第15話 園芸部



「頼もう!」


 コンコンとドアをノックして、俺はやってきた。


 今回の場所には『園芸部』と書かれている。俺は以前から園芸には興味があった。園芸部とは植物を愛で、育てることを目的とした部活だ。しかしここは男子禁制と言わんばかりに、女子ばかり。別にそういった規約はないのだが、自然とそうなっているらしい。


 特に園芸部にはあの人がいる。


 それはレベッカ先輩だ。


 色々と極秘の調査を独自にしてみると、どうやらレベッカ先輩は同性から人気が高いらしい。そのため、彼女を囲うようにして出来ているのが今の園芸部。


 別名、花園だ。


 そこに近寄る男子などはいない。


 でも俺は入部したかった。昔から俺は植物、特に花には興味があった。まだ勉強不足なため、知識はそれほどない。でもそれはこれからしっかりと学んでいきたいと思っている。


 男子でも入部できないことはない。


 俺はこの学院に来たからには自分のやりたいことを徹底してやりたいと思っている。極東戦役を経験し、そして退役して学生になったからこそ……できることがあるのだから。



「あら? レイさんですか? 私に用事ですか?」

「いえ。入部希望です」

「えっと……その、園芸にご興味が?」

「はい」

「そうですか……まずはお話を聞きましょう」

「失礼します」



 レベッカ先輩の後を追うようにして、室内に入る。


 中には様々な植物が置いてあった。花ももちろんだが、見たことのない植物ある。あれは確か……食虫植物だったか? なるほど……非常に興味深いな。


「ではそちらに、どうぞ」

「は。失礼します」


 もちろん、中にいる女子生徒の目線はきついものだった。


 なんだこいつは? と言わんばかりの視線だ。


「それで、入部希望なのですか?」

「はい」

「園芸にご興味があるとか」

「そうですね。私はこうして懸命に生きている植物に関心があるのです。たとえどれほどひどい環境であっても……それこそ、戦場でもあっても一輪の花は存在します。私はその儚げな存在に心を打たれ、この学院では園芸部員として活動したいと考えております」

「男子部員はいませんが……大丈夫なのですか?」

「は。女子生徒の方々とコミュニケーションを取るのは苦ではありません」

「そうですか……みなさんはどうですか?」

「私は反対です!!」



 バンッ、と机を叩いて立ち上がったのは一人の女子生徒だった。茶髪のショートヘアーでいかにも活発そうな人だった。



「どうせこいつはレベッカ様が目的に決まっています」

「む……それは勘違いです。えっと……お名前は?」

「ディーナ=セラ。三年よ」

「セラ先輩。改めて、私はレベッカ先輩を暗殺し、部長の座を頂くつもりなど毛頭ありません。部長に叛逆をなすなど、もってのほかです。一新兵として、活動する所存であります」

「は? 暗殺? 部長の座?」

「目的の話ですが……?」



 キョトンとしているんで、俺はすぐに返答をする。



「んなわけないでしょ! 常識でものを語りなさい!」

「なるほど……暗殺は常識ではないと……勉強になります……」

「ふん。で、あんた。園芸は知っているの?」

「いえ。まだ浅学ですが……一応、ある程度の知識は」

「言ってみなさい」

「は。まずは道具ですね。花苗はななえに培養土にプランター。あとは薬剤、肥料など……それと、スコップ、手袋、ジョウロなどがあると便利だと書物で学びました。私としては、マーガレットが好きなのですがまだ季節ではないですよね? いやぁ……早く秋になってほしいものですねぇ……」

「ふ……ふん。ま、勉強はしているようだけど……私は仮入部で様子を見るべきだと思います!」


 そういうと、他の女子生徒もウンウンと唸っている。


「そうですね。では、レイさんの件はディーナさんにお任せしても?」

「え!? 私ですか?」

「はい。あなたの一存にいたします。彼が相応しくないと思うのなら、入部を拒否しても構いません」

「わかりました。ふん。どうせ数日で化けの皮が剥がれるに決まっているわ」

「……よろしくお願いいたします、セラ先輩」

「ふん……」


 プイッと横を向かれてしまう。


 なるほど、これが花園……か。


 男には厳しい世界。しかし俺には目的がある。あの戦場で見た花を、自分でも育ててみたい。だからこそ、頑張ろう。そう改めて誓うのだった。



 ◇



「おはようございます! セラ先輩!」

「ふん……いい心がけね。集合10分前に来るなんて」

「しかし先輩の方が早いようで。申し訳有りません」

「ふん。別に……一般人オーディナリーに気を使っているわけじゃないわ。勘違いしないでよね!」

「は。勘違いはしません」

「……なんか調子狂うのよね、あんた。ま、いいわ。これから一週間、朝と放課後にここを耕しなさい。いいこと、ちゃんと見に来るからね」

「ここを、ですか?」

「そうよ」

「なるほど。新しい庭を作ろうと計画中なのですね」

「新しくスペースを学院から貰ったからね。でも雑草は生えているし、まだ土も整っていないし、まだまだね。そこであなたに一週間以内で仕上げてほしいの」

「得心がいきました。これが入部試験、ですね」

「えぇ。でも一人でやるのよ? 道具とかは借りてもいいけど」

「は。了解しました!」

「じゃ、頑張ってね」


 最後に去り際に、「どうせ、できるわけないわ」と聞こえた。


 なるほど。ならばそれを覆させてもらおうか。


 フハハ!




 DAY 1

「まずは雑草を抜くか」


 1日目。俺は雑草を抜くことから始めた。こればかりは魔術ではどうにもできないし、俺には魔術をうまく使う技能はない。ここは地道にやっていくべきだろう。その日はひたすらに雑草を抜いた。これまた足腰を鍛えることにつながる。環境調査部の人は、今日も筋トレに励んでいるだろう。俺も、地道にやっていこう。



 DAY 2

「今日は掘るか……」


 フッと一人でほくそ笑む。俺は肩にスコップを担いでいた。ちなみにこれは、環境調査部の部長に借りた。俺が園芸部に対しての熱い想いを語ると、「流石はレイだな。こいつを使え」と気前よくいいスコップを貸してくれた。


 こうして俺は今日の早朝と放課後は一人で黙々と掘る作業続けるのだった。



 DAY 3

「うむ。いい調子だな」


 全ての土を掘り返して、あとは土台となるベースを構築して……残りはそうだな。枠取りが必要だな。これもまた、環境調査部の部長に相談した。すると、レンガ一式とセメントなども貰えた。「レイ。順調なようだな。こいつを使え」と、すでに用意してあったらしい。やはり部長は偉大だ。


 俺は書籍で学んだ通りの手順を踏む。


 まずはレンガを水に軽くつけて、その後は縁取りをスコップで描く。


「うむ……この程度だろうか」


 その後は路盤材を引いてセメントを重ねてレンガを置いていく。レンガ用のコテでセメントを伸ばしては引いていく。そしてその上にレンガを重ねて、同じ作業を続けていく。


 俺は無心になって続けた。こうなったら、やれるとこまでやろうと。



 DAY 4

「よし。完璧だ」


 終わった。昨日にはほぼ全ての作業を終えており、今日は仕上げだけだった。自分としても納得のいくものができたと思う。


 フハハ! いいものができたぞ! これなら、大丈夫かもしれない!


 さて、セラ先輩に報告を……。


 と、思った矢先にひょこっとセラ先輩が姿を見せる。


「出来たみたいね」

「見ていたのですか?」

「えぇ。ずっとね」

「なるほど。魔術を使って隠れていたのですね?」

「……! わかってたの?」

「気配はありましたから。ご心配いただき、ありがとうございます」

「べ、別に心配とかじゃないけどッ!! で……頑張ったじゃない」

「は。環境調査部の部長に道具一式と、書物をお借りして自分なりに仕上げて見ました。試験はいかがでしょうか?」

「……よ」

「は? 今なんと……?」

「だから合格よって!」

「おぉ! それはありがたいお話です」

「ふ、ふん。別にあんたがレベッカ先輩を狙ってないことは証明できてないのよ? でも、一人でよく頑張ってるなって……思って……一般人オーディナリーとか関係なというか、私もムキにあって悪かったというか……」

「なるほど……評価頂き有難うございます」

「ふん……!」


 ということで、俺は園芸部に入部できることになったらしい。そのまま怒りながらセラ先輩が去っていくとちょうど入れ替わりで、レベッカ先輩がやって来た。



「レイさん」

「レベッカ先輩。見ていたのですか?」

「えぇ。どうやら、上手くやったようですね」

「は。これから宜しくお願いします」

「私はもともと、あなたがちゃんとした動機を持っていたのは分かっていました。でも他の部員が納得いかないと、ね」

「はい。理解しているつもりです。女性部員の方が不快にならないように、気を配りたいと思います」


 そういうと、彼女はいつものようにニコリと微笑んでくれる。


「ふふ。きっとレイさんなら、できますよ。それにしても……立派なもの作りましたね」

「は。素人ですが、最大限努力はしたつもりです」

「ではここに新しい花を植えましょう。そして秋になったら、マーガレットを植えましょうね」

「はい!」



 俺の部活動への入部は、こうして二つともに成功するのだった。

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