硝子小片寓話集
夕雪えい
01 雨音と花
家の中にいる。
雨音は遠くからしとしとと。
寝入り端に降り始めたのだ。音は切れる様子もなく、強くなるでもなく穏やかに続いている。
時折車が唸る音。それでも雨音は掻き消えることは無い。むしろ車輪の音が増して聞こえさえする雨粒のベールの不思議。
遠く田舎の祖母の家では、雨が降れば蛙がいっそうよく鳴いていた。
水が恋しいのだろうか。子供心に蛙の色々を考えたものだった。
雨音を耳に私は考える。少し目の端に溜まった水の粒を拭って。
水が恋しいのだろうか。私は彼らとは違う場所に生きているもの。恋しくはない。空から無数に、地面を打ち据えるように落ちてくる水の玉を空恐ろしく眺めることはあっても。
では?
私は今は亡き祖母のしわしわの笑顔を思い返していた。恋しいのは人なのだろう。
祖母はもういない。蛙がないていた田舎の小さな家はもうない。
しとしとと降る雨。記憶の中の何かの上に降り注ぎ、郷愁が芽を出す。花をつける。
いつのまにか、深い眠りのそこに落ちている。
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