第19話 交流
「……ふっ……ふっ……!」
「ふん……! ふん……!」
夜。俺たちは自分たちの部屋でいつものように筋トレを繰り広げていた。
ポタ、ポタポタポタと汗が滴るもそれもまた一興。俺は今はスクワットをしており、徹底的に下半身を鍛えている。
ちなみにもちろん、ボクサーパンツのみを着用して。
「……よし、これで1000回だな」
「俺も終わりだぜ……! ふぅ……さて、例のアレ、いくか?」
「ふふ……そうだな」
「ふふふ……」
「ははは……」
俺とエヴィがこうして仲良くなるのは互いに必然だったのかもしれない。俺たちは入寮した初日には互いの裸を見ている。それは、お互いがおもむろに服を脱ぎ去り、筋トレを呼吸のように始めたからだ。
そして……悟る。
こいつは同じ仲間なのだと。
余計な言葉など……必要なかった。
ただそのバルクさえあれば……俺たちは語り合えるのだから。
「ククク……今日はどうしてやろうか……」
「ふふ……レイも悪い
「ははは、それもまた一興……だろ?」
「だな?」
と、ほぼ裸の男二人がキッチンにてそんな会話を繰り広げる。はっきり言って、この学院の寮は破格だ。豪華という一点に尽きるし、何よりも広い。実は5年前に改修工事が入ったとかで、まさにほぼ新品のものばかり。
もちろんそれだけではないが、この学院の人気を高めているのはその一面もあるのは疑いようのない事実だった。
そして俺たちはそんなキッチンで何をするのか……それはもちろん、プロテインの作成だ。
互いに質のいいプロテインは当たり前のように持ち込んでいる。街に行って定期的に購入もしている。
だが俺たちがそこで止まることはなかった。このプロテインにさらに何かを混ぜれば……最高の栄養補給ができるのではないか、と。
それは完全に深夜テンションでの話だったが、今こうしてその作戦が実行されようとしている。
「エヴィ。今回はこいつを混ぜる」
「な……それは、まさかッ!!?」
「そうだ……鶏胸肉だッ!!」
ペロンと冷蔵庫から取り出すのは、鶏胸肉。脂質も少ないし、何よりもたんぱく質が豊富。そして安い。学生にとって、この安さはありがたい。多くの筋肉を愛好する者にとって、これはもはやバイブルと形容しても遜色はないだろう。
「まさか……そいつを使うとは……王道……しかし、あまりにも未知数。レイ、お前は修羅の道を行くのか?」
「あぁ……何事もチャレンジだろ?」
俺はまな板を取り出して、その150グラムの鶏胸肉を包丁で丁寧に細切りにしていきもはや原型が残らないほど、ぐちゃぐちゃにしていく。その後はしっかりと熱を通して、それをプロテインの中に混ぜる。
かき混ぜ、そして俺は……味をみる。
すると……!!?
「……ん!!?」
「ど、どうだった……!?」
「これは……間違いない……不味いなッ!!!」
「あ〜やっぱりかぁ〜」
「ということで、残りはエヴィにやろう」
「え!? まじかよ!」
そう言いつつも、しっかりと俺の残した分を喉に流し込んでいく。
「ウヘェ……不味いなぁ……」
「あぁ。まぁ実際のところ、俺も無理だとは思っていた」
「ま、だよな」
「さてこの4年間で最高のプロテインを見つけようじゃないか」
「おうよ!」
ということで、俺たちの飽くなき探究心は続いていく……。
◇
休日。今日は特に用事もないので、エヴィとどこかに行こうかと思っていたが……そういえば、今日は実家にちょっと顔を出すとかで不在らしい。早朝だというのに、すでにその姿はなかった。
そうして、俺はいつものようにランニングをしていると、ちょうどばったりとエリサに出会うのだった。
「おぉ! エリサじゃないか!」
「あ……レイくん。おはよう」
「おはよう。どこかにいくのか?」
「今日は中央の図書館とか、本屋さんに行こうかなって……」
「む! それは素晴らしいな……俺も同行してもいいか?」
「え……?」
「実は暇を持て余していてな。ダメだろうか?」
「い、いや……全然ダメじゃないよ?」
「じゃあ校門の前で待ち合わせしよう。俺は戻ってシャワーを浴びるから……30分ほどでどうだろうか?」
「う、うん! 私もちょっと着替えてくるね……!」
「ん? そうなのか? その格好で行くのでは?」
「その……レイくんと出かけるから……」
「なるほど。得心がいった。では、心待ちにしていよう」
「じゃ、また後で……」
「あぁ」
あえて言葉にする必要はなかった。
俺と出かけるということで、それなりに自分の身なりに気を遣いたいということだろう。師匠にはそこらへんも教育されているので、俺はすぐに理解した。
「お……お待たせ!」
「大丈夫だ。俺も今来たところだからな」
校門に着いたのは、俺が先だった。ちょうど門の前で腕を組んでじっと待っていると、エリサがパタパタと走ってやってくる。
──ふむ……なるほど。
彼女が来ているのはシンプルなワンピースだった。確かにもう季節としてはちょうどいい頃合いだろう。それに真っ白なワンピースは彼女に本当によく似合っていた。それに加えて、髪は右耳にかけるようにして上げておりそれもまた妙に大人っぽく見える。刺している青色のピンもまた、それに一役買っている。
「エリサ」
「う、うん……」
「とても可愛いと思う。ワンピースはもちろんだが、特にその髪型がいいな。いつもは下ろしているが、偶にはそうして上げてしっかりと顔が見えるのもいいと思う」
「……あ、ありがと! そ、その……レイくんもかっこいいよ?」
「そうか? シンプルにシャツとジーンズだが」
「うん……いいと思う」
「そうか。ありがとう」
二人でそう話してとりあえずは、街に繰り出すことにした。まず目指すのは図書館だ。この王国の中央区にある王立図書館は歴史のある場所で、それこそ膨大な数の書籍がそこに並んでいる。
俺もたまに行くこともあるが、あそこはその
「エリサ、俺はここで本を読んでいる」
「うん……わかった。私も読みたい本、持ってくるね」
「あぁ」
小声でそう話して、俺はすでに入り口で手にしていた本を持って着席する。
ふと、上を見るとそこは吹き抜けになっておりこの建物の広さを改めて痛感する。
現在は午前9時。
そうして俺は隣にエリサが座る気配すら忘れて、本の世界に没頭するのだった。
「む……もうこんな時間か……」
「あ……その、どうする……?」
「食事でも行くか?」
「レイくんがいいなら……私もいいよ?」
ということで俺たちは近くの店で食事を取ることにした。店に入って席に着く。すぐに注文をすると、そのまま談笑を始めるのだった。
「エリサ、学院はどうだろうか?」
「えっとその……楽しいよ?」
「そうか。それは良かった。俺もエリサを含めて、いい学友に出会えて本当に良かったと思っている」
「私も……昔から友達がいなかったから……この学院に来る前は不安だったけど……みんなと出会えて、本当に嬉しい……よ?」
「俺もそうだな。初めは不安もあったしな……」
「え? レイくんもそう思ってたの……?」
エリサはキョトンとした顔でそう尋ねてくる。
自分のことを開示するのは……少しだけまだ戸惑いがある。でもエリサを含め、仲のいい友人には話したい気持ちがあったからこそ……話してみることにした。
「俺は学校というものに通うの初めてでな」
「え……そうなの?」
「あぁ。色々とあってな。それで、初めは楽しみであったと同時に、不安な面もあった。だがそれは杞憂だったな。こうしてエリサとも友人になれたしな」
「そ……そういってもらえると、私も嬉しい……」
「あぁ。だからこれからも、よろしく頼む」
「……うん!」
それから食事をとって、解散することになった。なんでもエリサは学院の方で、色々と用事があるらしい。
一方の俺の方はまだ暇なので、街をブラブラしようと思っていた矢先……見知った顔が目の前に現れた。
「アメリア?」
「レイ? どうしてここに?」
ちょうど馬車から降りてきたのは、アメリアだった。今日はいつもよりも、髪型も服装もしっかりとしている印象だった。言うならば、フォーマルな感じだろうか。そこから察するに、家の方で何かあったのかと推察した。
「今日は暇でな。ちょうど街に出ていたんだ」
「そうなの。私はちょっと実家にね」
「あぁ……なるほどな」
「えぇ。貴族の付き合いってやつでね。本当に嫌になるわ」
二人でそう話しながら、周囲をブラブラすることにした。なんでも、アメリアは話した気分だと……そう言っていた。
「貴族の付き合いは大変なのか?」
「そうね……三大貴族は特にねぇ〜。私も、もう結婚はどうとか言われていてね……」
「結婚か。確かに優秀な魔術師は結婚するのが早い、というよりも子どもを作るのが早いな」
「えぇ。やっぱり魔術の才能に血統が関係している側面はあるから、ね」
「そうだな。俺もそれは否定しない」
血統は確かに要素としては重要だ。しかしアメリアは、それが妙に気に入らない……という印象を受ける。
「はぁ……それに、そろそろ
「そうか……大変だな。貴族というのも」
「あ、ごめんなさい。愚痴ばっかりで……」
「いや構わない。こうして誰かに話すのも、時には重要だろう」
「……そう言ってもらえると、助かるけど……」
「学友の力になれるのなら、俺としても嬉しい限りだ」
「ふふ……」
「どうした?」
「いや……やっぱりあなたは変わらない、と思って」
「そうだろうか?」
「えぇ。そういうところ、とても好感が持てるわ」
「俺もアメリアのことは本当に好感を持っているが」
そういうと、アメリアはちらっと盗み見るようにしてこちらを見てくる。少しばかり顔が赤いのは、気のせいかもしれない。
「……そ、そう?」
「あぁ。君のように美しくて、聡明で、自分をしっかりと持った人間はそういない」
「ふ、ふーん。そうなんだ」
くるくると真っ赤な髪を弄るアメリア。
俺はそうして、いつものように思ったことを口にする。
「これは初めてあった時から思っていることだ。その評価は、変わりはしないさ」
「……そ、そうなの……それならいいけどっ!!」
アメリアはそのままなぜか走り出してしまった。
俺はそんな様子を微笑ましく眺めながら、その後を追いかけるのだった。
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