ゆみ子さんの愛情はゆがみ過ぎている 〜とある高校生男女の日常〜

OK Saito

「愛の怪文書」

 僕の恋人はゆみ子さんという。ストレートの黒髪が美しいゆみ子さんは凛々しい顔立ちの美人で、頭が良くて、しっかり者で、でも少し抜けているというか天然なところもあって、でもそこがまた可愛いんです。


「書けたかしら」


 と言ってゆみ子さんは僕の手元を覗き込んだ。


「はい、書けました」

「では次」

「あのぉ……」

「何?」

「ゆみ子さん、これは何なんでしょうか」


 僕はなぜマクドナルドでこんな文章を書かされているのだろうか。


 今日はテスト明けの久々のデートということで意気揚々と家を出てきたのだけど、どこに行くか何をして遊ぶか全く計画を立てていなかったので「とりあえず、マクドナルドでポテトでも食べながら今日のデートプランを考えましょ」と駅前のマックを指差すゆみ子さんのご提案を「オーケー」という軽い返事で承諾した結果がこれである。


「はい続き。準備いい?」

「あ、はい」

「『しかしながら、ともかく、そんなことより何より、ゆみ子さんはとても優しい』」

「え?」

「さあ、書いて」


 しかしながら、ともかく……。僕はひと文字ひと文字レポート用紙に書き込んでいく、震える手で。


「しかしながら、ゆみ子さん、なんでこんな文章を僕に書かせるの?」

「だって……。だってここんとこ、全然デートに誘ってくれないから、高橋君もしかしたら私のこと好きじゃなくなっちゃったんじゃないかと思って」


 いや、だからってこの手法はおかしくないか。それにデートに誘えなかったのはテスト期間だったからだし。


「それでデートに誘ってくれない原因、私が優しくしないからだと思って、こうやって書いてもらってるわけ」


 いや、だから『優しい』って書かせる前に普通に優しくなればいいじゃん。


「こうして文書で『優しい』って残しておいてくれれば、私も安心できるわ」


 いや、だから嘘じゃん!


「私って優しい?」

「や、優しいです……」


 僕は彼女の言う通りの文言を書き連ねながら、今まで彼女が優しくしてくれたことがあったかどうかを考えてみた。


 結論。そんなことは一度もなかった。


 僕が1年の夏休み明けの始業式の日に遅刻しかけて全速力で自転車漕いで、前日の雨でできた水たまりで滑って転んで腕を骨折した時は、彼女は白い布で吊るされた僕の右腕を見てひとこと、「自業自得ね」とつぶやいただけだった。


 テスト期間、ほとんどそれしかしてないというくらいに一生懸命数学の問題集を解き続けていたのに赤点しか取れなかった時も、彼女は24と大きく赤で書かれた僕の解答用紙を見てひとこと、「どうしようもないわね」と言い放っただけだった。


 彼女はどうして頑なに僕に優しくないのだろうか。


「じゃあ、最後に今日の日付とあなたの名前を書き添えて。それで私にちょうだい」


 そういうとゆみ子さんは自らを礼賛し尽くさせた文書を自分の前に置き、リュックサックをゴソゴソ言わせて何かを取り出した。


「ゆみ子さん、それ何?」

「印鑑」

「ゆみ子さんの?」

「何言ってるの、『高橋』君の」


 いや、それ嘘というかもう文書偽造ですよね!?


 かくして”怪文書”は完成した。ゆみ子さんはそれをクリアファイルに丁寧に入れてから僕の目を見つめて言った。


「さて、今日は何して遊ぼうかしら」






【今日の余談】

高橋 「ねえ、印鑑どこで買ったの?」

ゆみ子「ハンコ屋さん21。象牙製よ」

高橋 「象牙!?」


【次回】

「スーパー銭湯に行く」前編

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