第2話 「それが俺たち能力者だろう?」
シンリはダウトを引きずりながらしばらく歩き、人気のない路地裏に入る。
「……っ……ふぅ」
そして、掴んでいたダウトの服からようやく手を離し、ビルの裏口に置かれているゴミ箱の上に座らせて頭を引っ叩く。
『おい、さっさと起きろ』
「いで!!……ってて。なら蹴り飛ばさないでくれないかな。あぁ、また引きずってきたんだね?君のおかげで新調したスーツの裾が汚れてしまったよ」
ダウトは目を覚まし、怒ることなく蹴られた首筋と叩かれた頭をさすりながらへらへらと笑う。
「ちっ……」
そんなダウトにシンリは舌打ちを一つ鳴らし、振り上げた足を、ガン!と壁に打ち付けて視線をダウトに落とす。そして、手に持っているホワイトボードを見せる。
『お前、さっき使っていただろ?』
「んー?何のこと?」
『惚けるなよ。使っただろ、力を』
シンリはホワイトボードへと乱暴に言葉を書きなぐり、ダウトに見せる。その視線は氷のように冷たく、体の芯に突き刺さるほど鋭い。だが、そんな視線など関係なく、ダウトは表情を崩さない。
「さてはて、どうかなぁ。使った気もするし、使ってない気もするよ。いやいや、使ってないってば……って言っても君には通じないのか。はは。いやぁ、参ったね」
ダウトはあははと、軽々しく笑う。この男は反省など全くしていない。それが分かるからこそ、シンリは苛立ちを隠すことが出来ない。
『分かっているなら、やるなよ。力はむやみに使うものじゃない』
「はははっ。使うものじゃない……ね、でも。それは無理だ。分かっているだろ?君も」
ダウトは笑顔を引き剥がし、その底の見えない空虚な瞳でシンリを見つめる。
『だが……』
その言葉に、シンリはホワイトボードの上で動かしかけた手を止める。反論できるはずの言葉が、頭の中で思い浮かんでは消えていく。消しているのは、シンリ自身だ。
「一度力を認識してしまえば、もう使わずにいることなんてできない」
ダウトはシンリの手からホワイトボードをするりと抜きとる。そして、着ているスーツの裾で書きかけた文字を消し、シンリの手に返す。
「それが俺たち能力者だろう?」
シンリはホワイトボードを受け取り、文字を書く。
「力を使わないなんてできるはずなんてない。そうじゃなきゃ、組織なんてもの作らないと思わない?わざわざ能力者を集める必要なんてないじゃないか。だけれど、そうしない。それは能力者が力を制御できても抑止できないから。だから、組織を作った。そうでしょ?」
そして壁から脚を離し、ホワイトボードを見せる。
『そうかもしれないな』
「だよね。うん。まぁ、確かに力を使ったことは悪いと思ってるからさ。許してよ、シンリ」
『……わかった』
何回とこの会話をしたことだろうか。この男、ダウトはその程度で罪悪感を抱くような男ではない。それはこの数年の付き合いでシンリも分かってきていた。罪悪感を抱くようなら、ダウトはもっとまともな人間であったはずだ。
「ありがとう。シンリは優しいなぁ。俺の隣にいれるのはやっぱりシンリだけだよ」
その言葉さえ、嘘だ。媚びへつらうような気味の悪い笑顔を、シンリはいまだに受け入れられない。吐き気を催すような嘘を平気で口にするダウトとは、きっと何があっても分かり合えることはない。
シンリがこの世で最も忌み嫌うものは、嘘なのだから。
「それじゃあ、仕事をしよう」
いつのまにかダウトのペースに振り回されていたシンリは深いため息をしながら、ダウトと組んだことを毎度のように後悔した。
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