」
伝家の宝刀を抜く。すると、ティアナ嬢は嬉しいのか、楽しいのか、わいわいと騒ぎ始める。
「わ〜いっ! 萌え萌えきゅ〜ん!」
俺を真似てか、彼女もまたオムライスにハート型に手を形作る。とても喜んでいるようで、俺としてもやった甲斐があるというものだ。
「あ……えっと。レ……じゃない。リリィー、あなたは一体どこに向かっているんですの……?」
訝しい目で見上げてくるアリアーヌだが、もちろん毅然とした対応をみせる。
「私はプロなので」
「ぷ、プロですの?」
「スペシャリストでもあります」
「は……はぁ……」
「では、ごゆっくり☆」
アリアーヌはまだ戸惑っているようだが、ティアナ嬢と二人でオムライスを頬張り始めた。
とまぁ……色々と知り合いと出会い、最後には彼女がやってきた。
「うわぁ……繁盛していますね」
「あ! あれってレイ?」
「うわ!すごい綺麗ですねっ!」
「いえ。レベッカ様にギリギリ届かないくらいかと。えぇ」
そこにいたのは、レベッカ先輩とディーナ先輩。初日最後の接客は、この二人になりそうだった。
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